6月12日、EUは中国製EVの輸入に対して現行の10%に加えて最大で38.1%の追加関税を課す暫定措置を発表した。実施は7月4日から、関税率は今後の協議を経て決定されるとされ、政府からの補助金の規模や調査への協力姿勢が問われる。中国製EVへの輸入関税は米国が25%から100%へ引き上げたばかりであり、中国当局は強く反発、対抗措置も辞さない構えである。
中国は世界の自動車輸出市場で日本を抜いて既にトップに立っている。もちろん、主役はEVだ。一方、国内市場は景気の低迷と補助金の打ち切り(2022年末)※によって成長は鈍化、急拡大した生産能力と実需とのギャップが価格競争を激化させている。今年に入って市場シェアNO1の比亜利(BYD)や米テスラでさえも値下げに追い込まれた。財務基盤の弱い新興メーカーは軒並み赤字に転落、早くも再編淘汰が始まりつつある。
国外へ溢れ出した中国製の低価格EVに身構える欧州の危機感は当然だ。とは言え、自動車産業を育成すべく外資との合弁を促してきた中国が、結果的に外資の “生産部門” に甘んじ続けた状況を打開すべく、産業政策の方向性を次世代市場(EV)に転じた判断は見事だし、自国の産業育成のための政策投資それ自体が “不当” であるとは言い難い。特定産業への財政支援は多かれ少なかれどこでもやってることであり、補助金による市場育成は言わば正攻法とも言える。問題はその “多かれ少なかれ” にある。桁違いの “規模” の大きさがもたらす影響が尋常でないということだ。
中国製EVへの課税を巡る攻防は新たな政治問題だ。ただ、世界のEV市場の6割を占める中国は外資にとって無視できず、ことEVを巡っては外資が “学ぶ” 側にある。VWは新興メーカー“小鵬汽車(シャオペン)” に出資、同社のIT技術を活用し、開発コストを抑える。ステランティスは “零跑科技(リープモーター)” と合弁会社を設立、オランダを拠点にこの秋からリープモーターブランドのEVを欧州で販売する。3月20日、スマートフォン大手“小米科技(シャオミ)”グループの小米汽車が初のEVを発売した。価格帯は5百万円前後ながら初回販売5万台を発売後27分で売り切った。設立からわずか3年、本体の現預金は2兆8千億円を超える。欧米そして日本勢が警戒すべき本当の相手はこちらである。
※2024年4月、中国当局は国内消費の刺激策の一環として、新エネルギー車(NEV)への購入補助を再開、旧型乗用車からの買い替えに対して約22万円(1万元)を助成する。
今週の“ひらめき”視点 6.9 – 6.13
代表取締役社長 水越 孝