俳優の古村比呂さんが10月3日、都内で行われたエムスリー総研主催の「子宮頸がんワクチンに関するメディアセミナー」に登壇した。古村さんは、「再々再発した」という自身のがんの現状を明かし、17歳から27歳まで無料制度の対象となっている子宮頸がんワクチン接種への啓蒙を訴えた。
エムスリー総研代表の外海実氏は、「子宮頸がんは深刻な病気で、年間約3000人が亡くなっており、これは交通事故死亡者数とほぼ同じ。25歳から40歳の女性のがん死亡原因の第2位となっている」と指摘。一方で、子宮頸がんワクチンは予防効果が高く、80~90%の予防が可能とされていると説明。現在は、12歳から16歳が定期接種の対象で、17歳から27歳が無料接種である「キャッチアップ制度」の対象となっているという。しかし、この制度は来年3月で終了する。3回の接種が必要だとされ、問題ないとされる接種間隔から逆算すると、11月28日までに第1回目の接種を受ければ間に合うとのこと。
エムスリー総研のデータによると、「キャッチアップ世代」の接種率は50%未満で、先進国の中では極めて低い水準だという。「未接種者は約320万人おり、このままでは約6400人の命が失われる可能性がある」と、外海氏は警鐘を鳴らす。
「みんパピ!」副代表で医師の木下喬弘氏は、子宮頸がんの原因とされる「ヒトパピローマウイルス(HPV)」は、性的接触のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされている一般的なウイルスだと説明。そのうえで、「HPVワクチンは子宮頸がん予防に極めて有効で、その安全性も確認されている。子宮頸がんのほぼすべては、HPV感染が原因。現在、日本で使用されているHPVワクチンは、子宮頸がんの原因の80%以上に対して効果がある」と話す。
ワクチンの効果は、感染前の接種が最も高くなるが、性交渉経験者でも接種の意義はあると語る木下氏。「スウェーデンの研究では、ワクチン接種によって子宮頸がんのリスクが63%低下し、17歳までに接種した場合は88%も低下することが判明している」と説明した。
気になる安全性については、ワクチン接種後の「有害事象」と「副反応」を区別することが重要だとした木下氏。「複数の研究によって、ワクチン接種群と非接種群で重篤な有害事象の発生率に有意差がないことが確認されている。子宮頸がんは1万人当たり約130人が罹患(りかん)し、多くの場合子宮摘出が必要になる一方、ワクチン接種後の重篤な有害事象は1万人当たり約5人で、そのうち9割が回復する」とのエビデンスを明かした。「この重要な予防機会を逃さないよう、積極的な接種が推奨されている」と述べた。
トークセッションでは、古村さんが登壇。木下氏と子宮頸がんの疾病負担とHPVワクチンの重要性について議論した。子宮頸がん経験者の古村さんは、46歳で診断を受け、複数回の再発と治療を経験。HPVワクチンは接種していなかったというが、ワクチンの有効性には期待を寄せる。一方で、2013年6月から2022年3月までワクチンの積極的勧奨が中止されたことで、安全性への懸念が広がったことを指摘。ワクチンの有効性と安全性を回答した木下氏は、「320万人もの未接種者がいる現状は危機的」ととらえ、正しい情報提供の重要性を訴えた。
現在、6週に1度の抗がん剤治療を継続しているという古村さん。治療の効果を判定する検査では、がんは見つかっておらず、状態は良好だといい、「現在の抗がん剤は過去の治療と比べて体調への影響が少ない」とコメント。「俳優としての仕事は、コロナ禍や感染症リスクのため難しい面があるが、将来的には復帰を希望している」と話した。
また、「同じ経験をする人々との出会いや支え合いを大切にしている。病気を公表する人が増えていることで、ひとりではないという感覚も支えになっている」と、がんに対しポジティブに治療にのぞむ姿勢も見せていた。