起業して成功するには若さが必要だと思われがちだ。体力的な面を考えると、若さが有利に働くのは間違いないだろう。確かに世の成功社長の多くは若い頃に起業していることが大半である。だが、若さは成功に必要な決定的理由ではなく、結果論に過ぎない。
成功した起業家は若い時に起業している
ある記事によると、成功したビジネスマンは30歳までに起業していたという。この事実を目の当たりにすると、「やっぱり起業して成功するなら、若いうちではないとだめなのでは?」と若さを起業の条件に考えてしまう人が出てくるだろう。
だが、実はそうではない。筆者の知人に40半ばを超えて起業してうまくいった人物は何人もいる。親戚には45歳を超えて会社を立ち上げ、現在70歳を超えて年収4,000万円を謳歌している人もいるし、投資家として成功し、世界5大陸に不動産物件をいくつも所有する人もいる。「起業=若くないとだめ」というのは誤りだ。若ければ有利かというとそうでもない。
筆者はこれを「単なる結果論」と考えている。つまり、成功したビジネスマンは「若いうちに起業したパターンが多かっただけ」ということだ。
起業するような人間は我慢できない
数々の起業家を見ていて思うことは、彼らにはブレーキが存在しないブルドーザーみたいな性格だということである。
筆者もそのような性格で起業家の一人だからよく分かる。「これをやりたい」と思ったら、すぐに行動せずにはいられないのだ。だから起業するような人間はやりたいことを「もう少し年月が経ってからにしよう」と先送りになどできないのである。
筆者が起業したのは会社員の時だ。米国の大学から帰国し、外資系企業を転職しながらキャリアアップをしていたのだが、どうしても起業がしたくなって30歳の時に初めてビジネスを立ち上げた。
最初はうまく行かないことも多かったが、週末起業としてビジネスに取り組みながら徐々に売上を作り、最後は会社をやめて経営者として専念することにした。起業に際して周囲からはさんざん止められた。
「高卒ニートから、一部上場企業の社員という立場になれたのに…」
「これまで身につけた英語力や米国大学留学で専攻した専門分野を捨てるのはもったいない」
「一度やめたらもう、二度と今のような会社には就職できないよ」
など「もったいないからやめたらだめだ」と散々言われた。
だが、やりたいことをやらずして年月の経過を受け入れることなどは我慢できなかったので、最終的には周囲の静止を振り切って会社をやめてしまった。
起業するような人間は、30歳までにビジネスを立ち上げたくなり、それを我慢できない。結果的に若いうちに起業してしまうから、「起業は若いうちが有利」などと思われてしまうのだ。
中高年の起業で成功するために必要なものは「信用」
かといって中高年になると起業はもう無理なのかというとそうではない。
たとえば、ITサービスのスタートアップを立ち上げるには30歳では遅い。筆者の知人にそうしたスタートアップ経営者がいるが、彼らの多くは18歳、20歳という若さで始めている。栄枯盛衰、スピーディーなITサービスで生き残り続けるには、「失敗しても許される」「新たな知識への需要度」「純粋な体力」などが求められるので若さはどうしても必要となるだろう。
だが、ビジネスによっては中高年に有利なものがある。それは「年齢=信用」になる分野だ。たとえば講演家やビジネスライターなどがそれにあたるだろう。
筆者は自主開催のセミナー講師や、外部の企業や教育機関に呼ばれて登壇することがある。その際、必ず言われるのが「若い」ということだ。筆者は30代なので決して若すぎる年代ではないと思うのだが、セミナーの参加者は40代以降がほとんどなので「自分より10歳、20歳も若い先生」というのに違和感を覚えるのかもしれない。
時々「あなたはまだ若いから知らないだろうけど」といった助言をいただくこともある。10代の若者が講演をするのは40代以降のベテランの時により、年齢が不利になることは言うまでもないだろう。
また、ビジネス記事を執筆する上でも中高年の方が有利な局面が多い。医療や法務など専門性が深い領域であるほど、執筆者がある程度年齢を重ねていないと、信用されにくいこともあるだろう。
このように分野によるものの、ビジネスの成功には年齢が関係する要素はゼロではない。だが、決して「若くないからもう無理だ」と悲観する必要はないし、むしろその悲観的な思考こそが起業の妨げである。起業するような人間は、このような世間一般に耳を貸すことなどなく後ろを振り返るとすでにいなくなって起業してしまうような気質なのである。
文・黒坂 岳央(水菓子肥後庵代表 フルーツビジネスジャーナリスト)