目次
- 同級生や先輩、後輩が集まって創業、10数年で年商10倍に
- 「企業の成長を支えたのは自社への投資」。設備革新、社員のスキルアップ、ICT化を図ってきた
- ICT化は現場作業から現場事務、総務部門すべてで進む
- 自社で制作できるホームページのおかげで、スーパーゼネコンから大きな仕事が受注できた
- 自社で手直しできるので思いを込めた文章に書き直したり更新情報を反映した会社案内パンフレットもその場で印刷できる
- ノーコードアプリで作成したソフトをクラウド上で様々に連携、どこでも誰でも操作できるので、子どもが病気の時は在宅勤務も可能に
- ノーコードアプリに通知機能があるので資格や車検等の期限切れなどのうっかりミスを防げる
- 足場職人は現場の花形。建設工事を足元で支えている
- SDGsにつながる「持続」への貢献。国連の行動計画に参加
- 「今あるものを良好な状態で次世代へ」。今後も続く果敢な挑戦
「遊び仲間」で始めた作業員派遣業から出発し、わずか10余年で大手ゼネコンから名指しで橋脚補修工事、仮設足場工事の請負依頼がくる企業に成長した。株式会社エイチ(小野裕太代表取締役)は人のつながりと技術の蓄積を強みとする。そして積極的なICT化でもう一つの強みを加えようとしている。(TOP写真は水面上に組まれた吊足場。現場の形状によりさまざまな足場が必要となる)
同級生や先輩、後輩が集まって創業、10数年で年商10倍に
「小野社長と私は小学校以来の幼なじみで、会社は同級生6人が中心になって立ち上げました」。千田英治専務取締役が話す。株式会社エイチはその6人と遊び仲間の先輩後輩約20人で2011年に設立した。土木建設工事で組む仮設足場工事が中心だったが、橋梁(きょうりょう)、ダム、トンネルの補修・補強工事や土木工事、様々な施設が集まるプラント工場などでの設備工事、公共施設や商業ビルの建設工事などにも広がり、今や年商約18億円と、創業時の10倍に拡大。確かな仕事ぶりで全国の大手ゼネコンなどから名指しで仕事の依頼が入り、「営業の必要がないくらい」という勢いだ。
「企業の成長を支えたのは自社への投資」。設備革新、社員のスキルアップ、ICT化を図ってきた
その発展を支えたのは「自社への投資です」と千田専務はいう。次世代型足場資材や先進ユンボなどの工事車両の購入や社員の技術向上への投資なのだという。
建設工事は細かい分業で成り立っている。元請け、下請けといった分担だけでなく、高所で作業する鳶(とび)、鉄筋コンクリート内の鉄筋を組む鉄筋工、外壁塗装・防水工事の塗装工、配管工、クレーンを操縦する重機運転士など、様々な専門職種がそれぞれ分業している。施工主側は工事の進捗に合わせてそれらを必要な時期に必要な数だけ確保しなければならない。
例えば、ビルなどのコンクリート建造物の補修工事でも、断面修復とひび割れ、炭素繊維張りといった作業は個別のプロが担う。それを、エイチは「自社でさまざまな専門家をそろえているので必要な時に調達できないということがまずない」(千田専務)。技術力の面でも社員の資格取得を支援して、一級とび技能士や土木施工管理士、建設機械施工技士など、現場で働く社員全員が有資格者だ。「他社が1千万円を投資に回しているとしたら、うちは2、3億円を投資に充てています。おかげで自社調達の分、工事コストを安く抑えられています」と千田専務は話す。
ICT化は現場作業から現場事務、総務部門すべてで進む
そして、こうした投資はICT化へも向けられている。足場の図面を3Dで描ける3D-CADや写真撮影するだけで正確な測量ができる写真計測図化システムなどのほか、現場関連の事務作業でも建設工事積算ソフトや土木工事施工管理システムなどを導入しており、それらが連動して効率を大きく向上させている。
例えば、3D-CADで3D図面を描くことで、現場の形状が一目瞭然でわかる。従来の2D図面だと、足場を組んでいったら庇(ひさし)にあたってしまったといったミスもあったが、それを防げるようになった。橋梁補強工事などでも、従来は橋梁に穴を明けて指金や水平器を差し込んで手仕事で計測していたのが、写真計測図化システムを使うと、特殊カメラで扇状に撮影するだけでいい。積算ソフトと施工管理システムを連動させたことで、設計図から自動で材料費、機材費、人件費などの経費を積算でき、かつ、工事の進捗状況に合わせて、それぞれの段階での経費の推移を把握できるようになった。
こうした現場関連の作業がパソコンさえあればどこでも操作できるようになったのも、残業の削減などにつながっている。
自社で制作できるホームページのおかげで、スーパーゼネコンから大きな仕事が受注できた
さらに、意外に大きなメリットがあったと、千田専務が挙げたのが2021年に総務部門で導入したWebサイト作成サービス。このソフトでホームページを作成したところ、ホームページから問い合わせや注文が頻繁に入るようになった。
いろいろな問い合わせを含めると1日1通は来るという。スーパーゼネコンから橋の補強工事の依頼がホームページ経由で入ったこともある。突貫工事で3ヶ月程度の作業だったが、労務費だけで1億円という利益率の高い仕事になった。
自社で手直しできるので思いを込めた文章に書き直したり更新情報を反映した会社案内パンフレットもその場で印刷できる
このWebサイト作成サ―ビスは自社で簡単に手直しできるのも便利だ。有資格者が増えた時や実績紹介のための工事写真を新しくする時、「代表者あいさつ」も当初は外部で作成してもらっていたが、自社で制作することで、自分たちの思いを込めた文章に変えることができた。
また、会社案内のパンフレットもホームページから必要な部分をマニュアルに沿って抜き出すだけで冊子となって複合機から出てくるので、必要な時に必要な部数を印刷できる。「業者に頼むと、500部単位の注文となるので、1年か2年に1回しか更新できず、納期に時間がかかるため明日必要という時に間に合わなかったこともある」(千田専務)
名刺もマニュアルに従って好きなようにデザインできるので、社員がそれぞれ自分で作っている。これらの業務が自社内で可能となったおかげで、両方の経費は10分の1程度に削減された。
ノーコードアプリで作成したソフトをクラウド上で様々に連携、どこでも誰でも操作できるので、子どもが病気の時は在宅勤務も可能に
また、プログラマーなどの専門知識がなくてもソフトウェアをつくれるノーコードアプリの導入も効果が大きかった。作成したソフトでは車両管理や工事台帳、日報、作業員名簿、資格管理などを一つの画面で見ることができ、クラウドでつながっているので、どこでも誰でも見たり入力したりすることができる。
このソフトで工事台帳と日報を紐づけできた。工事台帳は発注者、工事場所、担当者、主任技術者、工期のデータや発注書をもらっているか、契約金に対しいつ請求したかなどが入っていて、日報はどの工事現場にいつ誰が入ったかを記録している。このため双方が連動することで、経費がいくらかかって、いくら利益が出ているかリアルタイムで把握できる。
以前は、すべてエクセルで管理していて、それぞれが独立した書類。請求金額などはいくら足すいくら足す……と計算する形で、計算式を埋め込んで自動計算するのだが、その書類を作った人以外が触って、うっかり計算式を消してしまい、全体がぐちゃぐちゃになってしまったこともある。
「今は誰でも使えるので、いろんな作業を分業できるようになった。どこでもできるので、子どもの病気などのため自宅にいなければならない時でも仕事ができる」と、総務部門で10年勤務する白神祐子さんはこのソフトの効果を語る。
ノーコードアプリに通知機能があるので資格や車検等の期限切れなどのうっかりミスを防げる
「もうひとつ、通知機能がついているのもありがたいですね」と白神さん。例えば、社員が取得している資格は定期的に更新を求められ、時期が過ぎると失効したりするが、今は誰の更新時期が来ているか、指定したメールに通知される。50台以上ある車両も車検時期やオイル交換のタイミングを事前に通知してくれるので安心だという。
足場職人は現場の花形。建設工事を足元で支えている
エイチのメイン業務である仮設足場工事と橋梁補修・補強工事は、どちらも工事が完成すると、見えなくなる。足場は取り払われるし、補修・補強工事はちょっと見ただけではわからない。地上高くそびえる建物や橋といった建設工事の華々しさの陰に隠れた裏方だ。
しかし実は、足場を組む鳶職人は「現場の花形」と言われる。見上げるばかりの高い場所でさっそうと働く姿は江戸時代からあこがれの的だった。今も、足場は工事の最初に組まれ最後に取り払われる、現場で一番重要なポジションだ。「いい足場がついていると、いい建物を建てられる」といわれ、いい足場職人を使っていると、ゼネコンも鼻が高い。
足場には、くさび緊結式足場、枠組足場、単管足場、吊足場など、10種類以上ある。単純な平面に組むだけでなく、高低差のある地面、湾曲した建築物などのほか、川の上など地面がない現場もある。さらに、工事の進捗に合わせて建造物の形状が変わり、その都度複雑に組み直していく。
「建物との間隔にしてもいろいろで、例えば型枠工事の時にはこれくらい、と適切な間隔がある。うちには型枠職人から鳶職人になった社員がいるので、その人に聞いて、作業しやすい間隔で足場を組める。私たちは、建設作業をする人たちの安全、安心を足元で支えている」(千田専務)
SDGsにつながる「持続」への貢献。国連の行動計画に参加
橋梁の補修・補強工事は「今あるものを良好な状態で次世代へと引き継ぐ」ための重要な仕事だという。この「持続」はそのまま国連が推進しているSDGs(持続可能な開発目標)とつながる。エイチはSDGs宣言を掲げ、「人間、地球及び繁栄のための行動計画」達成への努力を約束している。
週休2日制やクラウド活用などで、長時間労働を削減、定期的メンテナンスによる持続可能な街づくりに尽力するなどしている。「ジェンダー平等の実現」でも、女性の設計士を採用、2024年には現場作業でも女性社員を登用する予定だ。
「ものは壊れます。それを直す人が必要なのに若い人が建設業に入ってこない。若い人が担わないと日本という国がダメになってしまう」。千田専務は建設業がいい職場だということをわかってもらうために何をしたらいいか、考えている。
「今あるものを良好な状態で次世代へ」。今後も続く果敢な挑戦
「工事台帳のデータを会計ソフトに直接送りたい」「クラウドを活用することで紙の請求書をなくせる」「測量できるドローンがあるので、精度をみて導入を考えたい」。千田専務はさらにICT化を進めていくといい、ICT化によるデメリットはない、と言い切る。ICT化で作業をスピードアップし、社員の労働負担を減らす。経費を管理して数字に強い会社となれば、次の投資も見通しが立ち、銀行融資も受けやすくなる。
「今、橋梁補強に使う次世代素材として、軽くて鉄より強度のある炭素繊維の開発に東レや東京都立大学などと参加していて、2024年春には実用化できそうです」
「今あるものを良好な状態で次世代に引き継ぐ」。建設工事の裏方の矜持(きょうじ)を込めたこの言葉の実現へ、エイチの挑戦は果敢だ。
企業概要
会社名 | 株式会社エイチ |
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本社 | 岡山県総社市東阿曽1990 |
HP | http://www.h515.jp/ |
電話 | 0866-99-8808 |
創業 | 2011年5月 |
従業員数 | 40人 |
事業内容 | 仮設足場工事、プラント工事、コンクリート構造物補修工事、金属工事、土木工事、舗装工事、その他 |