相続税は払わずにすむのであればそれに越したことはないですが、いずれにせよ亡くなった方(被相続人)の財産の総額を計算しなければ何事も始まりません。
相続財産にはどのような種類があり、それぞれどのようにして評価すればよいのかを把握しておくことで、総額についてある程度目安がつくこともあるでしょう。
また、相続税の計算について具体例なシミュレーションで流れを理解しておきましょう。
相続財産に含まれるもの
被相続人の遺した財産として、被相続人名義の預貯金や不動産は把握しやすいものといえます。
これらだけで明らかに基礎控除などの控除額を超えてしまうような場合はさておき、これらだけでは多分超えないという場合は、他の財産をしっかりと調べる必要があります。
大丈夫だと高をくくって相続税の申告を怠ると、場合によっては延滞税や加算税がかかる恐れがあります。
相続税の計算対象になる財産には、以下のものがあります。
意外だと思うものも含まれているかもしれません。
相続財産
先に挙げた預貯金、不動産に加え、現金、有価証券(株式や投資信託など)、自動車などです。
現金についてはお札に名前が書いている訳ではないので誰の所有とするかは微妙なところですが、ある程度まとまった額であれば申告しておく方が無難でしょう。
有価証券については、ネット上の取引のみというケースも増えてきています(預金口座についても昨今ネット銀行があります)。
郵送等の書類も残っておらず、故人のパソコン上でしか情報を得られない場合、気づくのが遅れる可能性があります。
話が少し逸れますが、ネットのみで証券等の取引をしている方はどこの金融機関と取引があるかだけでも家族などに伝えておくことをお勧めします。
その他、価値のありそうな美術品や貴金属、ゴルフ会員権なども含まれます。
みなし相続財産
死亡保険金、生命保険契約、死亡退職金などです。
死亡保険金などについては、被相続人の死後、相続人が保険会社から受け取るものなので被相続人の財産そのものではありませんが、被相続人が保険金を支払っていた部分に対しては相続財産と「みなされる」のです。
死亡退職金は、被相続人が生前働いていた勤務先から支払われるものですが、こちらも相続財産とみなされ、一定の非課税金額を超えた部分は相続財産として計算しなければなりません。
生前贈与財産
被相続人が亡くなった時から遡って3年以内に暦年課税の方法で相続人に贈与された財産、及び3年以上前でも相続時精算課税の方法で贈与されていた財産は、相続税の対象となります。
各財産の評価の方法
以上の財産の評価額をそれぞれ以下の方法で出し、総額を計算します。
①土地
目安となるのは毎年届く、固定資産税納付通知書です。
通知書に土地の評価額が記載されているので、この額に7分の8をかけることで、相続財産としての評価額をだいたい計算することができます。
正確な計算のためには毎年7月に公表される路線価を用います。
1月に相続が開始した場合だと半年くらい待たなければなりません。
また、路線価は基準となる道路に対し長方形(正方形)で面している土地の価額を表しています。
土地の形状や状態で実際の評価額が路線価より安くなるケースも少なくありません。
②家屋
こちらも土地と同じく、固定資産税納付通知書に評価額が記載されていますが、土地と違い、記載されている固定資産税評価がそのまま相続財産の額になります。
家屋は築年数に従い価値が下がっていきます。
戸建てだとだいたい20年を過ぎた辺りで下げ止まるとされています。
③預貯金
被相続人の預金通帳を亡くなった後に記帳した際の残高で把握します。
故人が定期的に引き落としの形で支払っていたもの(年会費など)は、口座を凍結しない限り引き落とされ続けます。
相続人の一人が勝手に預金を引き出したりしないためにも、落ち着いたらなるべく早く金融機関に口座凍結の手続きをしてもらいましょう。
凍結後に最終残高を知りたい場合は、手数料がかかりますが、金融機関に残高証明書を出してもらい確認します。
④有価証券類
証券会社に、被相続人死亡時の評価(外貨や株式など)による残高証明書を発行してもらいます。
もしも故人が非上場の株式を持っていた場合は、売却して現金化し、相続財産に加える必要があります。
譲渡制限がかかっている非上場株式は、直接会社に買取りをしてもらうことになります。
なお、金融機関や証券会社への残高証明書発行については、相続人のうち1名だけで手続が可能です。
⑤保険関係
さきほど被相続人が支払っていた部分については相続財産とみなされると書きましたが、全額に対してではなく非課税部分があります。
死亡保険金の対象部分のうち、「500万円×法定相続人の数」の額は差し引くことができます(受取人が相続人の場合のみ)。
死亡保険金としての契約ではない保険契約には、今回の相続時には支払われないものもありますが、その場合でも被相続人が保険料を支払っていた部分に関してはみなし相続財産となるので注意しましょう。
金額としては、被相続人が死亡時に解約した場合であれば支払われる額となります。
保険会社に問い合わせて確認します。
もしすでに保険金の請求手続きを済ませたなどで、保険証券が手許にない場合は、保険金を受け取った後に保険会社から必ず送られてくる「支払通知書」で確認することができます。
⑥死亡退職金
こちらも死亡保険同様、非課税枠があります。
やはり受取人が相続人の場合であれば、「500万円×法定相続人の数」の額を差し引いた分が相続税の計算対象となります。
死亡退職金以外にもいわゆる退職手当金など、相続税の対象となるものはいろいろとあります。
故人が死亡したことにより何らかの支払通知(または支払い調書)などが届いた場合には、どのような種類の手当となるのかを支払元に確認しておきましょう。
⑦生前贈与
生前に個人から贈与された財産が暦年課税か相続時精算課税のどちらの方法をとっているかを確認しましょう。
生前贈与に関しては相続人ではない人(受遺者)がいる場合もあり、もらった人全員の額を把握する必要があります。
⑧その他の財産
故人の所有物についても全て相続することとなりますが、その中に美術品などの相続税の対象になるような財産があるのであれば、現在の価値について、専門家や購入先に問い合わせて調べておきましょう。
以上が主なプラスの財産です。
マイナスの財産
実際の財産総額は、プラスの財産から以下の額を差し引いた額となります。
・被相続人の債務
被相続人が個人間や金融機関で債務を負っていれば、それは返済すべきお金ですから当然にプラスの財産から差し引かれます。
なお、住宅ローンについては、故人が団体信用保険(団信)に加入していれは、残債務は団信が一括弁済するので、相続人が支払う必要はありません。
・葬式費用
故人の葬式費用についてもプラスの財産から差し引くことができます、領収書をきちんと保管しておきましょう。
以上の費用については、当然ですが相続人、あるいは財産を故人が一定の割合で遺贈するとされた者(包括受遺者)が負担した場合でなければ差し引くことはできません。
相続税の計算のしかた
相続する財産の種類と総額が分かれば、実際に相続税がいくらになるかを計算していきますが、計算にあたって、まず基礎控除額やその他の軽減を考えましょう。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算し、その額を財産総額から差し引きます。
相続人が配偶者と子供2人であれば、相続財産が4,800万円までは相続税がかかりません。
4,800万円を超えれば、超えた部分のみに課税されます。
ちなみに、もし相続人の中で相続放棄をした者がいたとしても、相続税の計算においては相続人として数えられます。
放棄した人数分だけ基礎控除額が減らされるということはありません。
相続税の税率は、各相続人の法定相続分に応ずる取得金額によって10%~55%の割合でかかってきます。
取得金額が多くなればなるほど税率は増えていきます。
法定相続分に応ずる 取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 0.1 | - |
3,000万円以下 | 0.15 | 50万円 |
5,000万円以下 | 0.2 | 200万円 |
1億円以下 | 0.3 | 700万円 |
2億円以下 | 0.4 | 1,700万円 |
3億円以下 | 0.45 | 2,700万円 |
6億円以下 | 0.5 | 4,200万円 |
6億円超 | 0.55 | 7,200万円 |
シミュレーション例
上で挙げた配偶者と子供2人が相続人で、相続財産額が6,000万円の場合を考えてみましょう。
基礎控除額の4,800万円を差し引いた課税遺産総額は1,800万円です。
法定相続分は配偶者と子供が2分の1ずつなので、配偶者が900万円、子供はそれぞれ450万円を相続することになります。
速算表に照らすと、配偶者も子供も税率10%となるので、配偶者は90万円、子供は各45万円、計180万円が相続税の総額です。
全員が法定相続分を受け取るのであれば、各相続人の納める相続税も上と同じ額ですが、そうでない場合は、相続する割合で納める相続税の額が変わります。
たとえば配偶者は相続せず、子供二人が3,000万円ずつ相続した場合なら、子供2人がそれぞれ90万円ずつ税金を納めることになります。
さまざまな控除について
配偶者が相続人であれば、相続税に関して「配偶者に対する相続税額の軽減(いわゆる配偶者控除制度)」の適用があります。
配偶者は被相続人の財産形成に寄与してきたといえることや、残された配偶者の生活を安定させるためという理由からこのような制度がとられています。
配偶者の相続財産額が、法定相続分以下であるか、法定相続分を超えた場合でも全部で1億6,000万円以内であれば相続税は一切かかりません。
この制度を利用すれば、上の例で実際にかかる相続税は子供の分、すなわち90万円のみとなります。
さらに、もし配偶者が相続財産額を全部相続するのであれば、相続税はゼロとなるのです。
もっとも、その後配偶者が亡くなれば相続人は子供だけとなり、配偶者控除の適用はないので、いずれにせよその際には相続税を納めることになります。
配偶者控除をどの程度利用するか(配偶者の相続割合をどうするか)については、相続額によっては次の相続(二次相続といいます)も含めて考える必要があります。
上手に利用することで節税できる場合があるからです。
相続税の軽減制度については、配偶者控除以外にもさまざまなものがあります。
相続人が未成年の場合は未成年控除、障害者の場合は障害者控除という仕組みがあります。
また、相続財産に土地があれば、小規模宅地等の特例が使える場合があります。
この特例は、土地の評価額を最大80%減額することができる制度なのですが、実際に特例を受けるためにはさまざまな条件があります。
国税庁のホームページに概要が載っていますが、複雑な部分もあるので、分かりにくければ専門家に尋ねてみましょう。
おわりに
相続財産の種類は多岐に渡ります。
故人が予めきちんと整理していたり、遺言書を作成していたりすれば問題ないのですが、そうでない場合、把握するのに非常に時間と手間がかかることも考えられます。
相続税の申告期限、納付期限は共に相続開始後10ヵ月以内ですが、名義変更や遺産分割協議が長引くとあっという間に期限が来てしまうかもしれません。
何かと忙しい時期になりますが、相続財産額の把握はできる限り早くから始めるようにしましょう。
(提供:相続サポートセンター)