日本,法人税率,今後の展望
(写真=metamorworks/Shutterstock.com)

法人税率は、グローバル企業がどこの国や地域に会社を作り税金を落とすか、スタートアップ企業がどこで会社を起業するかを判断するための重要なファクターだ。法人税率はその国だけでなく、国際的にも重要な指標の一つであり、国策そのものと言える。現在、社会の変化に対応した国際的な新ルール作りが急務となっている。日本の法人税率のトレンドを見ながら、海外との比較や、今後の展望について解説する。

日本の法人税は年々引き下げられている

日本の法人税率の推移

日本の法人税率は、ここ30年ほどは年々減少傾向にある。日本の法人税の基本税率は、2019年4月1日時点で23.4%だ。中小法人は年800万円以下の所得については軽減税率の19.0%だが、2021年3月31日までの期限限定で15.0%となっている。

平成元年の基本税率は40%で、中小法人の軽減税率は29%だった。法人税は、平成の30年間で7回減税が行われ23.4%まで低下した。下げ幅は何と16.6%だ。特にアベノミクス以降の成長戦略で、そのトレンドは加速した。政府は、より広く税負担を分かち合う構造へとシフトし、税収を拡大しながらトータルの実効税率を引き下げるという方針で法人税改革を進めている。

(図1)日本の法人税の推移

日本の法人税の推移
(出典:  財務省

実効税率は20%台に やっと世界水準に追いつく程度

法人にかかる税金は、法人税だけではない。日本では、法人の所得金額に対し、法人税の他に、地方法人税、法人住民税、法人事業税が課税される。この総額の所得金額に対する割合を実効税率という。税体系は国によって違うので、国際間で比較をする場合は法人税だけでなく、実効税率で比較する必要がある。

日本の実効税率は、税制改正前の2014年度の34.62%から、2015年度32.11%、2016年度29.97%、2017年度29.74%と低下した。(図2)政府が目標としていた20%台を実現したが、それでもやっとグローバルスタンダードに追いついた程度で、特に魅力的な水準とは言えない。

英・米の法人税率は?

税負担の軽減は企業の設備投資の増加や雇用促進に結びつき、企業業績の上昇で経済が拡大し、中長期では税収が増大すると考えられている。実際、日本の税収も、アベノミクス効果もあって2018年度に60兆円まで拡大し、バブル期を超えて過去最高となった。

世界の主要国でも、企業の競争力や成長力を高めるため、また海外からの投資を呼び込むために法人減税を積極的に行っているところが多い。

英国の実効税率は19.0%で、欧州圏の中でも低い。これは、低税率で欧州の拠点としての英国の立場を強めたいという政策によるものだ。

米国の実効税率は、世界最高水準だった2017年の40.75%から2018年には27.98%に低下した。これは、トランプ大統領が2018年に大型の法人減税を実施、最高35%の累進課税から一律21%へと大幅に削減したことによるものだ。これもアメリカの競争力を高めるためであり、2018年の法人税収は減ったが個人の所得税が増加し、国の税収は減らなかった。

(図2)主要国の実効税率比較

主要国の実効税率比較
(出典:  財務省

フランスは世界に先駆け「デジタル課税」を可決

フランスは2019年7月、ついに「デジタル課税」法案を世界に先駆けて可決した。世界での売上が7億5,000万ユーロ(約900億円)を超え、フランスでの売上が2,500万ユーロ(約30億円)を超える企業に対し、売上の3%を課税するものだ。ターゲットとするグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの頭文字をとって「GAFA税」とも言われ、国際企業の課税回避の阻止を目的とした法案である。

これに対し、米国は米企業の利益を損ねる可能性があるとして撤回を求めたが、フランスは国際的なルールに準拠していると主張している。他の国や地域でもデジタル課税導入を検討しており、国際的ルールとして今後の動向が注目される。

「GAFA」が問題視されている理由

グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルといった世界的IT系企業は、プラットフォーマーとして世界で存在感を増している。日本でも、「GAFA」を使わない生活はもはや考えられない。そのGAFAへの課税が世界的にクローズアップされているのだ。

アマゾンの租税回避戦略

たとえば、アマゾン<ティッカー:AMZN>の2018年のグローバルでの売上高は約2,329億ドル(約24.5兆円)、税引き前利益は113億ドル(約1.2兆円)、税引き後利益は101億ドル(約1.1兆円)だったが、払った税金は約12億ドル(約1,300億円)にすぎず、税負担率は約11%だ。米国の2018年の実効税率は約28%なので、計算が合わない。税負担には特殊要因もあるので、2017年についても調べてみると、売上高は1,779億ドル、税引き前利益38億ドル、税引き後利益30億ドルで、税負担率は約20%だった。2017年の米国の実効税率はトランプによる大幅減税前で40.75%だったので、やはりアマゾンの税負担率は実効税率を大きく下回っていた。

アマゾンは税務戦略の詳細を公表していないが、売上や利益を税金の安い国や地域に移転することで節税をしているとの見方が強い。

アマゾンの納税額は楽天の30分の1?

日本のアマゾンについても、日本国に納めている税金は売上高に比べて少ない可能性が高い。アマゾンは、日本ではアマゾンジャパン株式会社とアマゾン・ロジスティックス株式会社として営業していたが、2016年5月にアマゾン・ロジスティックスを存続会社として合併し、同時に合同会社となった。合同会社は決算公告の必要がないので、アマゾンの日本事業の実態は見えづらくなった。

最後の決算公告である2014年は、アマゾンジャパンは売上高が約316億円、税引き前利益約12.6億円で税負担は4.6億円だった。アマゾン・ロジスティックスは売上高が約583億円、税引き前利益が約20.0億円で税負担は6.2億円。両社の税負担の合計は、約10.8億円だった。

米アマゾンの決算によると、2014年の日本事業での売上は円換算で約8,300億円だった。同年の小売大手では、売上規模が同等の高島屋<8233>の売上高が8,514億円で税負担は137億円、EC大手として競合する楽天<4755>の売上高が約5,986億円で税負担は311億円だった。メディアでは、アマゾンの2014年の納税額が楽天の30分の1だったことが話題になった。

グローバル企業の台頭に合わせた課税ルール導入は急務

国際間の課税ルールでは、工場などの恒久的施設がなければ課税しないことになっている。倉庫は恒久的施設ではないので、課税対象外。日本に恒久的施設を持たない企業は、基本的に本社がある国に納税するのがルールだ。だから、アマゾンの日本での売上高や納税額が少なくても不思議はない。国際間の課税ルールが、時代の変化に追いついていないだけなのだ。

経済協力開発機構(OECD)では、こうした租税回避行為ができるような世界の税制を変えるべく、グローバル企業などに対する新課税ルールや、国際社会共通の最低実効税率を定める方向で動き始めている。グローバル企業の課税回避を防ぐために、国ごとの売上に対して課税できる税制を導入しようとしているのだ。フランスのデジタル課税が、その第一歩として注目されるのもうなづける。

アマゾンは、その後も日本でさらに存在感を増している。2018年の日本事業の売上は円換算で15%増の1.5兆円だった。小売業界ではすでにユニーファミマ<8028>を抜き、イオン<8267>、セブン&アイ・ホールディングス<3382>、ファーストリテイリング<9983>、ヤマダ電機<9831>に継ぐ第5位の売上規模になっている。

日本がフランスのように売上の3%をデジタル課税として課すなら、税収は計算上約450億円にもなる。他のグローバル企業についても、本来日本が徴収するべき税金を取り損ねている可能性が高い。経済のグローバル化が進む中で、日本においても何らかのルール作りが必要だろう。

日本の外国企業誘致は成功するか

アジアでは見劣りする日本の実効税率

日本も世界の投資資金を取り入れようと、様々な対策を模索している。しかし現状は、アジアでは法人税制でシンガポールや香港に見劣りしていることは認めざるを得ない。

シンガポールは法人税が17%と低く、さらに様々な優遇税制があるため、実効税率は17%を下回る。たとえば、設立後3年間は税金が大幅に免除される仕組みなどを取り入れて、スタートアップ企業のアジア拠点となることをアピールしている。ネット環境などIT系のインフラにも強いことから、フィンテックやIT系の企業に人気がある国だ。

香港の法人税は基本16.5%だが、2018年4月以降の利益のうち200万香港ドルまでは税率を8.25%とする2段階税率を導入した。これも海外からの投資を呼び込むためである。

東京都独自の政策も

東京都の小池百合子知事は、東京都独自の創業支援、ベンチャー育成などの新産業を産み出す政策、国家戦略特区制度の活用による海外企業の誘致に力を入れ、東京の活性化に力を入れている。

東京23区内の法人実効税率については、国際金融都市構想の一環として、フィンテックや資産運用会社などの金融関連企業を対象に法人税率を20%に近づけたいとしている。これは、アジアのライバル都市であるシンガポールや香港の実効税率を意識したものだろう。

法人税の今後の展開と問題点

法人減税のトレンドは世界で続くと思われるが、単なる税率の引き下げではいつか限界が来るのは明らかだ。日本における法人税の今後の展開と問題点は、以下の3点に集約される。

  • 代替財源の確保
  • 法人減税以外の対策の必要性
  • 赤字法人対策

代替財源の確保

法人減税における最大の問題は、財源確保だ。法人税減税によって国内経済が活性化するまでには時間がかかるだろう。日本では、トータルの実効税率を下げながら赤字法人への課税を強化するなど、税収を増やしつつ実効税率を引き下げるという方針で法人税改革を進めている。

法人減税以外の対策の必要性

法人減税と同時に考えるべきは、企業の設備投資や雇用を促進するような税制、スタートアップの優遇税制などだろう。様々な政策を同時に幅広く進めることが求められる。

デジタル化に必要なオフィスやネット環境、クラウド環境、セキュリティなどの整備も、国策として進めなければならないだろう。世界のIT企業は起業のしやすさ、税制面の優遇、優れたIT環境などを加味して拠点を置く国を決めている。その点では、シンガポールが参考になりそうだ。

環境整備と同じくらい重要なのが、「消費パワー」の強化だ。シンガポールにはアジアのハブとしての魅力があるが、国土が小さいため消費地としての魅力に欠ける。日本が目指すとすれば、消費地としての魅力を高めることだろう。日本の付加価値を高め、海外からの進出意欲を高めるためには、個人所得を増やし、インバウンド客をさらに増やして消費地としての魅力をアピールするべきだろう。

赤字法人対策

国税庁が2019年2月28日に公表した2017年度の「国税庁統計法人税表」によると、赤字法人(欠損法人)は181万977社で、赤字法人率は66.6%だった。赤字法人率は、リーマン・ショック後の2010年度に最高の75.7%を記録したが、その後7年連続で改善しており、2017年度は調査開始以来最低を記録している。

しかし、改善したと言っても3分の2の企業は法人税を納めていない。法人減税と言っても、税金を納めるのはあくまでも黒字企業だ。

構造的な背景もある。高所得者が節税のために法人を設立し、役員報酬を経費として計上することで法人所得を圧縮しているケースは多い。役員報酬や経費で赤字にしてしまえば、法人税を納める必要はなくなるからだ。

また欠損額を一定期間繰り越して損金算入でき、法人税負担を軽減できる欠損金の繰越控除制度も、赤字法人を増やす原因の一つだろう。

いずれにしても、日本は全法人の約10%が所得金額の約80%を稼いでいるという歪んだ構造になっている。こうした問題を改革するような、抜本的な税制改革が必要であることは間違いない。同時に、富裕層やスタートアップ企業の海外流出を防ぐための新しいルール作りにも期待したい。

文・平田和生(ストラテジスト)