P&Gで学んだ経営戦略としての「儲かる人事」
松井 義治
経営(人材・組織開発)コンサルタント、HPOクリエーション代表取締役。北九州市立大学卒。日本ヴイックス株式会社に入社し、マーケティング本部で医薬品や健康食品の戦略策定、商品開発など企画宣伝・プロモーション開発から市場導入までのトータル・マーケティングを担当。同社がP&Gと合併して7年後、人事統括部に異動し、教育・採用担当のシニアマネージャーを務め、グローバルリーダーを育成する「P&G 大学」づくりとプログラム開発に貢献。台湾P&G 人事部長、北東アジア採用・教育・組織開発部長等を歴任。ノースウエスト・ミズーリ大学経営学MBA、ペッパーダイン大学教育学博士。

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中小企業の人事に求められる能力

人事に求められる5つの能力

人事施策の構築に求められる能力とは何でしょうか。

以前、SHRM(SocietyforHumanResourceManagement:人事プロフェッショナルの世界的な団体)が、「人事の5つの能力」を発表しました。

5つの能力とは次のとおりです。

1.戦略的貢献能力(StrategicContribution)
戦略的貢献能力とは、組織に適切な人材開発戦略を立案実行する能力、変化に対応するための制度や仕組みを取り入れる能力、企業文化を醸成する能力。

2.ビジネス知識(BusinessKnowledge)
マーケット全般の知識や組織論、マネジメント理論などの広範な知識。

3.信用力(PersonalCredibility)
信用されるために必要な能力とは、結果を出す実行力、対人関係構築スキル、リーダーシップなど。

4.HRデリバリー(HRDelivery)
聞きなれない言葉ですが、いわゆる採用、人材開発、組織デザインと組織開発、パフォーマンス管理、給与・福利厚生などのこと。

5.HR関連IT技術(HRTechnology)
AIの活用やIT技術を人材開発に最大限に導入していくこと。

人事戦略を立てる上で押さえておくべきこと

「戦略的貢献能力」に関しては、企業ビジョン、ミッション、戦略を把握し、そのための人材と組織がどれくらいできているのかを把握することが先決です。

中小企業でも、社長を含め、少なくとも次の点は明確にしておかなければなりません。

○わが社のミッションとビジョンは?
○わが社は具体的にどのようにして収益・利益をつくっているのか?
○わが社のターゲット市場と顧客、その優先順位は?
○わが社はどのような活動とプロセスで顧客にとっての価値を生み出しているのか?
○わが社の離職率と離職の理由は?

戦略の効果を上げるために、コミュニケーション力の強化は不可欠です。「経営会議で決まったから、この制度を導入します。後日活用方法を説明しますから、○月×日から使ってください」という通達だけでは、社員は動いてくれません。

東海道新幹線が開通したとき、当時の技術スタッフは新幹線用の特製の冶具をつくり配備しましたが、その際、技術スタッフが各保線区に飛び、現場の保線作業員の意見を聞きながら車座になって説明したといいます。

私はマーケティング部から人事部へ異動後、先に人事部に異動していたマーケティング部の元上司と、今の人事に必要な能力は「マーケティング力(マーケティング的メッセージ力)」だと痛感し、P&Gらしいビジネスメッセージのつくり方、発信の仕方を人事スタッフに啓蒙しました。「ビジネス知識」は、ラインや現場に積極的に赴き、そこでの対話の中で深めることが大事です。

人事の能力を上げるための5つのステップ

制度やシステムの押し売りではなく、「使いたい、活用させて」と社員から要求が出るようなメッセージ力を持てば、人事的な施策の効果はかなり上がります。

人事に求められる5つの能力を高めるには、やはり次の5つのステップがあります。

  1. 5つの能力に関して、セルフアセスメント(自己査定)をする
  2. 不足と思う項目を強化する優先順位を決める
  3. 人材マネジメント協会など、外部メニューから強化支援のオプションを探し、人事力強化計画を立てる
  4. 人事力強化計画を実行する
  5. 学習し実行したことを他のメンバーとも共有し、人事全体の底上げを図る

中小企業では、下から人事スタッフを育て上げつつも、トップが人事の頂点に立って指揮を執るほうが現実的です。したがって、この5つのステップは、社長の自己啓発のためのステップであるともいえます。