
株主総会決議の種類には、普通決議、特別決議、特殊決議の3種類があるが、その中でも特別決議が最も重要である。今回は、株主総会の決議の全体像を理解したうえで、特別決議について詳細な解説を行う。
目次
- 株主総会における決議
- 株主総会の普通決議
- 株主総会の特別決議
- 特別決議とは
- 【特別決議】譲渡制限株式の買取り(会社法140条2項)
- 【特別決議】特定の株主から自己株式の取得(会社法156条1項)
- 【特別決議】全部取得条項付種類株式の取得(会社法171条1項)
- 【特別決議】募集株式等の募集事項の決定(会社法199条2項、238条2項)
- 【特別決議】募集株式の第三者割当の有利発行(会社法199条2項、309条2項5号)
- 【特別決議】新株予約権付社債の発行(会社法248条)
- 【特別決議】資本金の減少(会社法447条1項)
- 【特別決議】現物配当(会社法454条4項)
- 【特別決議】事業譲渡の承認(会社法467条)
- 【特別決議】定款変更(会社法466条)
- 【特別決議】解散(会社法471条3項)
- 【特別決議】吸収合併等(会社法783条1項、795条1項)
- 【特別決議】新設合併等(会社法804条)
- 特別決議で押さえておきたいポイント
- 拒否権について
- 書面決議について
- 特別決議に関するQ&A
- 特別決議について知り、万全の準備を
- 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

株主総会における決議
株主総会の召集時期や決議の方法など、株主総会の基本事項について解説する。
定時株主総会と臨時株主総会
株主総会とは、株主が集合して、会社の重要事項を決定する最高意思決定機関である。株式会社である以上、少なくとも1年に1回は開催される(会社法295条1項、296条1項参照)。株主総会には、定時株主総会と臨時株主総会がある。
定時株主総会は、事業年度の終了後、一定期間内に招集される株主総会のことをいう。定時株主総会では、決算の承認や事業報告、取締役の選任などが行われる。これに対して、臨時株主総会とは、必要となったときに随時招集される株主総会である。取締役の欠員による補充役員の選任などが決議される。
株主総会の決議の基本的な考え方
株主総会決議の基本的な考え方は、資本多数決である。ただし、1人1議決権が与えられるのではなく、1株1議決権が基本である。したがって、議決権付き株式を数多く所有する株主の意見が決議において有利に働く仕組みとなっている。株主総会を支配するには、株式を取得しなければならない。
株主総会の決議方法の種類
株主総会の決議方法について、株主総会が成立するために出席する株主の割合である定足数と、賛否を決議するために投じられる議決権の割合である表決数によって、普通決議、特別決議、特殊決議という3つに大別される。決議に必要な定足数に満たない場合は、たとえ株主総会を開いて議決を行ったとしても、その決議は無効となる。
会社法では、決議事項の重要性の度合いによって、必要な決議の要件に差を設けている。
株主総会の普通決議
株主総会で行われる一般的な決議は、普通決議である。
普通決議とは
株主総会の普通決議は、会社にとって基本的事項を決定するための決議である。この普通決議で議案を承認するには、議決権総数の2分の1超を有する株主が株主総会に出席し、その出席者が持つ議決権のうち2分の1超の賛成を得ることが必要となる。
普通決議の決議事項
普通決議の決議事項には、自己株式の取得、総会検査役の選任、業務財産検査役の選任、延期・続行決議、役員の選解任、会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表者の選定、会計監査人の出席要求決議、計算書類の承認、減少額が分配可能額より少ない場合の資本金の額の減少、準備金の額の減少、資本金の額の増加、準備金の額の増加、剰余金の処分、剰余金の配当、株主総会議長の選任、株主総会の議事運営に関する事項の決定などがある。
株主総会の特別決議
決議事項によっては普通決議よりも厳しい要件を必要とする決議がある。
特別決議とは
会社にとって特に重要な事項を決議する場合、普通決議よりも厳格な要件が課される決議方法が設けられており、これを特別決議、特殊決議という。
特別決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を必要とする決議である(会社法309条2項)。ただし、特別決議の定足数について、定款変更を行えば、3分の1以上の割合として定めることも可能である。また、特別決議の表決数について、定款変更を行えば、3分の2を上回る割合として定めることも可能である。
一方、特殊決議とは、議決権を行使できる株主の半数以上であって、かつ、それら株主の議決権の3分の2以上の賛成を必要とする決議である(会社法309条3項)。この他に、株主全員の同意が必要な事項もあるが、その時は株主総会を開く必要はない。
以下、特別決議の代表的な決議事項を列挙して解説する。
【特別決議】譲渡制限株式の買取り(会社法140条2項)
株式会社は、譲渡制限付株式を譲渡することについて承認するよう株主から請求を受けた場合において、譲渡の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡制限付株式を買い取らなければならない。この場合、株主総会の特別決議において、譲渡制限付株式を買い取る旨と株式会社が買い取る株式の数を定めなければならない。
【特別決議】特定の株主から自己株式の取得(会社法156条1項)
株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得するには、あらかじめ、株主総会の特別決議によって、取得する株式の数、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間(1年まで)を定めなければならない。
【特別決議】全部取得条項付種類株式の取得(会社法171条1項)
全部取得条項付種類株式(会社法108条1項7号)を発行した種類株式発行会社は、株主総会の特別決議によって、全部取得条項付種類株式の全部を取得することができる。この場合においては、株主総会の特別決議によって、交付する金銭等に関する事項、株主に対する取得対価の割当てに関する事項、株式の取得日を定めなければいけない。
【特別決議】募集株式等の募集事項の決定(会社法199条2項、238条2項)
非公開会社である株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするとき、その都度、株主総会の特別決議によって、募集株式について、募集株式の数、払込金額またはその算定方法を定めなければならない。
また、金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容、価額、募集株式と引換えにする金銭の払込み期日や期間、前号の財産の給付の期日又はその期間も決定し、株式を発行するときは増加する資本金及び資本準備金に関する事項を定めなければいけない。
ただし、募集株式の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、その理由を説明しなければならない。なお、公開会社の場合は、株主総会の特別決議ではなく、取締役会の決議によって募集事項を決定することができる。
【特別決議】募集株式の第三者割当の有利発行(会社法199条2項、309条2項5号)
募集株式について第三者割当てを行う場合、公開会社であれば、取締役会決議によって募集事項を決定することができるが、特に有利な金額によって発行する場合には、株主総会の特別決議が必要となる。
【特別決議】新株予約権付社債の発行(会社法248条)
非公開会社である株式会社において、新株予約権付社債の発行については、新株予約権の募集に関する規定が適用される。すなわち、募集株式等の募集事項の決定と同じく、新株予約権付社債を発行する際、株主総会の特別決議によって、募集事項を定めなければならない。
【特別決議】資本金の減少(会社法447条1項)
株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の特別決議によって、減少する資本金の額、減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときはその旨及び金額、効力発生日を定めなければならない。なお、資本金の減少を行う場合、その減少額は、資本金の額を超えてはならない。
【特別決議】現物配当(会社法454条4項)
株式会社はその株主に対し、剰余金の配当をする。しかし、配当財産が金銭以外の財産であるときは、株式会社は、株主総会の特別決議によって、株主に対して金銭分配請求権を与えることを定める。そのときはその旨および金銭分配請求権の行使期間を決め、一定の数未満の数の株式を有する株主に対しては、配当財産の割当てをしないこととするときは、その旨及びその数を定めなければならない。
【特別決議】事業譲渡の承認(会社法467条)
株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、事業譲渡契約の承認を受けなければならない。すなわち、事業の全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡、その子会社の株式または持分の全部、または一部の譲渡、他の会社の事業の全部の譲受けに係る事業譲渡契約の特別決議による承認である。また、事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更または解約についても、株主総会の特別決議による承認が必要とされている。
【特別決議】定款変更(会社法466条)
株式会社は、株主総会の特別決議によって、定款を変更することができる。
【特別決議】解散(会社法471条3項)
株式会社は、定款で定めた存続期間の満了、定款で定めた解散の事由の発生、株主総会の特別決議、合併による消滅、破産手続開始の決定、解散を命ずる裁判によって解散する。
【特別決議】吸収合併等(会社法783条1項、795条1項)
消滅株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。一方、存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
【特別決議】新設合併等(会社法804条)
消滅株式会社等は、株主総会の特別決議によって、新設合併契約等の承認を受けなければならない。
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特別決議で押さえておきたいポイント
特別決議を行う際に押さえておきたいポイントについて解説する。
特別決議と普通決議の決議内容を把握しておく
決議の際は、その事項が特別決議に当たるか、普通決議に当たるかを把握することが必要だ。特に特別決議で決められることは、会社法で定められている。どのような規模の会社であろうとこの点はきちんとしておかねばならない。
定足数、決議要件を必ず守る
特別決議の定足数は会社法309条2項により以下のように定められている。
「議決権の過半数を有する株主の出席が必要。ただし、定款で3分の1以上と定めた場合は、その割合以上の出席でも可」
また決議の要件は以下の通りだ。
「出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要。3分の2を上回る割合を定款で定めた場合は、その割合以上の賛成が必要」
会社によっては、株主が数名で親族や友人関係の者しかいない場合もあるかもしれない。その場合でも適当に決議を済ませることは厳禁だ。将来起こるかもしれないトラブル防止のために定足数や決議要件は守る必要がある。
拒否権について
特別決議には拒否権もある。そのためどのような人が拒否権を発動できるのかは、押さえておきたい。さらに非常に大きな権限がある「拒否権付き株式」の概要についても確認しておこう。
特別決議の拒否権とは
株主総会の特別決議は、定足数を満たし出席者の3分の2以上の賛成で承認される。しかし承認が拒否される可能性があることを忘れてはならない。承認を阻止できる権利は「拒否権」と呼ばれている。拒否権は、株式の3分の1以上を有する株主の権利だ。
例えば300人いる株主の中で200人(3分の2)が賛成したとしても株式の3分の1以上を保有する拒否権を持つ株主が反対をすれば承認されない。拒否権を持つ株主は、会社にとってそれだけ重大な存在といえる。
拒否権付き株式について
株式の3分の1を保有していなくても特別決議の拒否権を行使できる場合がある。それは「拒否権付き株式(黄金株)」を保有している場合だ。拒否権付き株式は、重要事項を否決する権利がある株式である。保有株数は関係なく拒否権付き株式を1株でも持っていれば決議の際に否決が可能だ。
なお「会社の合併」「買収」などが拒否権を発動できる重要事項となる。拒否権付き株式は、会社を守る目的で使われる場合があり事業の後継者などに譲渡されることもある。ただし拒否権付き株式には、非常に大きな権限があるため、譲渡に制限が付く場合も多い。
書面決議について
感染症拡大防止や株主の予定が合わないなどの理由で株主総会の特別決議ができないケースもあるかもしれない。そのときは「書面決議」という方法もある。ここでは、書面決議について詳しく紹介していく。
書面決議とは?
書面決議(みなし決議ともいう)とは、書面で株主総会の決議を行うことだ。「書面」とは、紙の書類だけでなくメールも含まれる。また書面決議を行う場合は、決議だけでなく株主総会も開く必要がない。なお書面決議は、特別決議の際だけでなく普通決議の場合でも実施可能である。
書面決議を行うための手続き
会社法第319条により、株主総会で書面決議を行うためには次の条件を満たさなければならない。
- 取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案した場合
- 株主全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をした場合
また書面決議が行われた際は、その日から10年間、株主総会議事録を書面または電磁的記録にして本店に保存する決まりもある。
書面決議を行う場合の注意点
上述した通り書面決議を行う場合、株主総会議事録を10年間保存することが必要だ。しかしその中には、以下の内容を盛り込むことが会社法施行規則第72条で定められているため、注意しておきたい。
- 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
- 決議事項の提案をしたものの氏名または名称
- 株主総会決議があったものとみなされた日
- 議事録作成を行った取締役の氏名
ちなみに書面決議であるが、実施するには「株主全員」の合意が必要である。
特別決議に関するQ&A
Q1.株式総会の決議方法とは?
A.大きく分けると「普通決議」「特別決議」「特殊決議」の3つ。各決議では、主に以下のような内容が決議される。
- 普通決議:「自己株式の取得」「役員の選解任」など会社の基本的な事項について
- 特別決議:「会社の解散」「定款の変更」などについて
- 特殊決議:「非公開会社への変更」などについて
特別決議や特殊決議は、普通決議よりも定足数、決議要件が厳格に定められている。
Q2.特別決議で決議されることとは?
A. 一部上述したが特別決議では以下のような内容が決議される。
- 譲渡制限株式の買取り
- 特定株主からの自己株式の取得
- 株式の併合
- 資本金の額の減少
- 定款の変更
- 事業譲渡の承認
- 会社の解散
- 吸収合併契約・吸収分割契約・株式交換契約の承認など
一般的に普通決議よりも重要な事項を決定する際に行われるため、定足数は「議決権の過半数を有する株主の出席が必要だ。ただし定款で3分の1以上と定めた場合は、その割合以上の出席でも問題ない。決議要件は「出席株主の議決権の3分の2以上」(ただしこれを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)と普通決議よりも厳しくなっている。
Q3.特別決議に拒否権はある?
A.会社を守る目的の特別決議には、拒否権が存在する。拒否権を保有するのは「株式の3分の1以上を保有する株主」もしくは、重要事項を否決する権利がある「拒否権付き株式を保有する株主」である。特に拒否権付き株を持つ株主は、1株でも保有していると決議に対して拒否できるため、会社にとって非常に重要な存在といえる。
特別決議について知り、万全の準備を
会社の方向を左右する株主総会での決議は、決議事項の重要度により課される要件が異なる。普通決議に比べて重要な決議事項の可否を決める特別決議は、定足数や必要な賛成数などより厳しい要件が課されている。特別決議で決めるのはどのような事項かを理解し、株主総会に向けて準備して臨んでほしい。
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文・岸田康雄(公認会計士・税理士)