コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
(画像=fotosr52/stock.adobe.com)

(本記事は、大西 良典氏の著書『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』=扶桑社、2020年9月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

照明が暗いほど客単価が上がる

店の照明の明るさは、人の心理に大きな影響を与えます。

空間が煌々と輝いていると、人は「入りやすさ」と「安心感」を感じます。

逆に暗めだと、人は「特別感」や「高級感」を感じます。

お客さまは店内に入った瞬間、無意識に照明の明るさを感知しているので、店の照明が明るいと「ここはなんとなくリーズナブルな店」という心理になり、店の照明が暗めだと、「ここはなんとなく高級な店」という心理になるのです。

つまり、照明の明るさの違いによる心理作用は、「客単価」に影響を及ぼします。

一般に、店の照明が明るいほど、客単価が下がります。

逆に、店の照明が暗いほど、客単価は上がるのです。

たとえばファストフード店のように客単価が安価な店は、照明が1000ルクス以上で明るめになっています。

しかし、同じファストフードでも「スターバックスコーヒー」のように客単価がやや高めの店は、照明も暗めになっています。

ランチタイムに照明が明るい「マクドナルド」で100円のコーヒーを飲み、夕方に照明が暗めの「スターバックスコーヒー」でコーヒーに300円以上払っても違和感がないのは、味もさることながら、照明の違いによる心理効果があるからです。

高級レストランやホテルのメインダイニングなどは、蛍光灯のような明るい光ではなく間接照明を中心にした暗めのトーンに抑えられています。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
(画像=『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』より)

するとお客さまは「特別感」を感じて気分が高揚し、たとえコーヒー一杯3000円でも許容範囲だと感じるのです。

私がチェーン店の空間デザインをするときも、ワンコイン系の客単価が低い店の場合は照明を明るくしますが、客単価がやや高めのプレミアム系のチェーン店のデザインをするときは照明を暗めにします。

たとえば、お好み焼きチェーン店の「千房」でも、アッパー層を狙った「ぷれじでんと千房」のデザインをしたときは、スタンダードな「千房」よりも照明のトーンを落とし、趣深い陰影を感じさせる照明デザインにしました。

このように店の空間デザインを考えるときは、照明の明るさがお客さまに与える心理作用を考慮し、その店の客単価に合わせて照明計画を立てる必要があります。

店の第一印象を決めるのは「店の顔」

居抜きの物件に出店したり、既存の店を改装する際にあまり予算がかけられないときは、照明デザインを変えるだけで、店全体の印象をがらりと変えることができます。

ポイントになるのは、「店の顔」であるエントランスの照明です。

アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」によると、人の第一印象は出会って数秒で決まり、第一印象を左右する要素の55%は視覚情報です。

店の第一印象も同じです。

店のエントランスに立った瞬間、お客さまの視界を満たす「店の顔」が、お客さまの第一印象を決定づけるのです。

たとえば、エントランスにまんべんなく光が当たっているような平板なライティングだと、その店に対するお客さまの第一印象が薄くなります。

一方、エントランスが光と影のメリハリあるライティングになっていると、お客さまは外界とは異なる世界観を瞬時に察知し、「お、なんだかいい雰囲気!」と感じて店の第一印象がぐっとよくなります。

店の第一印象がいいと、お客さまの期待値や店の評価も高まります。

逆に第一印象が悪いと、それを引きずってしまい店全体の評価も下がってしまいます。

つまり、店をデザインするときは、店全体の評価につながるエントランスの照明を第一に考えることが大切なのです。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
(画像=『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』より)

照明は空間デザインに不可欠な要素ですが、既存の照明器具だけにこだわる必要はありません。たとえば、店名のネオン看板をエントランスに設置すると、それが照明の役割を果たしてくれます。

ファンタジックに発光するネオンの光によって非日常感を演出できますし、お客さまに店名を印象づけるブランディングにもなります。

前述した私の店「OLL KITCHEN」の外観には、赤いネオンを飾っています。夜道でもふわっと発光する赤いネオンが、お客さまの目を引くアクセントになることを狙っています。

窓が大きく開かれた店なら、窓から差し込む「自然光」や夜景の「イルミネーション」を店の照明として取り込む手もあります。

私が設計デザインを手掛けた「華千房恵比寿ガーデンプレイス店」は、東京の夜景を一望できるロケーションでした。

この店の魅力は都心の高層階ならではのまばゆいイルミネーションなので、窓をスクリーンに見立て、客席をひな壇のように配置したデザインにしました。

店内の照明は最小限に抑え、宝石のようなイルミネーションを借景に取り込んだのです。

この店はお好み焼きチェーン「千房」の中でもカップルがメインターゲットなのですが、庶民的なお好み焼きも、夜景を眺めながらだと特別感が出て盛り上がります。

特にクリスマスの時期にはカップルの予約でいっぱいになるそうです。また、東京の夜景をバックにスタッフが鉄板焼きを作る様子がインバウンドに大人気です。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
大西良典(おおにし よしのり)
外食チェーン店のデザイン数、日本一を誇る「職人出身の建築デザイナー」。OLL DESIGN株式会社代表取締役。1978年、兵庫県神戸市生まれ。小学2年生のときに設計士になることを決意。兵庫県立尼崎工業高校建築科に入学。高校在学中、3年間の建築現場職人を経験。高校卒業後に神戸の三大ゼネコンに入社し、21歳で建築士になる。24歳で「なか卯」の店舗システム部にヘッドハンティングされ、27歳で「すき家」をはじめとする各種外食チェーンを運営する「ゼンショー」のグループ会社に出向。2010年に独立し、OLL DESIGN株式会社を兵庫県芦屋市に設立。現在、9人の建築デザイナーを擁し、東京と中国・上海に支社を設立、国内外で店舗デザインを展開する。近年では、中国の大手コンビニチェーンやタイ、マレーシアなどのASEAN地域のほか、南米、ヨーロッパ、ドバイなど世界各国で多数のプロジェクトが進行中。毎年春には芦屋市周辺から中学生を受け入れ「社会体験プログラム」を実施。インターン生を受け入れ、建築設計分野への就職を目指す大学・専門学校生の教育支援にも力を入れている。

■デザインを担当した有名外食チェーン店
なか卯/すき家/𠮷野家/かつや/すた丼/ココス/ビッグボーイ/デンバープレミアム /牛カツ京都勝牛/千房/モスバーガー/フレッシュネスバーガー/サーティワンアイス クリーム/英國屋/まこと屋/味千ラーメン/ローソン/すかいらーくグループ/サトフ ードサービスグループ/ゼンショクグループほか多数

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