「企業買収」と「合併」の違い

前述の通り「企業買収」と「合併」は、どちらもM&Aの手法の一つです。しかし、その違いは何でしょうか。

「合併」は、2つ以上の会社を統合して1つの会社にする企業再編を指します。 合併によって消滅する会社の権利義務は、すべて合併後に存続する会社に引き継がれます。ちなみに、既存の会社が他社を合併して存続会社として残す場合は「吸収合併」と言い、新設した会社を存続会社として既存の会社をすべて吸収させてしまう場合は「新設合併」と言います。

一方「企業買収」は、合併のように企業同士が統合されて一つになるわけではありません。会社が統合されるのではなく経営権が移動する点に違いがあります。

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「企業買収」と「完全子会社化」の違い

株式会社はその株式をどれくらい保有しているのかに応じて、以下の権利を株主に付与しています。

持ち株比率/保有権利の一例

持ち株比率 保有権利
100% すべて自分の意志で決定する事ができる(完全子会社化)
66.7%以上(2/3以上) 株主総会の特別決議(※)を単独で成立させられる
(※会社の合併、事業譲渡の承認など)
50.1%超(1/2超) 株主総会の普通決議(※)を単独で成立させられる
(※取締役の選・解任、配当など)
33.4%以上(1/3以上) 株主総会の特別決議を単独で阻止できる
3%以上 株主総会の招集、会社の帳簿等、経営資料の閲覧ができる
1% 株主総会における議案提出権

買収側の持株比率が3分の2を超えた段階で被買収企業の経営権を完全に掌握できるため、経営権の掌握を目的とする企業買収であればすべての株式を取得する必要はありません。

一方、「完全子会社化」とは親会社が子会社の発行済株式のすべて、つまり100%保有している状態を指します。したがって、完全子会社化を目的として企業買収を行う場合は、発行されているすべての株式を買い取らなければなりません。

企業買収のメリット

企業買収の目的やメリットについて整理してみましょう。企業買収を行う目的・メリットは、主に以下の7点です。

①売上規模・シェアの拡大が見込める

まず挙げられるのは、売上規模・シェアの拡大が見込める点です。自社単独で売上や市場のシェアを拡大するには、人材を募集して設備投資を行い、技術力を上げて製品を開発しつつ、販売力を高めていかなければなりません。しかもそれだけの費用や労力、そして時間をかけたとしても成功する保証はどこにもありません。

しかし、既に市場で一定のシェアを保有し、製品開発力や技術力のある企業を自社の傘下に迎えることで、売上規模やシェアを拡大させることが期待できます。

②事業多角化・新規事業への参入

資産運用を行う際にポートフォリオを組んでリスクを分散しながら資産を増やしていくように、企業を経営する際もリスクを分散しながら収益を上げていくには、事業多角化・新規事業への参入は欠かせません。

しかし、新規事業への参入は失敗のリスクが高い上に、目標を達成するまでにかなりの時間を要します。 こうした状況を打開するために企業買収によって新規事業部門を外部から取り込めれば、失敗のリスクを回避して目標の実現にスピーディーに近づけるでしょう。

③人材の獲得・技術力の向上

日本の生産年齢人口の減少は少子化による人口減少のカーブをはるかに上回る深刻な状態であり、大企業だけでなく中小企業でも、人材の確保が生き残りを賭けた課題となっています。特に技術力の向上が見込める優秀な人材の確保は難しく、中小企業がこうした人材を獲得できないと、大企業との利益率の差を拡大させてしまいます。

こうした人材面の課題も企業買収によって、相手方の従業員を丸ごと自社の企業グループの一員として迎え入れることで解消されます。また、優れた技術・経験・ノウハウを持つ人材を獲得することで、自社の技術力向上にもつながり、将来に向けたビジョンが描きやすくなるでしょう。

④シナジーの創出

他社を買収することで、掛け算的に収益が創出される場合があります。簡単な例を挙げてみましょう。

【技術力があるものの、営業力に課題があるA社】 売上高が少ないものの自社製品を販売しているため、利益率は高い水準を維持

【強力な販売網と営業力を持つB社】 売る力やルートがあり売上高が一定あるものの、自社製品を持たないため、利益率は低い水準で推移

この状態で、A社がB社を企業買収したら何が起きるでしょうか。A社はB社の販売力を使えるため、高い利益率を維持しながら売上高を伸ばしていくことが可能になるでしょう。 またB社も、A社から高品質の製品を安価で仕入れられるため、売上や利益率がともに伸ばせるはずです。

このように、企業買収によって双方に相乗的なシナジーが創出され、事業規模が拡大していく点が企業買収の大きな目的・メリットになります。

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⑤バリューチェーンの補完・関連事業領域の拡大

バリューチェーンとは、原材料や部品の調達、製品の製造や加工、出荷配送などの一連の事業活動を意味します。バリューチェーン全体の流れに占める自社の割合が少ないと間に入る会社が多いため、製品が1つ売れるごとに入る利益は少なくなり、逆に割合が多いほど利益は多くなります。

そのため、既存の事業を強化して最終的な利益を増やすにはバリューチェーンに占める自社の割合を増やせば良いため、これを企業買収によって実現しようとする企業が多く存在します。

最も多く見られるケースは、自社が外部に業務を委託している企業を買収する方法です。企業買収によって外部に委託する必要がなくなれば、バリューチェーンに占める自社の割合は多くなり、収益増につながります。

⑥リスク分散ができる

企業買収を行うと事業の多角化を進められるため、将来の経営リスクを分散する効果が期待できます。

そのほか、企業買収をきっかけとして組織再編を進めることが可能です。たとえばグループ内を持株会社化して、経営と事業を分離できればグループ全体の経営効率が上げられます。

事業の多角化や組織再編によってリスク分散ができる点も、企業買収の目的・メリットに挙げられます。

⑦コストの削減・財務力強化

企業買収によって、例えば管理・製造部門など両社で共通する部門を統合することで、コストの削減を達成できます。

具体的には、以下のコスト削減が期待できます。

削減が期待できるコスト 概要
仕入れコスト 仕入れを共同で行うことによりスケールメリットが生まれ、コスト削減が実現できます。
管理部門コスト 企業内の事務・管理部門を共通化することにより、これらのコスト削減を実現します。
物流コスト 配送などを共同で行うことにより、コストの一部を削減します。
製造コスト 製造ラインを共通化することにより、製造コストの削減を実現します。
新規開発コスト 新規開発を共同で行い、開発コストを合理化によって削減します。

あらゆる場面でコスト削減を進めると無駄な支出が減るため、財務基盤の強化につながります。