M&A
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海外進出の選択肢の一つとしても挙げられることの増えた「M&A」だが、単独資本で海外法人を設立する場合と比べてどのような違いやメリット・デメリットがあるのだろうか。

株式会社日本M&Aセンター・海外支援室課長の今井氏に、単独資本での進出と比べたM&Aのメリットや、注意すべきポイントについて聞いた。

M&Aなら海外マーケットにすぐ参入できる

──単独資本で海外法人を設立する場合と比べて、M&Aにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

簡単に言えば「スピード感」です。

まず、単独資本とM&Aに共通する点からお話しします。それは「進出までに必要な期間」です。

海外へ進出する際に、「来月から海外で事業をやるぞ!」と言い出すことはまずありませんよね。事前に入念な下調べをするはずです。どの国がよさそうか、マーケットの成長性やもちろん法律なども含めて検討し、さらに現地視察などで「本当にここに進出しても大丈夫か」ときちんと調べてから実際に行動を起こすはずです。

ということは、海外進出を検討し始めてから実際に海外拠点を設立するまでに、多くの場合は数年という時間を要します。

もちろん、これはM&Aの場合でも同じですから、進出までにかかる期間には大きな差はありません。

単独資本とM&Aで異なるのは、“現地になじむ”までに必要な期間です。

──進出してからの時間ということでしょうか?

そうです。現地の企業を動かし始めてから、営業組織として機能させるまでにかかる期間が、M&Aの場合は圧倒的に早くなるといってよいでしょう。なぜならすでに活躍している現地の法人を買い取るわけですから、ビジネスも人員も確保できています。明日からでもビジネスに取り組めますよね。

ところが単独資本で海外進出をする場合には、いきなり大人数を送り込むことは難しい。大企業なら別かもしれませんが、多くの中小企業ではおそらく一人か二人を現地に派遣し、リサーチから始めることになります。

そこから営業を始め、開拓したお客様から案件を請け負ってビジネスが回るようになるまでには数年を要することもあります。もう一つ大きなデメリットとして考えられるのが、開拓先の少なさです。

アジアの変化速度は段違い。スピード感をもって進出したい

──海外にチャンスがあると考えて進出したのに、開拓先がないのですか?

日本の企業が海外へ進出してまず行うのは、現地にすでにある同じ日本企業への営業活動であることが多いのです。例えばベトナムへ進出したと仮定してお話しすると、ベトナム法人で活躍しているのはベトナム人がほとんど。言語の壁もありますし、いきなり日本人が訪ねていって営業行為をしても、成功率は高くないでしょう。

せっかくベトナムに眠っているはずの大きな市場を求めているのに、まずはベトナム国内にある日系企業への営業からスタートしなければならないのです。

多くのケースではこうした日系企業を開拓するのに2~3年、そこからベトナム人のスタッフを雇っていよいよベトナムでの営業開拓をスタートできるまでに5年前後はかかると考えてよいと思います。

──5年かけて法人を育てる必要があるのですね。

その5年の間に、ベトナムの市場は大きく変わっていきます。経済成長のスピードが日本とは全く違いますから、当初のターゲットからも切り替える必要に迫られますよね。

この「スピード」の点において、M&Aは大きくアドバンテージがあります。すでにあるベトナム法人でビジネスを行うことになるので、極端な話をすれば「明日にでも」ビジネスをスタートできるのです。

もちろん、その分最初にかかるコストはM&Aのほうが高くなります。単独資本による進出であれば、最小限のコストで済ませることもできますから、金銭的なリスクを避けたいのであればそちらを選ぶのもよいでしょう。

ただ、海外進出への本気度が高く、気持ちが固まっているのであればある程度のリスクは覚悟のうえで、現地企業の買収やM&Aで入り込んでいくほうがよいと考えています。

正確なリスク評価で、M&Aのハードルを下げよう

──M&Aのハードルとなりやすいポイントはありますか?

M&Aの最大のネックとなりやすいのが「知らない」ことです。これまでになじみのなかった国へ、会社として進出していくという決断ができない経営者の方は少なくありません。それは「知らない」からです。

海外進出の最初の一歩は、意思決定者である経営者の本気度によって始まります。漠然と「なんとなく海外っていいかも」「日本はもう厳しい」という思いを抱いている方でも、突然“海外進出”が現実味を帯びてきたとしたら尻込みしてしまうのではないでしょうか。

特に海外でのビジネスを経験されたことのない方はその傾向が強く、「今はまだ国内でいいや」「うちにはまだ早いかな」と理由を作って先延ばしにされる経営者の方も多いですよ。

もちろんそれも一つの判断ですし、絶対に全ての企業がM&Aで海外へ行かねばならないとは思いません。自前の資本で小さく一歩を踏み出してみるのも、判断としてはアリだと思います。

──そういった経営者に対してはどのようなアドバイスをされていますか?

なぜM&Aを迷うのかというと、先に述べた通り海外でのビジネスの方法やどのようなリスクがあるかを知らないためです。知らないことで、経営者が自信をもって判断ができなくなってしまうのです。どのようなリスクがあるのかをはっきりと掴めれば、「どの程度なら対応できるか」が判断できるようになります。

ここでいうリスクというのは、国によって異なります。一番大事にしていただきたいのは“外国”をひとくくりにしないこと。海外M&Aには外資規制の問題もありますし、国によってはまだ政情が不安定なところ、法律の整備ができていないところもあります。それら危険な部分だけを切り取って「外国は危険だ」と考えるのではなく、自社が検討している国にどのようなリスクがあるのかを知ることが、判断の助けになります。

私たちとしても、お客様にはどのようなリスクがあるのかを細かく分解して正確にお伝えするようにしています。進出の方法もいきなり株式を全て買い取るのではなく、段階的に買い取って出資比率を増やしていくなど複数の選択肢があるので、リスクを減らす手段を一緒に考えることはできます。

どのようなリスクがあるのかをきちんと知り、リスクに対する打ち手を用意しておくことで、海外進出の成功率は大きく変わってくると考えています。

文・THE OWNER編集部