現 株式会社ワンダーイマジニア 代表取締役。
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タクシーがあるのに「ウーバー」が普及した理由
ここでひとつだけ例を挙げると、近年、急速に普及したウーバーはマジックの好例です。
バスでも電車でもなく、自分のためだけに目的地まで走ってくれるという意味では、すでにタクシーというサービスがありました。
そんななか、なぜ、ウーバーは普及したのでしょう?
ここで「ウーバー誕生秘話」をお話ししておきましょう。
ウーバー創業者、トラビス・カラニック氏は、ある日、道でタクシーを拾おうとしていました。
しかし、道のどこにもタクシーが走っていません。そんなとき、遠くに見えるホテルのエントランスに、タクシーが何台か、お客様を乗せるために駐車しているのが目に入りました。
カラニック氏は思いました。
「なぜ、あのタクシーは休んでいるんだ?」
もちろん、ホテルから出てくるであろうお客様を待つために、タクシーは待機しているわけですが、カラニック氏からすると、無駄に時間を使っているように見えたのです。
つまり、「街にはタクシーを必要としている人がたくさんいる(今の自分自身のように)。しかし、本当に必要な人のところには、タイムリーにタクシーがおらず、いつ来るのかわからないお客のところにタクシーがいる。これは正しいのだろうか?」と。
さらに、道には、たくさんの車が走っています。
それを見て、カラニック氏はまた考えました。「もし、この車の行き先と私の行き先が同じ方向で、そこに乗車させてもらうことができたら。どんなに効率的だろう」と。
まさに、その瞬間、マジックを起こすアイデアが生まれたのです。
タクシーは、公共の交通機関を使うよりラクだし早い。でも、カラニック氏の例を出すでもなく、いわゆる「流し」のタクシーになかなか出会えない、というのは、よくあることでしょう。
加えて、タクシーに乗るたび、私たちは、「あること」が気になっていたはずです。
目的地までいくらかかるか、わからない……。カシャンとメーターが上がるごとにヒヤヒヤした経験は、誰しも覚えがあるはずです。「呼ぶと別料金がかかる」というのも、タクシーの難点でした。
このように、じつは感じていた不便や困りごとを深掘りしていくというのは、まさにミラクル・アウェアネスを深めていくプロセスです。
ウーバーは、「ここから、あそこまでなら、これくらいです」と先に所要時間や料金を提示してくれるし、車の種類(乗り合い、普通車、高級車など、自分に必要な移動環境)も柔軟に選択できます。そして自分の現在地の一番近くを走っている車両が、正確な時間とともに迎えに来てくれます。
こうして、ウーバーは、私たちが潜在的に感じていた不便や困りごとを解消するという、マジックを起こしてくれました。
しかも、ウーバーが見出したマジックは、世の中の多くの人が必要としていたことでした。だからこそ、当然のように多くから支持され、急速に普及したのです。
この例でいうと、「タクシーを捕まえたい」というのは、私たちのウォンツ、「ストレスなく早く目的地まで辿り着きたい」というのは、私たちのニーズでした。
でも、その裏側には「タクシーがどこにいるのか、どれくらいの時間がかかるのか、いくらくらいかかるか、事前に知ったうえで安心して乗りたい」「確実につかまえたい」というミラクル・アウェネスがあり、そこにマジックを起こすヒントがあったということです。これを探り当てたのが、ウーバーでした。配車サービスの一形態として、ウーバーは、既存のタクシーにはなかったマジックを起こしたのです。
いかがでしょう。
マジックを起こすとはどういうことか、イメージできたでしょうか。
先ほどもいったように、人は、自分のことほどわからないものです。そこで自分が客観的に、その人の「視座・視野・視点」をもってみれば、その人自身がわかっていないニーズがわかり、マジックを起こすことができるのです。
仕事でマジックを起こせば、お客様からも上司からも「つねに期待を超える、できる人」といった高評価を得られるでしょう。プライベートでマジックを起こせば、人間関係は劇的によくなるはずです。
そんななか、マジックを起こされた側は、心からの笑顔や感謝といったポジティブな反応を返してくれるでしょう。それを受け取ることで、自分自身は「よし、これでいいんだ!」と自信がついていきます。
つまり、マジックを起こすほどに自分の感情はポジティブになり、そうなるほどに、いっそうマジックを起こす思考グセは定着し、行動や言葉で、もはや「当たり前」のようにマジックを起こせるようになっていくという、素晴らしい好循環が起こるというわけです。