TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術
(画像=candy1812/stock.adobe.com)

(本記事は、ジョン・フィッチ氏(著)、マックス・フレンゼル氏(著)、ローリングホフ 育未氏(翻訳)の『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』=クロスメディア・パブリッシング、2023年3月31日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

物理学は僕らの味方じゃない。熱力学第二法則によると、宇宙の熱力学的エントロピーは増大している。規則のある状態から混沌へと動き続けているのだ。

つまり、ごちゃごちゃしたものが時間をかけて集まっている。近いところでは戦うことも可能だろう。カオス状態に規律を取り戻す。

だけど、これには時間とエネルギーが必要だ。それに、忙しく疲れていたら、時間とエネルギーはなるべく温存させたい。だけど長期的に見れば、ごちゃごちゃしたものを取り除く方が、時間とエネルギーを節約する方法なのかもしれない(もちろん熱力学法則をくつがえせると言っているわけではないし、片付けマシーンを常に稼働させろと言っているわけでもない)

近藤麻理恵はベストセラーをたくさん出している。もっとも有名なのは『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版 2011 年)とネットフリックス番組「KonMari~人生がときめく片づけの魔法~」(2019年)だろう。

この世のカオスに立ち向かえる存在、それが彼女だ。

彼女の方法論の核にあるのはひとつの問いである。それは、「それって、ときめきますか?」だ。彼女の「こんまりメソッド」は、片付けに対する徹底した態度を教えている。

同時に、どのように生きていきたいのか、理想のライフスタイルはなんなのかを僕たちに問いかける。望むのはどんな人生? 大事にしたいことは? 彼女の質問に向き合えば、取り除くべきものも自然と見えてくる。カテゴリーごとに(衣服、キッチン道具、本など)、ひとつひとつ丁寧に自問するのだ。「ときめくかな?」と。

イエスと答えられないものは捨ててしまおう。手を止めて、今までの感謝をしたら、心を瞬時に鬼にするのだ(「だって捨てたくないんだもん」といった心の声は無視だ)。

空間を片付けるための具体的なプロセスを、彼女は教えてくれる。では、同じ方法でカレンダーも見てみよう。「こんまりメソッド」に沿うと、けっこう効果がある

まず、じっくり考えることから始める。予定表に、ただなんとなく入れてしまった行事や約束事はないか自問しよう。それはときめきやワクワクに繋がるだろうか?

答え次第では心を鬼にして、予定をキャンセルしよう。そしてこれからは、そういったものは予定に入れないことを目標にしよう。

カテゴリー別に家を片付けるのと同じように、時間をカテゴリー(仕事・家族・人付き合い)別に考えてみるのもいい。クリエイティブな自分の探究の時間を奪っているものはなんだろう。それを意識できるようになることが重要だ。

なにが、なぜ、あなたにとって重要なのか、についても考えてみよう

実践すると、おそらく予定表に余白ができる。この原則にしっかり沿えば、カレンダーのどの予定もあなたをときめかせてくれるはずだ。

もちろん、優先順位を見極める作業は一度やれば終わりではない。僕たちは常に変化し、成長している。だから自己理解もアップデートし、大切にしたいものをはっきりさせておこう。厳しくしすぎる必要はないが、内省の時間は定期的に設けよう。近藤さんもそうするらしい。

「年のはじめに大事にしたいことを考え直します。誕生日にすることもありますが、いつやると決めているわけではありません。私たちのいる地点を夫と話し合ったりはしますね。今ここにいるなら、どのくらい働く必要があるかな? と質問するんです。家族との時間はどれくらい取れるかな? とかね。現在私は、仕事に熱心に取り組んでいます。新しいプロジェクトも始めている。それが私の今いる場所です。だから先を見越して、実現できるように努力しています。だけどつい最近まで、私は自分の全エネルギーを家族のためだけに使っていました」

内省に時間を使うこと自体、すごく価値あることだと彼女は語る。

「考え事をするとき、1枚の紙に頭にあることを全部書き出します。もつれた感情や不安や心配の種などを書き出してから、コントロール可能かどうかの区分けをします。自分の手ではどうしようもないのだと認識することで心が落ち着くこともあります」

彼女にはもうひとつ、心を落ち着ける方法がある。

「限界を超え、スピードを落とさなければならないとき、とりあえず全部置いておいて、床の雑巾がけをするんです。手を忙しく動かしていると、心が穏やかになります」

実際に手を動かし、モニター上のやりとりのみに終始しないこと自体が、積極的なタイムオフになるのだ。

特別なことである必要はない。小さな儀式で日常に穴を開け、忙しい日々にも穏やかな時間を作ろう。ジョンの場合は、PCを閉じてノートを開き、絵を描いたり、大好きなペンを選んで短い詩を書くこと。マックスの場合は、コーヒーを淹れること。コーヒー豆を量り、香りに包まれ、豆を挽き、紙フィルターを湿らせ、粉を入れて、お湯をちょこっと注ぎ、そして少し多めに注いで美しい花のつぼみを作り、ゆっくりと数分間かけて残りのお湯を加える。そのお湯がまるで魔法みたいに、おいしい黒い液体に変わるのをじっと観察する。近藤さんも、お茶を飲むのが好きらしい。

「毎日、数杯のお茶を飲みます。それが私の休憩時間です。いくつかやるべきことが終わったり、ちょっと疲れたなと思ったら、立ち上がってお茶を淹れにいきます」こういった小さな儀式は、かかってもせいぜい10分程度だ。短い時間でも、心がリセットされ、力が注入される(もちろんカフェインも)。そのおかげで、心をときめかせる予定に集中して取り組むことができる。

頭をすっきりさせたい、気分転換したい、そんなときは小さな儀式を試してみよう。

book
著者:ジョン・フィッチ(John Fitch)
ビジネス・コーチ、エンジェル投資家、ライター。仕事中毒から立ち直りつつあり、この本は昔の自分を念頭に執筆した。テキサス大学オースティン校で経営とメディアを学んだ。デジタルプロダクト・デザインによりキャリアを積み上げ、働く人が楽しくなさそうな仕事の自動化を推進する技術開発に投資するエンジェル投資家。未来の経営と働き方に大きな興味があり、近い将来、みんながクリエイティブな仕事をするだろうと考えている。ディナーパーティーを企画し、新しいアイディアやひらめきに出会うのが好き。柔術に励み、新しいところを旅したり、スイカを栽培したり、音楽を演奏したり、大好きな人とダンスしたりしている。
著者:マックス・フレンゼル(Max Frenzel)
AI研究者、ライター、デジタル・クリエイティブ。インペリアル・カレッジ・ロンドンで量子情報理論を研究し博士号を取得後、東京大学のポスト・ドクター・リサーチ・フェローとして着任。AI研究とプロダクトデザインを組み合わせるスタートアップ事業に多数参加。最近の関心は、クリエイティビティとデザイン、音楽にAIやディープ・ラーニングなどを融合させること。かかわったAIアートの中には、ロンドンのバービカン・センターに展示された物もある。AIとクリエイティビティをテーマに講演活動も行っている。タイムオフの時間には、おいしいコーヒーを楽しむ。パン焼き名人になるための練習も欠かさない。電子音楽を作り東京の各地で演奏も行っている。
翻訳:ローリングホフ育未(Ikumi Roelinghoff)
翻訳家・トロント大学OISE修士。

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