矢野経済研究所
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5月28日、富士スピードウェイ内にあるトヨタ自動車の施設で合成燃料車の走行デモンストレーションが行われた。合成燃料は水素とCO2を合成させた燃料で、再生可能エネルギーによる水電解で作られた水素を使ったものをe-fuelという。国産合成燃料を使った市販車によるはじめての走行を披露したENEOSの齊藤猛社長は「脱炭素社会は単一のエネルギーでは実現できない。早期の技術確立を目指したい」と表明、デモ・カーを運転したトヨタの佐藤恒治社長も「運転感覚は通常のクルマと同じ。EVを含めた脱炭素の選択肢が広がる」と語った。

合成燃料の最大の特徴は従来の内燃機関がそのまま使えること、そして、化石燃料と同等のエネルギー密度をもった燃料を工業的に大量生産できる点にある。今、世界の自動車メーカーはEV化へ一気に傾く。2030年には主要自動車市場における新車販売のEV比率が6割になるとの予測もある。一方、その時点であっても世界を走行する車両の9割はエンジン搭載車であり、したがって、脱炭素を世界レベルで実現するうえで合成燃料が果たし得る役割は小さくない。大型航空機や大型船舶など電動化が困難な分野も潜在市場だ。

この3月、欧州連合(EU)は、「2035年以降、エンジン車の新車販売を禁止する」との従来方針を撤回、合成燃料の使用を条件に販売を認めることを決定した。これに先駆けドイツ政府は民間の合成燃料製造事業への出資を決定、また、航空業界向けの実証プロジェクトに対する公的支援もはじめた。動きは速い。こうした流れは合成燃料のビジネス可能性を大きく拓くものであり、商用化に向けて欧州勢の政府支援や民間投資はもう一段加速するだろう。

日本も商用化の実現時期を当初の2040年から2030年代前半への前倒しする方向で取り組みを急ぐ。最大の課題は製造コストだ。とは言え、サービスステーションなど既存の燃料インフラや社会資本が活用できるメリットは大きい。加えて長期備蓄が可能であること、原産国が限定されるレアメタルが不要であることも経済安全保障上の優位点だ。日本はEVで遅れをとった。それは途上国も同じだ。つまり、合成燃料の商用化技術を主導することは脱炭素への貢献はもちろん、グローバルサウス諸国に対するプレゼンスの向上にも資する。選択肢は1つではない。e-fuelの早期社会実装に向けて産官学における戦略的な投資を進めていただきたい。

今週の“ひらめき”視点 5.28 – 6.1
代表取締役社長 水越 孝