目次
産経ニュース エディトリアルチーム
長野盆地の北東部に位置し、間近に山々を望む落ち着いた雰囲気の中野市内にあって、東京都心のデザイン事務所かと思わせるようなオフィスが、株式会社ワールド観光開発の拠点だ。(トップ写真:ワールド観光開発の本社)
デザイン事務所のようなオフィスで若者たちが働く
事業はいわゆる不動産業。1979年の創業で、中野市を中心に土地や建物の売買や賃貸物件の仲介を行ってきた。「いわゆる町の不動産屋です。以前は事務所の窓にも、取り扱っている物件の間取り図や賃料などが書かれた貼り紙が、いっぱい貼られていました」と、9年前に2代目の社長となった原田大介氏は振り返る。
それが今では、道路に面したウィンドウに貼紙はなく、部屋の中にはスタイリッシュな椅子や机が並ぶ。おしゃれな小物が並ぶ入口を抜けたところにある事務所も、カウンターやパーティションで区切られた中で、軽快な服装の社員がパソコンに向かって仕事をしている。
こうしたセンスは、原田社長によってもたらされた。「18歳から東京に出てファッションを学びアパレル業界に入りました」。首都圏でセレクトショップを展開している会社で活躍。その後、リノベーション物件を扱うベンチャー企業でビジネスを学んでから33歳で中野市へと戻り、家業を引き継いだ。「ベンチャー企業は大手のコンサルティング会社から独立した人たちが作った会社で、事業の内容だけでなく決断の早さや物事の的確な伝え方を学びました」。
リノベーション事業に参入
そこで得たノウハウを持ち帰って改革に乗り出した原田社長が目をつけたのが、中野市や長野市におけるリフォーム・リノベーション事業だった。「他の地方と同様に、住んでいた人がいなくなって相続する人もおらず、空き家となる物件が増えていたのです」。そうした物件を買い取り、リフォームして販売することにしたが、ただ修繕するだけでなく、内装を高いデザイン性を持ったものへと改め、若い人が住みたいと思うような家へとデザインリノベーションするサービスを導入し、「R-depo」というブランドで展開し始めた。
「周辺にもリフォームを手掛けている会社はありましたが、デザインも含めてリフォームするような会社はありませんでした」。北陸新幹線が通って首都圏と長野市や北陸地方とがつながり、週末を地方で過ごすような働き方が可能になった。加えて、新型コロナウイルス感染症の流行でテレワークが一気に広がり、地方で暮らしながら仕事をする人たちも急増した。そうした人たちが納得できるスタイリッシュなリフォーム物件を提供できるということで、事業は拡大基調で推移しているという。
施工管理システムで工程を管理することで、情報の一元化と管理が可能となった
ここで浮上したのが、増大する一方のリフォーム工事の工程を管理・把握する必要性だった。「当社が依頼した工事を請け負う大工さんは個人事業主が多く、連絡方法も電話が中心。どこまで工程が進んでいるのかをリアルタイムに把握するのが難しく、工事が遅れ気味になることも少なくありませんでした」。そこで同社では、施工管理システムを導入して、情報を一元的に管理・把握できるようにした。
大工やクリーニング作業を受け持つ人を社員にして内製化することでスケジュール通りの施工が可能になり、コストも削減
「関わっていたリノベーションのベンチャー企業が行っていたように、大工やクリーニングといった作業を受け持つ人たちには社員になってもらい、工程を内製化しました」。そうした社員たちに、社内の管理担当者が、リノベーションを行う物件についていつから作業に取りかかるのか指示を出す。受けた側ではスケジュールに沿って、順次担当する分野の作業を行っていく。
現場からスマートフォンで施工状況を日々入力してもらえば、どこまで進んだかの把握も容易に行える。工期が遅れることはなくなった。図面などもデジタル化して管理するようにし、現場から閲覧できるようにした。「従来は工務店などに施工を発注していたものが、社内で完結するため自分たちのペースで作業を行えます。コストも原価で済むため外注するより軽減されます」。
電話を使って連絡していた頃は、異なる部署から同じような連絡が何度も来ることがあって、現場で作業する人のストレスになっていた。それでいて確実に伝わったという保証もない。施工管理ツールを使えば、メールと同じで受け取る現場に負担がかからない。どのような内容を誰に伝えたかも後で確認できる。事業面では効率化が実現でき、人事面では働き方の改革にもつながった。
ホームページにリノベーション事例を掲載し、デザイン性の高いリフォームができることを伝える
ホームページも充実させた。「R-depo」のサービスを紹介するページには、同社が手掛けたリノベーション物件の画像が並んで、どれだけハイセンスなリフォームを行っているかがわかるようになっている。取扱物件を紹介するページもあって、何枚もの画像を並べて魅力を伝えている。都心部と比べて安い値段に、移り住んでみたいと思う人も出てきそうだ。
自社で物件を所有して貸すビジネスもスタート。プロの目利きと地元のネットワークで優良物件を確保
同社ではリノベーション事業のほかに、戸建住宅や集合住宅といった不動産物件を自社で所有し、賃貸する事業も大きく広げている。「委託された物件を仲介したり管理を請け負ったりするだけでは、手数料収入しか入りません。自分たちで物件を持って貸すことにすれば、家賃がそのまま入ってきます」。事業の転換を模索していた時に、アベノミクス下での黒田バズーカと呼ばれる低金利政策で金融機関から資金を借りやすくなった。「アクセルをベタ踏みして」不動産を購入した。
不動産投資で個人が物件を購入し、不動産会社を通して貸し出し賃貸収入を稼ごうとする動きがあるが、借り手が見つからないような物件を購入してしまって収益を得られない問題も起こっている。「そこは個人とプロの違いで、借り手がしっかりと見つかる物件を選び出せます。地元とのネットワークもあるので、優良物件にもいち早くアクセスできます」。プロならではの目利きと地の利で差を出している。
人材採用は、一本釣り。自社の魅力をアピール
気になるのは、長野市からも列車で30分以上離れた地域で人材を確保できるのかというところだが、同社では求人情報サイトなどに依頼せず、原田社長が一本釣りのようにして声をかけ、入社へとつなげているというから驚きだ。不動産とは無縁の仕事をしていても、これだと思った人には声をかけ、自分の会社で働くことの楽しさを説いて引き入れているという。
「Webデザイナーや美容師や学校の先生といった人たちが、社員として入ってくれています。そのうちの1人は、いつも行っていた自動車販売会社で整備の仕事をしていた人です。私が乗っていた車に興味を持って、こういう車に乗りたかったらうちで働かないかと誘いました」。高額の給料がいきなり支払われるわけではないが、働きながら同社のノウハウを学び取ることで、自分でも不動産投資を行うようになったり、ベンチャースピリットを育んで新しい事業を始めたりして、社員がそれぞれに自己実現につなげていくという。
それは原田社長自身も同様で、「楽しんで生きていきたいと思っています。だから、会社をどんどん大きくしようとは思いません。1回きりの人生を悩んで過ごすより、楽しい時期を最大化することが自分の目標です」。
そんな原田社長の姿に刺激され、社員たちも頑張ろうという気持ちになり、そうした社員に答えようと社長も頑張る循環が、結果として会社をより大きなものへと変えていく。
企業概要
会社名 | 株式会社ワールド観光開発 |
---|---|
本社 | 長野県中野市岩船338-1 |
電話 | 0269-22-5478 |
HP | https://w-kanko.com/ |
創業 | 1979年10月 |
従業員数 | 20人 |
事業内容 | 土地/建物の売買仲介/アパート/マンション/貸家/店舗の賃貸・管理/中古物件リフォーム・リノベーション |