矢野経済研究所
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8月20日、国土交通省は「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」にもとづく、令和6年度のモデル事業を発表した。相続放棄により所有者が不在となっている空き家の売却、商店街の空き家・空き店舗の一体的な利活用、管理不全状態となっている火災跡地の残骸物の撤去・整地など、所有者不明土地や低未利用土地の利活用に向けて、地域や民間が一体となって推進する先進的な12事例が採択された。

国交省によると所有者が特定できない土地は24%、原因は相続登記または住所変更登記の未了で、前者が全体の63%を占める(令和2年度調査)。こうした所有者不明土地の存在は、地域の住環境の悪化、農地や森林の荒廃を招くとともに民間事業や公共事業の制約要件になる。令和3年、国も法改正に動いた。相続登記、住所変更登記が義務化され、死亡から10年以上経過した遺産相続は法定相続分等によって画一的に行えることとなった。また、相続した土地を国庫に帰属させる制度も整えた。

事態は分譲マンションでも同様である。令和4年末時点のマンションストック数は694.3万戸、うち築40年以上の物件は125.7万戸に達する(国交省、推計)。こちらについては令和2年に管理の適正化と建て替えの円滑化に関する法令が改正されているが、区分所有者の不明・不在や空き家化による管理水準の低下は深刻だ。国交省は建物と居住者という “2つの老い” に対処すべく、「マンションストック長寿化等モデル事業」等を通じて大規模修繕、長寿化改修工事、建て替え、管理水準の適正化を支援する。

従来、土地は財産そのもの、すなわち、将来収益の源泉であって、ゆえに都市計画法や農地法といった法令は無秩序な “活用” を制限するためのものであった。そう、かつては放置など想定外であった。一方、“活用” の象徴であったマンションも高齢化が進む。2040年代初頭には築40年超の分譲マンションは400万戸を越える。管理不全マンションの増加は将来の負債でしかない。“縮小してゆく日本” の中にあって、ストック資産の一定の減少は避けられない。とすれば、国土における価値の定義・体系をあらためて見直したうえで、“活用” の在り方を再構築しておく必要がある。

今週の“ひらめき”視点 8.11 – 8.22
代表取締役社長 水越 孝