賛否両論を招く作品で世界的に有名なイギリス出身のアーティスト、ダミアン・ハースト。NFT元年と呼ばれた2021年にリリースしたNFT作品《The Currency》の結末が話題になっている。

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(画像=DAMIEN-HIRST)

出典:https://www.heni.com/ © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022.

《The Currency》とは?
ハーストが2021年7月に発表したプロジェクト《The Currency》は、1万枚のペインティングをNFT化したもの。販売価格は1枚2,000ドル(約22万円)。1万枚すべてが同じサイズ(A4)・素材でつくられ、紙幣のようなホログラムや作家のサイン、シリアルナンバーの代わりに添えられた個別のメッセージによる偽造防止加工がされた、まるで「通貨(Currency)」のような作品である。

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(画像=The_currency)

出典:https://www.bloomberg.com/ © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022.

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(画像=The-Currency-3)

出典:https://www.newportstreetgallery.com/ © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022.

そして、購入者は1年後に「NFTを放棄して現物の作品を所有」するか、「現物作品を放棄してNFTを所有」するかの選択を迫られ、NFTを選択した人の作品は破壊されるというもの。構想から7年越しに発足した《The Currency》はお金とアートを通じて「価値とは何か?」を問う、ハーストの挑戦的なプロジェクトである。

プロジェクト開始後、そして結果は?
《The Currency》はプロジェクト開始から、わずか1カ月後の2021年7月30日から8月31日までの間に2036枚販売され、4700万ドル(約51億7000万円)の売り上げを記録。しかし、2022年の春には「暗号資産の冬」が到来。7月には、世界最大のNFTマーケットプレイスの「OpenSea」が見通しの立たない低迷に備えて20%のスタッフを一時的に解雇する事態に。《The Currency》も2022年6月の販売は170件、140万ドル(約1億5400万円)に止まり、プロジェクト全体の売り上げ合計は約8900万ドル(約121億円)で終了した。

そして選択期限を迎えた7月。気になる結果は、5149人の購入者が現物作品を選び、4851人がNFTを所有することを選んだ。つまり、ハーストは4851枚、合計約1000万ドル(販売当時約11億円)の価値がある作品を焼却しなければならなくなった。

4851枚の作品を焼却することを報告したダミアン・ハースト

焼却開始。価値があるのは実物かデジタルか?
2022年10月11日、ロンドンのニューポート・ストリート・ギャラリーにて、ついに4851枚の作品の焼却を開始。消防服を着たハーストとアシスタントが、燃やす前にカメラに作品を映して記録をしながら、ギャラリー内の暖炉で約1000枚の作品を燃やしていった。

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(画像=thecurrency)

出典:https://www.reuters.com/ © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022.

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(画像=currency1)

出典:https://www.reuters.com/ © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022.

経済不況下で多くの人の生活が苦しいなか、貴重な作品を燃やしたことに対して「1000万ドルの絵画が燃えているのだから、暖房をつける余裕がなくてもギャラリーに行けばいいのだ」などといった批判が寄せられているという。ハーストはこれに対し、「多くの人は、私が何百万ドルもの美術品を燃やしていると思っているようですが、そうではありません。物理的な作品を燃やすことで、NFTへの変換を完了させているのです」と語った。

シルクスクリーンで大量生産したアンディ・ウォーホルは、一点物の作品に重き価値が置かれていたそれまでの伝統を覆した。そしてデジタル化の進化によってNFTアートが生まれた昨今。作品の数も変化すれば、物理的な作品か、デジタルの作品か、価値のあり方は固定観念を外れて新たな形を生み出している。この《The Currency》はまさにその変化の渦中にあるのだ。

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(画像=thecurrencydamienhirst)

出典:https://www.reuters.com/ © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2022.

今回《The Currency》を購入した人のなかには、「Discord(暗号資産やNFT界隈で使われてるオンラインコミュニティツール)」での人との出会いを喜び、《The Currency》が生み出したコミュニティが素晴らしいと話す人も。NFTというデジタルの世界に飛び込み、新たなファンを獲得してコミュニティを築いているダミアン・ハースト。賛否両論を集めながら、次はどんな仕掛けで価値を問いかけてくるのだろうか。

残りの作品は、同ギャラリーで開催中の展覧会「The Currency」の閉幕(10月30日)まで、毎日決まった時間に来訪者の目の前で燃やされていく予定だ。

ANDARTでは、ダミアン・ハーストの作品3点を取り扱い中。気になる方は【取り扱い作品一覧】からご覧ください。無料会員登録でオークション速報やアーティストニュースをメルマガとLINEでお届けしています。

レートは全て当時のレートで計算(2021年7月平均 / 2022年7月平均) 文:ANDAR編集部

参考
https://news.artnet.com/market/damien-hirst-the-currency-exhibition-2180681
https://news.artnet.com/market/damien-hirst-the-currency-results-2155325