(本記事は、メンタリストDaiGo氏の著書『超トーク力 心を操る話し方の科学』=CCCメディアハウス、2021年4月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
目の前にいない意思決定者を説得する方法
ストーリーには、受け取り手の頭のよさに左右されないわかりやすさもあります。これは、私たちの脳が物語を処理するのに適しているからです。
もし、あなたが何か新しいジャンルについて学ぶ予定があるなら、「マンガで入門」「まんがでわかる」的なシリーズを手に取ってみましょう。
そのジャンルの専門書を読むよりも、はるかにスムーズに概要が頭に入ってくるはずです。これも、ストーリーの持っている力です。マンガで学びたいことの大枠を捉えておくと、頭の中に地図ができ、その後の勉強で挫折しにくくなります。
歴史を学ぶとき、あのマンガではすごくいやなキャラクターとして描かれていたけれど、文献に当たっていくと善行も多いし、いいヤツだったのかもしれない……。そんなふうに大枠を捉えた上で、自分なりに知識を増やしていくと、ギャップを埋める感覚とともに、するすると記憶に残っていきます。
そんなふうに自分でストーリーの力を経験してみると、ストーリーテリングの手法を学ぶ意欲も高まるかもしれません。
もう1つ、ストーリーが持つ優れた力があります。それは伝えたメッセージが聞き手の記憶に長く残り続ける効果を発揮することです。
この特性は、ビジネスシーンであなたを助けてくれます。
というのも、「一度、社に持ち帰らせていただきます」「上司と相談して連絡します」といったフレーズが常套句となっているように、ビジネスシーンでは意思決定者がその場にいないケースが多々あります。
あなたが入念な準備をして披露したプレゼン、気持ちを込めて語りかけた営業トークを見聞きした相手が納得し、上司や経営層に伝えることで物事が前に動き始めるわけです。
そう考えると、営業成績が伸びない、プレゼンで結果が出ないといった悩みがあっても落ち込む必要はありません。あなたが日々行っているのは、「その場にいない決定権を持っている人に対して、目の前の話し相手が働きかけていく材料を提供する」という非常に複雑で、難易度の高い仕事だからです。
プレゼンに納得した人による決定権を持つ人へのプレゼン、商談にメリットを見出した人による決定権を持つ人への営業。これを成功させるには、又聞きでも決定権を持つ人が納得する材料を提供するしかありません。
目の前の話し相手が理解しやすく、なおかつ記憶に残しやすい形で伝えなければ、その先にいるキーマンの説得には至らないのです。
そこで、ストーリーテリングが役立ちます。
意思決定者に伝聞で伝わるからこそ、ストーリーの力を借りましょう。神話の時代から培われた物語と脳との相性のよさを味方につけ、ストーリーに乗せて語ることであなたの伝えたい内容が目の前の相手、その先にいる人たちにも伝播(でんぱ)していきます。
たとえば、『聖書』が人類史上最も普及した本になったのは、ストーリーテリングをきちんと行った初めての宗教本だったからです。人は自分の記憶に残っているものに価値を見出し、多くの人が知るべきことだと考え、広めるべき情報だと口コミを始める傾向があります。
しかも、一度受け入れられたストーリーは相手の頭の中でどんどん育っていきます。人の行動を促したいと思っても、実際にあなたがいつも相手のいる場所に立ち会い、指示を出せるわけではありません。
しかし、ストーリーがきちんと受け入れられていれば、必要な場面で相手の脳の中で自然に再生され、あなたの意図に沿った行動をとってくれる可能性が高まります。
つまり、話し相手を納得させるストーリーが語れるようになれば、あなたの説得力は劇的に向上するのです。