9月24日、国が定めた被爆援護対象地域外で被爆した “被爆体験者” の一部を被爆者と認めた長崎地裁の判決に対して、長崎県と長崎市が控訴した。地裁判決は、原告44人のうち被爆者援護法の指定地域外ではあるが「黒い雨」を浴びたことが確認出来た15人を被爆者と認定、残る29人の訴えは退けた。
判決を受け、国は残された “被爆体験者” に対して被爆者と同等の医療助成を行う新たな制度を創設すると表明、その一方で過去の判例と整合しないことを理由に控訴方針を固めた。当初、県と市は判決を受け入れる旨の意向を表明していたが、結果的に国の決定に従った。これに対して原告側も「被爆者を差別すること自体が不合理である」と控訴する方針である。
原告が発した「差別」という言葉の意味は重い。戦後20年を経てなお差別と後遺症に苦しむ広島を記録した「この世界の片隅で」(山代巴編、1965年7月発行、岩波書店)に描かれた被爆の実相は、79年後の今に至るまで続いているということだ。原告に残された時間は多くない。退陣まであとわずかとは言え、広島を選挙地盤とする現首相の政治決断に期待したい。
被爆者と共有できる時間が限られる中、被爆の記憶を未来へつなぐための様々な活動が市民レベルで始まっている。広島出身の筆者の妻も仲間とともに、7歳で被爆した水江顕子氏と姉の高梨曠子氏の被爆体験記「ヒロシマ」の英語版を2020年に出版、2023年には母校ノートルダム清心中・高等学校と広島女学院高等学校の生徒による英語による朗読動画を作成した。また、同書の多言語化に取り組むとともに、銅版画作家のももせいづみ氏に参画いただき、この夏、絵本「赤い日傘」を出版した。ももせ氏とは新たなプロジェクトもスタートしている。是非一度、朗読動画(日、英)をご覧いただき、それぞれのお立場にて記憶の継承にご協力いただければ幸いです。絵本も是非どうぞ。
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今週の“ひらめき”視点 9.22 – 9.26
代表取締役社長 水越 孝