インドネシアでM&Aをする難しさ
ここまでインドネシアでのクロスボーダーM&Aのメリットを述べましたが、次は難しさについても触れたいと思います。 まだ色々と整備がされていない側面がある国でもあるので、日本の常識では驚くような難しさが存在するのも事実です。
法令が変わりやすい
インドネシアは、法律の変更が本当によくある国です。 M&Aに関連が深い法律では2020年11月に「雇用創出オムニバス法」※4という法律が施行されました。 それ以降も細かく法律が変更されており、常に最新の法令をウォッチする必要があります。自力で最新の法令を確認するということには限界がありますので、この点については専門家の力を借りることが必須です。 ※4 参考: 雇用創出オムニバス法案が可決、企業活動への影響必至(インドネシア)(JETRO ビジネス短信)
二重帳簿・複数帳簿
インドネシアでは、いわゆる「二重帳簿」による問題も散見されます。 具体的には、実態の帳簿・銀行提出用の帳簿・税務申告用の帳簿の3種類の帳簿を作成しているケースが多く、二重どころか三重帳簿なのです。 インドネシアのほかにもASEAN主要国ではしばしば見受けられる問題ですが、特にインドネシアでは、M&Aを検討するうえで避けて通れない問題の一つと言えます。 なお、複数の帳簿があることで生じる主要なリスクとしては、下記の2点が挙げられます。
- 企業の実態の把握が難しい
- 税務申告の不足による簿外債務のリスク
どちらも、対象会社とのコミュニケーションで細かく確認をすることが必要となり、いかに対象会社と信頼関係を築き、詳細な情報を引き出すかがカギです。税務申告の不足は、M&Aを検討するうえでの税務デューデリジェンスで明確になるのですが、デューデリジェンスまで進めておきながら検討を中止するとなるとそれまでの検討コストが無駄になります。そのため予めしっかり把握をしておくことと、簿外債務の影響を受けないように契約条項に事前に盛り込むことが肝要です。
申請等の不備
インドネシアの中小企業では法令上必要な行政登録や申請、報告がされていないケースが多々あります。 具体的には雇用状況の報告や土地の建設権(HGB)の設定、KBLIコード(事業目的コード)の設定です。
雇用状況の報告
インドネシアでは、雇用主が「雇用状況報告書」の提出が必要です。 この報告書の提出が漏れていた場合、過去分を修正ができないケースがあります。「雇用状況報告書」については、提出の有無を対象会社に確認し、もし漏れているような場合は、出資の決定までには報告体制をしっかりと整えることが必要です。 その過程では、過去の不備に対する訴求をされる可能性もあるため、対応は対象会社と十分な協議が必要です。
土地の建設権(HGB)、KBLIコード(事業目的コード)
土地の建設権については、インドネシアでは企業は土地を保有することができないものの、建物を建築して所有することはできます。 この建物の建築と所有のために、建設権(HGB)が必要となります。KBLIコード(事業目的コード)については、本来、インドネシアで事業を行う際に必要な事業ライセンスなのですが、それが無いまま企業活動が行われているケースがよくあります。
どちらも、M&A後外資企業となり運営を行っていくうえでも必ず必要なので、M&A実行までにすべて揃えておくための手続きや交渉が必須となります。