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(画像=Dzmitry/stock.adobe.com)

昨今、中小企業の経営者の高齢化が問題となっており、M&Aなどによる円滑な事業承継を実現するために、事業承継税制が整備されている。今回は、事業承継税制の仕組みや活用のポイントについて、2018年度の事業承継税制の改正における変更点も含めて説明していく。

目次

  1. 事業承継税制とはどのような制度?
    1. 中小企業の事業承継を促す税制である
    2. 事業承継税制の基本的な仕組み
    3. どんな人が利用するものか
  2. 事業承継税制の2018年度の改正の変更点
    1. 1.対象株数上限等の撤廃
    2. 2.雇用要件の見直し
    3. 3.事業承継税制の対象者拡大
    4. 4.経営環境変化に応じた税額の減免
    5. 5.相続時精算課税制度の対象拡充
  3. 事業承継税制の2018年度改正によるメリット・デメリット
    1. メリット
    2. デメリット
  4. 事業承継税制を実際に利用する場合の流れ
    1. 株式移行時の流れ
    2. 株式移行後の流れ
    3. 納税時の対応
  5. 事業承継税制のメリット・デメリット
    1. 制度のメリット
    2. 制度のデメリット
    3. 事業承継税制はどのようなケースで利用すべきか
  6. 事業承継税制は専門家に相談を
  7. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

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事業承継税制とはどのような制度?

まずは、事業承継税制について、その制度の概要について説明する。

中小企業の事業承継を促す税制である

事業承継税制とは、中小企業が事業を承継する際に、企業の自社株を後継者に移転する際にかかる相続税・贈与税が一定の条件に該当する場合、納税を猶予・免除することで事業承継を促すための制度である。

2019年度には個人事業主版の事業承継税制が新たに制定され、個人事業主の所有する特定事業資産の移転に際しても、納税の猶予や免除が担保された。

事業承継税制の基本的な仕組み

法人における事業承継税制は、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事による認定を受けた上で、一定の条件に該当する株式の贈与・遺贈が行われた場合に適用される。

発行株式総数の3分の2を上限として、贈与税は10割、相続税は8割の納税を猶予し、事業を継続してさらに次世代に株式を移転した時点で、猶予されていた税金の納税を免除するという仕組みである。

この場合、事業承継に伴う株式の移転が行われた時点での相続税・贈与税の金額を計算した上で納税を猶予し、その後の申告についても基本的にその株価によって計算される。

事業承継税制には、事後における条件が設定されており、以下の場合には、納税猶予額と合わせてその期間内の利子税の納付が必要となる。

・制度を利用してから5年以内に株式を譲渡した場合
・承継時点からの5年間の平均雇用が8割未満となった場合

5年を経過すると利子税の納付は免除されるが、納税猶予額は次世代への承継が終わるまで免除されないことにも注意が必要である。

どんな人が利用するものか

事業承継税制の利用を特に検討すべきなのは、今までの事業活動を通じて、法人の内部留保もしくは個人事業主における事業用資産の価額が多額になっており、次世代に事業を継続する際の税負担が大きく、円滑な承継が難しくなっている場合である。

一般的には、業歴が長く、内部留保や事業用資産の価格が個人資産に対して過大になっており、税金の負担が事業承継の大きな阻害要因となっている中小企業・個人事業主が利用することが多い。

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事業承継税制の2018年度の改正の変更点

事業承継税制は、2018年度に時限立法での大幅な改正があり、利用範囲が格段に向上している。以下では、事業承継税制の改正のポイントと、メリット・デメリットについて説明していく。

1.対象株数上限等の撤廃

改正前は、発行済株式総数の3分の2が対象で納税猶予割合は80%だったが、2018年度の改正によって、発行済株式総数の全てが対象となり、納税猶予割合も100%に引き上げられた。また、承継時の金銭負担がゼロでも実施可能となった。

2.雇用要件の見直し

事業承継税制を利用する前提条件として、事業承継してから5年間の雇用平均が8割以上であることが求められ、未達の場合には納税猶予分を全額納付する必要があった。しかし、2018年度の事業承継税制の改正によって、雇用条件が未達の場合にも理由報告によって納税猶予の継続を受けることができることとなった。

3.事業承継税制の対象者拡大

改正前は、先代経営者一人から後継者一人に対する贈与・相続が対象であったが、改正後は複数の先代経営者から複数の後継者(三人を上限)への贈与・相続であっても、事業承継税制の適用対象となった。

4.経営環境変化に応じた税額の減免

従前は、事業承継時の株価がその後の税額決定の基礎となっていたが、改正によって、基本的な枠組みは同一であるが、経営環境の変化などの要因により株価が変動した場合に、再計算の時点での株価が適用できることとなった。

5.相続時精算課税制度の対象拡充

相続時精算課税制度の対象が事業承継税制の利用者に限定して拡大され、納税猶予の取り消しが発生した場合の税金負担が軽減された。

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事業承継税制の2018年度改正によるメリット・デメリット

順にそれぞれ解説していこう。

メリット

事業承継税制の改正による最大のメリットは、適用者と適用範囲が拡大し、利用できるケースが格段に増えたことである。また、対象株式総数・納税猶予割合の緩和により、初期費用が必要なくなった。

事業承継税制利用後の経営環境の変化(株価の変化、雇用環境の変化)で、税制上不利になるケースの減少により早期の事業承継がやりやすくなった点も、最終的に事業承継を考えている人には大きなメリットとなる。

デメリット

事業承継制度改正の最大のデメリットは、改正内容が10年間の期間限定の特例措置という点である。2023年3月31日までに計画決定・提出し、かつ、2027年12月31日までに株式を移転完了させる必要がある。

事業承継には入念な準備が必要だが、この税制に合わせて事業承継を行うためには、限られた期間内に進める必要があるため、事前準備ができてない会社にとっては、期間限定であることを十分勘案して進める必要がある。

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事業承継税制を実際に利用する場合の流れ

以下では、実際に事業承継税制を利用する場合の流れについて、法人が贈与税の納税猶予を利用する前提として説明していく。

株式移行時の流れ

株式の移行に先立ち、まずは承継計画を策定して承認を受ける必要がある。

承継計画は、会社側が承継する後継者や承継までの経営見込みを記載した計画を作成し、認定支援機関(経済産業省所管の助言機関で税理士・中小企業診断士等が登録している)による所見を記載した上で、主たる事務所を所管する都道府県に提出する。その後に、株式の贈与・名義移転を実行する。

株式の贈与・名義移転は、通常の法的手続きに則って行うこととなる。

株式移行後の流れ

贈与が完了したら、贈与した年の翌年1月15日までに都道府県庁に認定申請を行い、認定書の交付を受ける。受領した認定証を添付した上で、贈与税の確定申告を行う。この時点で、法人の株価評価が必要となるため、平行して贈与税に関する株価の計算を行っておく必要がある。

株価の算定は相続税に規定する方法で行う必要があるため、算出に時間がかかる恐れがあるので、株式移行時に同時に検討することが必要となる。

事業承継税制の申告期限後5年間は、都道府県に「年次報告書」を、税務署に「継続届出書」を年1回提出する。申告期限後6年目以降は、税務署に対する「継続届け出書」を3年に1回提出する。

納税時の対応

株式を移行した後、最終的に先代経営者に相続が発生して相続税の申告が終わった時点で、
相続税の申告を行う。事業承継税制を受けた後継者が次世代への承継を行わずに株式を譲渡した場合、納税猶予額を納税して制度の利用が終了する。

後継者が相続等により次世代への承継を行った時点で、納税猶予分の納税が免除されることになる。

2018年度の事業承継税制の改正に伴う特例を適用していない状態で、5年間の雇用条件を満たさなくなって制度条件を満たさなくなった場合などには、納税猶予されていた税額に利子税を加えて支払う必要がある。

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事業承継税制のメリット・デメリット

事業承継税制は使い方次第で大きなメリットが得られる一方で、デメリットも存在する。ここでは、事業承継税制のメリット・デメリットと利用すべきケースについて説明する。

制度のメリット

事業承継税制の最大のメリットは、事業承継を行う際に後継者の税金の負担が大きく軽減される点である。納税猶予を受けることで、手許資金がなくとも先代から経営権を完全に受け継ぐことができ、最終的に制度の要件を満たすことで納税が免除され、税負担なく経営権を相続・承継することができる。

それ以外にも、事業承継税制を活用する状況を利用して、他の相続人と後継者に相続財産を集中させるように交渉できる点も大きなメリットであろう。

制度のデメリット

事業承継税制の大きなデメリットは、事業承継計画を事前に立てる必要があり、その計画から外れてしまったり、雇用条件に該当しなくなった場合や、途中で事業売却を行った場合などに、想定外の税負担となる可能性があることだ。

このようなリスクがあることから、事業承継計画に反する事業上の意思決定を下しにくくなり、承継の選択肢が減少するというデメリットもある。

事業承継税制はどのようなケースで利用すべきか

事業承継税制の利用に最も向いているのは、会社の内部留保額が大きく、かつ次世代の後継者がはっきりと定まっている場合である。特に、一定期間の事業の見通しがはっきりしており、資本提携や従業員規模の削減などの抜本的な事業上の意思決定をする見込みが低い場合の方が、より利用しやすい。

上記に当てはまらなくても、事業承継税制が改正されたことにより、後継者選定がある程度進んでおり、年々法人の株価が上昇している場合には、事業承継税制を利用して息子・孫などの次世代への資産移転を図ることも、節税の観点から有効である。

逆に早期のバイアウトや大幅な事業再構築を想定している場合には、事業承継税制を利用することが望ましくない場合もある。このあたりの判断は、事業承継という高度な意思決定と節税との兼ね合いとなるため、顧問税理士や事業承継分野に詳しい専門家としっかり試算を行い、ケースバイケースで判断していく必要がある。

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事業承継税制は専門家に相談を

事業承継税制は、事業承継を行う際の相続税・贈与税について大幅な納税猶予・納税免除という非常に大きなメリットのある制度であるが、その一方で、制度を利用するための条件も複雑であり、利用するためには十分な準備と計画が必要となる。

事業承継税制を活用して円滑な事業承継を実現するためには、事業承継税制に詳しい専門家の意見を参考にしながら、先代・後継者・その他の親族が一丸となって対応していくことが重要となる。

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文・村上克己(中小企業診断士)

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