P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」
松井 義治
経営(人材・組織開発)コンサルタント、HPOクリエーション代表取締役。北九州市立大学卒。日本ヴイックス株式会社に入社し、マーケティング本部で医薬品や健康食品の戦略策定、商品開発など企画宣伝・プロモーション開発から市場導入までのトータル・マーケティングを担当。同社がP&Gと合併して7年後、人事統括部に異動し、教育・採用担当のシニアマネージャーを務め、グローバルリーダーを育成する「P&G 大学」づくりとプログラム開発に貢献。台湾P&G 人事部長、北東アジア採用・教育・組織開発部長等を歴任。ノースウエスト・ミズーリ大学経営学MBA、ペッパーダイン大学教育学博士。

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社長という職務に定年は必要か

社長の定年は有名無実?

2018年、中国では憲法改正によって国家主席の任期制限がなくなりました。

その結果、習近平現国家主席は終身主席となって、権力をふるい続けるのではないかと訝る人もいます。たしかに、権力というものは長期化すればするほど腐敗する傾向があります。それは国の政権でも企業の経営でも同じです。

そのため企業では、社長の定年を内規として定めているところもあります。

しかし私は、国家の最高権力者はともかくとして、企業の社長に定年を設けることには積極的に賛成しかねます。やるべき能力と意思が社長にあり、社員にも求められているならば、やれる限りやってもよいというのが私の主張だからです。GEのジャック・ウェルチ氏は1981年から2001年まで、CEOを20年間務めていました。

そもそも、社長を続けるには承認が必要となります。

任期が終了する段になると、取締役会、次いで株主総会によって再任が決議されます。社長に力がなければ、取締役会の段階で退任は避けられません。社長といえども、組織の新陳代謝のシステムに乗っているのです。

しかし、社長に能力があれば、任期は限りなく延長されます。

それが必ずしもオーナー社長ばかりでないことは、ちょっと調べればわかることです。つまり力のある社長は、仮に定年制があったとしても、習近平氏と同様、ルールを変更して定年制の対象から外れることが可能です。

私が社長の定年制に賛成しないのは、それが結局は有名無実だからです。

従業員の声は天の声

いつまでも社長の座から降りない人を見ると、権力を手放したくない一心でしがみついているように見えますが、実態は必ずしもそうではありません。

ある大手企業の社長・会長を務めた方から聞いた話です。

その方は内規である3期を守り、社長・会長と合計6期務めて身を引かれましたが、その間、何度も続投するように進言を受けたそうです。

周囲からいつも「あなたに代わる人はいない」「会社のためにも、社員のためにも、せめてあと2期はやってほしい」といわれ続けていると、そのうち自分でも「やはりそうかなあ」と思いはじめるというのです。

実際に周囲を見渡してみて、明らかに自分より優れている人物は見当たらないとなると、格別な権力欲があるわけではなくとも、会社のため社員のためと任期を延長していく人が多いはずだ、と、その大手企業の元会長は話してくれました。

これはおそらく、世の中で長期政権を敷いている社長の、100%ではないと思いますが、少なくとも半数くらいは該当するのではないでしょうか。

では、望まれない長期政権を避けるにはどうすればよいのでしょうか。

自分自身の判断に周囲の意見、そして従業員の意識調査で自分自身を測ることが最善だと思います。

このうち最も客観的な声が、従業員意識調査です。従業員意識とは、いわば社長に対する満足度です。社長を筆頭とした経営陣に対し、満足している人の割合が7割を切るようなら退き際と考えるべきです。もちろん、サクセッション・プランで次の社長、次の幹部を併行して育成していることは大前提です。