(本記事は、ジョン・フィッチ氏(著)、マックス・フレンゼル氏(著)、ローリングホフ 育未氏(翻訳)の『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』=クロスメディア・パブリッシング、2023年3月31日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
アメリカ疾病予防管理センターと世界保健機関(WHO)はともに、睡眠不足が流行し、健康に悪影響をおよぼしていると発表した。先進国の3分の2の人たちが十分な睡眠を取れていないそうだ。しかし、十分な睡眠とはなんだろう?
個人差はあると思うが、科学的には「7時間未満の夜間睡眠」を、「習慣化した短縮睡眠時間」と定義している。しかも7時間が理想的というわけではない。この数字は、最低限だ。7時間が最低限なんて!
「うそでしょ。7時間なんて寝たことないけど別に平気だし」と思ったそこのあなた。僕たちは自分のことを把握するのが下手だ。睡眠不足でも大丈夫と思う人は実際に多い。
だけど、4、5時間の睡眠で「大丈夫」だとは、どの科学的根拠をもってしても言い切れない。ただの神話なのだ。私は本当に大丈夫だと言い張る人たちは、夢を見ているのだ(睡眠不足だとメンタル機能がかなり落ちるので夢も見やすい)。
そして睡眠不足は積み重なる。1日まったく寝ないのと、毎日6時間の睡眠を1週間続けたのでは、同じくらい体に悪い。
ちょっと考えてみてほしい。この数か月、あなたはどのくらいの、眠れない、もしくは寝つけない夜を過ごしただろうか? このあと詳しく解説するが、健康と生産性のために睡眠はとても大切だ。もしぐっすり眠れた夜と同じだけの健康効果をもたらす薬があったら、それは「奇跡の薬」だ。みんなで飲もう。
しかし、僕らは喜んで睡眠時間を削り、場合によってはそれを誇らしく思ったりする。マシュー・ウォーカー博士は、ベストセラー『睡眠こそ最強の解決策である』(SBクリエイティブ 2018 年)でそれを「睡眠の〝役立たなさ〟を取りざたすビジネスカルチャーの傲慢さ」と呼ぶ。
「この考え方が今まで生き延びてきたのは、実際にビジネスリーダーのなかに、労働時間とその成果や生産性がイコールだと考える人がいるからだ」
だが、それは真実ではない。睡眠をやっつけようとする僕らの文化もやはり、プロテスタント労働倫理の名残だ。健康を害し、仕事の効率にも大きな悪影響を与えている。
ウォーカー博士はある研究を引用する。国家レベルで考えると、睡眠不足はGDPの1~3パーセントの損失になる。日本の場合、GDP2.9パーセントを損失しており、世界ランキングトップだ(日本国防総予算の3倍であり、教育予算とほぼ等しい)。
アメリカは2.3パーセントの損失で日本のあとを追う。本書執筆時点で最新の睡眠不足による年間損失合計(2019年)は4930億ドルである。ウォーカー博士はこんなふうにたとえている。睡眠不足で頑張ることは、水を弱火で沸かそうとするのと同じだ、と。
もしも、ちゃんと休めた状態で取り組んだら、同じ成果、もしくはもっとすごい成果を強火で、短時間で達成できる。睡眠のことを真剣に考えれば、だらだらとエネルギーを無駄にせず、たくさんのことを手に入れられる。たとえば幸せな結婚とかね。
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