矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

国際航空運送協会(IATA)は4月の世界の航空需要が前年同月比94.3%の減少となったと発表した。
今、世界の航空各社は重大な経営危機の最中にある。国際民間航空機関(ICAO)は「2020年1-9月期の旅客需要は前年同期比12億人減、27兆円が失われる」と試算、IATAも「世界の旅客需要が2019年の水準を回復するのは国際線が2024年、国内線は2022年」との長期予測を発表している。

影響は航空会社に止まらない。航空各社の急激な経営悪化は航空機製造業界を直撃する。三菱重工は “スペースジェット”(旧MRJ)の製造部門「三菱航空機」の開発体制を半減させるとともに欧米の営業拠点を閉鎖する。東レもボーイング社向け炭素繊維の生産能力の削減を決定、米国内事業所の従業員25%を解雇する。
地方空港の機能停止が地域経済に与える影響も深刻化しつつある。そもそも国が管理する国内25空港の航空系事業の営業収支の合計は197億円の赤字、黒字は東京国際、新千歳、小松の3港のみであり(H30年度、国交省)、運航の休止、減便の長期化はその存続を危うくする。

終息時期は未だ見えない。しかし、6月に入って以降、政府は経済再開に向けて舵を切る。人の移動を押さえ込んできた県外移動に対する自粛要請は19日に全面解除となる。また、出入国制限の緩和に向けてベトナム、タイ、オーストラリア、ニュージーランドと協議を開始、6月下旬を目途にベトナムへのビジネス渡航が再開される。
こうした動きは欧州が先行する。EUは15日以降、域内の移動制限の段階的な解除に踏み切った。スペインは7月1日から域外の観光客も受け入れると発表、エールフランスは8月までに東京、関西を含む150都市への運航を再開するという。

2018年、日本航空機開発協会は世界の航空旅客需要は「2037年までに2017年比2.4倍に拡大する」と試算した。もちろん、パンデミックは予測条件に入っていない。よって短中期的な修正は必要であろう。しかし、長期的な視点に立てば量的拡大トレンドにあることは間違いなく、むしろ、注目すべきは質的変化の行方である。
コロナ以前であれは「市場はLCCが牽引、主力機種は単通路の中型機」との見通しが業界の共通理解であった。しかし、ウイズコロナ時代における “新しい生活様式” やテレワークの常態化は航空市場の需要構造をより多様化させるはずである。
一方、地方も “移動” の質的変化を想定しておくべきだ。コロナ以前であっても「空港」は本業ベースで採算が取れていないわけであり、空港の必要性、活かし方、非航空系事業の運営方針など、未来の地域経済、地域交通(MaaS)との関係性の中でもう一度その戦略を問い直すべきであろう。

今週の “ひらめき” 視点 6.14 – 6.18
代表取締役社長 水越 孝