P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」
松井 義治
経営(人材・組織開発)コンサルタント、HPOクリエーション代表取締役。北九州市立大学卒。日本ヴイックス株式会社に入社し、マーケティング本部で医薬品や健康食品の戦略策定、商品開発など企画宣伝・プロモーション開発から市場導入までのトータル・マーケティングを担当。同社がP&Gと合併して7年後、人事統括部に異動し、教育・採用担当のシニアマネージャーを務め、グローバルリーダーを育成する「P&G 大学」づくりとプログラム開発に貢献。台湾P&G 人事部長、北東アジア採用・教育・組織開発部長等を歴任。ノースウエスト・ミズーリ大学経営学MBA、ペッパーダイン大学教育学博士。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます

若者が3年で辞める原因は面接時につくられる

応募者に誤解を与えてはならない

新卒者の3割が入社後3年以内に辞める、という現象が数年前から起きています。

ビジネスシーンでは、顧客の不満の主な原因は、期待価値より使用後の体験価値が低いことにありますが、早期離職も同様です。

就職活動中に聞いたことが現実の職場と異なる、ありていに言えば、もっとよい職場、あるいは面白い仕事だと聞いていたのに、現実の職場は上司・先輩は自分のことばかりで、新人にはアドバイスもなければ支援もない。

または、とても面白い仕事だと言われて入ったのに、雑用しかやらせてもらえず、まったく面白くない、というようなことです。

採用面接はお見合いのようなものです。採用する側が応募者を理解するだけでなく、応募者にも会社を正しく理解してもらう場でもあります。お互いに取り繕ってよいところだけを見せ合っていては、相互理解はまず不可能です。

正しい相互理解がなければ、行き着く先は破談か離婚です。

繰り返しになりますが、採用した新人がたいした理由もなく3年以内で辞めていってしまえば、それは採用の失敗ということです。応募者に正しく「わが社」を伝えるための最後の舞台が面接であることを、面接担当官は心得ていなければなりません。

面接を担当する人にとって、応募者を理解するための質問のみならず、応募者にわが社をよく理解してもらうための質問をすることも、重要な質問の技術なのです。

正直は最善の策なり

欧米系企業の価値観には、「インテグリティ(Integrity)」という単語がよく入っています。

インテグリティとは、辞書では誠実さと書かれていることがありますが、正確には「常に裏表なく、正しいことを正しく行っている」ことです。

面接担当官は応募者にとって会社の代表ですから、応募者の質問には、真実を誠実に話すインテグリティのあることが基本です。他社ではなく、なぜわが社に入るのがよいのかを熱く語ることもたいへん重要です。それと同様に、わが社で働く現場の真実、そしてわが社ではできないこと、やってはいけないことも必ず話さなければいけません。

入社させたいがために、労働時間や職場環境をかなり脚色して話したり、職務的にできないことをできるかのように紹介したりすれば、そのツケは必ず3年以内に取り立てられることになります。

リクルーティングの世界では、早期離職があった場合、採用の準備、広告、労力、そして新人が入ってからの研修教育、そこに関わった上司や先輩社員の労力などをコストとして合計すると、面接担当や採用担当の年収の2倍くらいになるといわれています。

ディズニーパークの採用面接では、面接の前にパークで働く人の1日の行動をビデオで見せています。そこで具体的にどういうことをするのか、どういう現場の状況でどういう判断をするのか、どのような行動が期待されるのかを理解してもらいます。

次に、できないこと、やってほしくないこともビデオで説明します。その結果、面接前のビデオを見た段階で、15〜20%くらいは面接を受けずに帰るそうです。

こうしたアプローチも面接のミスマッチを防ぐ方法のひとつといえます。