萩原大輔さんは、大学在学中に友人3人と共に株式会社Triggerを設立しました。現在は、戦略シューティングゲーム『VALORANT』のコミュニティ大会を運営しています。日本のeスポーツ業界の発展に貢献している萩原さんに、起業において苦労した点や、今後のビジョンについて伺いました。
知識がないところからeスポーツ業界に参入
私は大学4年生の時に、株式会社Triggerを設立しました。設立メンバーは私を含めた3人で、現在も共に運営しています。このうち1人は幼なじみで、幼稚園に入る前に近所の公園で母親たちが交流していたころからの長い付き合いです。もう1人はこの幼なじみの紹介からつながりました。
当初はeスポーツチームの運営も手掛けていましたが、その事業はすでに売却し、現在は、アメリカ発祥の戦略シューティングゲーム『VALORANT』の大会運営に力を入れています。
このゲームは、一般にFPS(First-Person Shooter)ジャンルに分類され、5人対5人で銃撃戦を行います。私たちは『AIM杯』という大会を月に1〜2回の頻度で開催していて、一般参加者からプロチームまで、幅広い層を対象にしています。
当初3人で会社を立ち上げたときには、eスポーツやゲームの大会運営をすることを目的としていた訳ではありません。漠然と会社を立ち上げたのですが、「コロナ禍の影響で需要が伸びているのでは」と、eラーニング市場に着目しました。しかし、市場の範囲があまりにも広すぎたことで、そのアイデアは断念しました。
その頃、eスポーツ業界が急速に伸びていたので、若さの勢いもあって参入することに。スタート時点では、私たち3人はeスポーツについてほとんど知識がない状態でした。
会社員を経験せず、社会の厳しさを痛感
大学を卒業した際、私は就職する選択肢は考えていませんでした。もし会社の経営がうまくいかなくても中途採用から就職する道もありますし、「今しか会社を立ち上げるタイミングがない」と思って頑張ることにしました。
私は自分の性格をよく理解しており、一度会社に入ると収入が安定して居心地の良さに慣れてしまい、それを手放してまで起業することはないだろうと考えていました。
そうして会社を立ち上げて社会へ出ましたが、実際に会社員として働いた経験がないため、社会のルールがわからず苦労した点は多々あります。実際に会社員にはなりませんでしたが、なりたいと思ったことは正直あります。
起業していると仕事をやるのもやらないのも自分たち次第ですが、休みなく働いているのでストレスに感じることもあります。行動がすぐに結果へ直結するわけではないので、安定した収入がある会社員を羨ましく思うこともありました。定時が決まっている訳ではないので、常に自己管理を徹底しなければなりません。
営業活動においても苦労は絶えなかったです。通常、会社であれば先輩が営業のコツを教えてくれるものですが、私たちはゼロから立ち上げたため、自社のアピールポイントを伝えることにも悪戦苦闘しました。提案内容が、目に見える形がない「大会のスポンサー募集」だったので、eスポーツに馴染みのない世代に説明するのは困難を極めました。
起業する時に私自身は親から反対されることはなく、他の2人も特に何も言われていませんでした。「やりたいことをやりなさい」という教育スタイルで、ネガティブな発言を受けることはありませんでした。ただし、ここまでに収益が出なかったら今後の方針を検討しようと、3人で話し合って期限を決めていました。
eスポーツ後進国の日本を盛り上げる
株式会社Triggerの売りのひとつは、高いレベルのプロチームが参加する大規模な大会を開催している点です。そういったプロチームの人たちと試合する経験ができる仕組みがあるのも強みです。
また、初心者だけの大会もあるので、どなたでも気軽に参加できます。初心者であっても、自分のプレイに実況や解説がつくことは嬉しい体験となるでしょう。YouTubeでの配信も行っており、参加者のモチベーション向上につながっています。
株式会社Triggerと私個人のビジョンは一致していて、それはオフラインでの大規模な大会を開催することです。コロナ禍に立ち上げた事業なので、緊急事態宣言下ではオフラインの大会開催が禁止されるなどの厳しい状況に直面しました。今後はゲームのジャンルに囚われず、幅広いイベントを展開していく予定です。
また、eスポーツの認知拡大も目標のひとつで、若者だけでなく年配の方々にもeスポーツの魅力を知ってほしいと考えています。日本は任天堂をはじめとするゲーム産業で世界をリードしていますが、eスポーツ分野では遅れをとっているのが現状です。この分野の活性化に貢献し、日本のeスポーツを盛り上げていきたいです。
将来的には、運営する大会の種類を2〜3つ増やし、株式会社Triggerがゲームやeスポーツ大会の運営で最初に思い浮かぶ企業になることを目指しています。ライトユーザーからヘビーユーザーまで幅広い層を取り込み、コミュニティをさらに拡張していきたいと考えています。