一瞬の選択力
今井 千尋(いまい・ちひろ)
1975年神奈川県生まれ。立教大学卒。株式会社オリエンタルランドに入社。ゲストサービス、人財育成トレーニング業務に従事。ゲストサービス関連の受賞も多数。株式会社ユー・エス・ジェイに入社。トレーニングSVとして、各部署人財育成・開発を歴任。その後、コミュニケーションエナジー(株)を経て、(株)ワンダーイマジニア設立。現場V字回復人財育成コンサルタントとして、中小~上場企業、各種団体、上海を中心に研修、講演、コンサルティングに従事。ディズニーランドの創始者であるウォルト・ディズニーの哲学「夢は願うものではなく、叶えるものなんだ」を自らの体験としてわかりやすく、感動と驚き、情熱をもって伝える、その独特の人財育成トレーニングメソッドは、熱烈なファンも日本全国・海外にも多い。著書に『ディズニー・USJで学んだ 現場を強くするリーダーの原理原則』(内外出版社)がある。
現 株式会社ワンダーイマジニア 代表取締役。

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「最短時間で最高のヘアカット」を約束するプロ集団(株式会社エイチ・エス・ケイ)

次に紹介したいのは、とある理・美容院。シャンプーやカラーリング、ブローは提供せず、短時間&低価格でカットだけ行うという、いわゆる「1000円カットハウス」の業態です。

ここにも指導に入らせていただいたのですが、運営側、現場に立つ理・美容師さんたちともに、「もっとよい現場をつくり、お客様に、よりよいサービスはできないか?」と探求されている最中でした。通常の理・美容室と比べると、業態としては、もちろんフルサービスの店舗よりも客単価が低く、できることも限られています。そこで「さらに何ができるのか」という前向きな探求を繰り返していらっしゃいました。

まず取り組んだのは、やはり「あり方」を一緒に考えることでした。

みな、きちんとカットの技術を学んできているのですから、「安かろう悪かろう」のはずがありません。そこで「『1000カットハウス』ではなく、『カットハウス専門店』である」=「最短時間で最高の仕上がりを約束するカットのプロ」、それが自分たちだという「あり方」を定めたのです。

通常の理・美容院だと、カット&ブローで5〜6千円はかかるものでしょう。それが1000円で、しかも通常の理・美容室と同等か、それ以上の最高のカットクオリティが約束されている。だとしたら、お客様は必ず利用したくなるのではないでしょうか。

もちろん、これも、通常の理・美容室と1000円の理・美容室とで、どちらが優っているかという話ではありません。

通常の理・美容室は、カットの技術と一緒に、パーマやブロー、スタイリングの技術とセンス、時間をかけてフルサービスを提供する贅沢感といった価値を提供しています。それはそれでひとつの「あり方」であり、ただ、テーマが違うだけなのです。

とくに男性であれ女性であれ、ショートヘアの人は、ちょっと髪が伸びるごとに美容院に行く必要があります。また、女性には「ちょっとだけ前髪を整えたい」といったニーズも多いことでしょう。

そのたびに、5000円なりのお金がかかるのは、財布にはけっこうな痛手であるはずです。そこに、「『1000カットハウス』ではなく、『カットハウス専門店』である」=「最短時間で最高の仕上がりを約束するカットのプロ」という「あり方」のチャンスがあると思いました。

社員さんの努力によって、狙いは的中しました。

カットのプロ集団として、社内での委員会活動を通して、各プロジェクトを担当されたリーダーを中心に、現場改革が次々に行われていきました。安全衛生ひとつをとっても、よりお客様に安心に、安全、そして快適に過ごしていただけるように、現場オペレーションが次々と改善されていきました。

こうして、より洗練された、妥協を許さない業務フローへと進化していったのです。

もちろん、そこで働く理・美容師さんたちにも、大きな変化が起こりました。「『1000カットハウス』ではなく、『カットハウス専門店』である」=「最短時間で最高の仕上がりを約束するカットのプロ」という「あり方」を定めたことで、理・美容師さんたちは、さらに自信をつけ、どの現場よりも圧倒的にたくさんのお客様に関わっているという視野からも、さらなる技術力・おもてなしに磨きをかけて、お客様とのコミュニケーションも目に見えて上達したのです。

結果として、この「あり方」は大成功でした。「ちょっとだけ髪を切りたいときに、短時間で適正価格を実現し、クオリティも高く、しかも、いい感じに仕上げてくれる理・美容院があったらいいな」という利用者のニーズを探り当て、それに圧倒的な質で応えることで「マジック!」を起こしたのです。

今も、「最短・最適な時間で最高のヘアカット」に価値を見出したお客様で、連日、常時満席という盛況ぶりです。