この記事は2022年10月6日に「テレ東プラス」で公開された「800回記念スペシャル~リクルート徹底解剖!:読んで分かる『カンブリア宮殿』」を一部編集し、転載したものです。
絶品グルメの仕掛け人~知られざる「じゃらん」
東京・千代田区。国の重要文化財に指定される東京駅丸の内駅舎の中に最近、あることで1位を取ったものがある。1915年開業の「東京ステーションホテル」で振舞われる朝食だ。
こだわりの素材で丁寧に作られた和食から腕利きのシェフが作る洋食まで。「朝食ブッフェ」(5,250円、宿泊客のみ)はそんな手間暇かけた料理がいくつも楽しめるよう小分けにされ、常時100種類以上が楽しめる。そのこだわりで「じゃらん」朝食ランキング1位を獲得した。
「なかなか簡単に取れる賞ではないので非常に良かったと思います」(藤崎斉総支配人)
毎年、朝食から夕食、サービスの良さまで地域ごとに発表される「じゃらんアワード」。そんな取り組みで旅の楽しみを盛り上げるのは、閲覧者数第1位の旅の予約サイト「じゃらん」。提供するのはリクルートだ。
さまざまな便利サービスを展開するリクルートホールディングスだが、その成長は驚異的だ。この10年で売り上げが3倍以上に拡大、2兆8,000億円を突破している。
リクルート知られざるビジネス・じゃらん編
週末、巨大な橋の下に客が押し寄せていた。日本屈指の絶景、鳴門海峡だ。コロナで遠のいていた客足が戻って来ていた。
▽日本屈指の絶景、鳴門海峡
今、鳴門海峡には客を引き付けるもう一つの魅力がある。兵庫・南あわじ市にある大鳴門橋を一望できる「うずしおレストラン」。「鳴門海峡すし景色」(2,750円)は大鳴門橋をモチーフにした料理だ。並ぶのは地元であがったアマダイに、プリプリのほうぼう。激流が育む身の引き締まった鳴門の魚は、ここでしか味わえない逸品だ。今、口コミで人気拡大中の「うずの幸グルメ」だ。
▽大鳴門橋をモチーフにした「鳴門海峡すし景色」(2,750円)
「海鮮がおいしいと世間に認知されてないということで、『じゃらん』さんを通して南あわじ市と鳴門市 合同でPRが始まりました」(統轄料理長・柿谷竜也さん)
「うずの幸グルメ」は「じゃらん」がプロデュースする新たな地域ブランド。鳴門海峡をまたいだ2つの自治体、南あわじ市と徳島・鳴門市がタッグを組んでいる点もユニークだ。
鳴門市側にある絶景のカフェレストラン「テラスカフェ オーゲ」の「うずの幸グルメ」は美しい手まり寿司「鳴門海峡うずぐるプレート」(2,500円)と、さくさくに揚げた、ハモのバーガー。
▽美しい手まり寿司「鳴門海峡うずぐるプレート」とハモのバーガー
鳴門に新たな名物を生み出すのが、リクルート・じゃらんリサーチセンターの田中優子だ。さきほどのメニューも田中のサポートのもとで開発された。いまや「うずの幸グルメ」は集客の柱だという。
「じゃらん」が手掛けているのは、自治体から依頼を受け、新たな観光資源を作り出すプロデュース業だ。
「地域に入って地域の良さを知って、宿泊プランや飲食店のグルメを作りあげます」(田中)
「じゃらん」はこの活動を全国で展開。旅行需要自体を盛り上げることで、予約サイトとしてのビジネス拡大にも繋げている。
「『パンフレット見て来た』と言ってくださるお客様もいます。『じゃらん』さんにしていただいたことが集客につながっています」(鳴門市「寿し辰」・森本直美さん)
▽「『じゃらん』さんにしていただいたことが集客につながっています」と語る森本さん
人気ホルモン店も導入~便利な「あのマシン」の秘密
リクルート知られざるビジネス・Airペイ編
東京・中野区の人気店「炭火焼きホルモンまんてん」中野店。店の自慢は「ホルモン八種盛り」(2,640円)など、40種類を超える丁寧に処理した鮮度のいいホルモンの数々だ。問題はその注文の仕方。スマホから簡単にメニューを注文できるのだ。
QRコードを読み取るだけで、自分のスマホから注文が可能になる「Airレジオーダー」。店員を呼ばなくて済み、お店側も接客の手間が減る。
▽QRコードを読み取るだけで、自分のスマホから注文が可能になる「Airレジオーダー」
「以前は注文を紙に書いてキッチンに出していたので便利になりました。スタッフもこれがなくなったら大変なことになるんじゃないか、と」(阿部亮代表)
さらに会計の時のカードリーダーは「Airペイ」。実はどれもリクルートが開発した「Airビジネスツールズ」という商品だ。
▽「Airペイ」リクルートが開発した「Airビジネスツールズ」
今、リクルートが力を入れるのは、「ホットペッパー」などの予約サイトで付き合ってきた飲食店の業務効率化。その切り札が「Airビジネスツールズ」なのだ。東京・千代田区の「ビッグカメラ」有楽町店には「Airビジネスツールズ」専用の売り場まであった。
Air事業の全てを任されるリクルート社長・北村吉弘は「レジ締めというのがあるじゃないですか。その日の売り上げを集計して帳簿につける作業も、我々の『Airレジ』を使うとボタン1個だけ。今期の『Airペイ』決済流通総額は1兆円を超える見込みです」と語る。
山梨・富士吉田市。ここで大量に導入されているのが「Airペイ」だ。かつて町内にはカード決済ができない店も多かったが、老舗の和菓子屋「東京屋製菓」も「Airペイ」を導入済み。富士吉田市産業観光部の勝俣美香さんによると「およそ300店に入っています」という。
これはリクルートが町と組んだ観光の活性化策。2019年、富士吉田市はリクルートと観光振興の協定を締結。「じゃらん」のチームが、町中でさまざまな体験イベントを仕掛けていく一方、どこでも決済ができる便利な町としてAirペイを一斉に導入した。リクルートが持つノウハウで一気に町に活気を呼び込むのだ。
「そういう会社がいろいろな田舎に入っていくことがこれからは大切だと思います。すごく感動しました」(勝俣さん)
ヘアサロン予約の必需品~その裏に驚きのビジネスが
リクルート知られざるビジネス・ホットペッパービューティー編
今、リクルートが誇る最強の便利サービスが、スマホから簡単にヘアサロンなどを予約できる「ホットペッパービューティー」。気に入った髪型の写真を選ぶだけで、そのカットが得意なサロンも検索可能。年間の予約数は1億5,000万を超えている。
飲食・ビューティー領域プロダクトデザイン部の長尾美樹部長が訪ねたのは、「ホットペッパービューティー」に掲載している東京・中央区の中村仁美さんのサロン「LOBA」。
中村さんが手放せないというのが、リクルートが開発したヘアサロン専用の予約管理システム「サロンボード」だ。客からの予約が30分単位で自動的に入っていくため、電話応対の手間が消滅した。中村さんは「劇的に楽になった」と言う。
さまざまな便利機能を作り上げてきたのが徹底的なヒアリング。実際、中村さんが困っていた、お釣りの支払いに用意するレジのお金の管理機能も、「『わかりました。作ります』と言って作ってくださった。めちゃめちゃ助かっています」(中村さん)。
「サロンボード」は「ホットペッパービューティー」へ店を掲載すれば無料で使うことができるサービス。「サロンボード」目当てで、サイトへの掲載店舗は爆発的に増え、今や12万6,000店に達している。小さな美容院が生き残るための必需品なのだ。
そんな「ホットペッパービューティー」を生み出したのが、リクルートのビジネスを進化させる新たなトップ、出木場久征(47)だ。
▽「ホットペッパービューティー」を生み出した出木場さん
出木場は、「マッチング&ソリューション」「HRテクノロジー」「人材派遣」というリクルートの3つの事業を統括するホールディングスの社長。海外事業を成功させ、売上を急拡大させたのが出木場なら、「ホットペッパービューティー」の予約システムにゼロから挑んだのも出木場だ。
「最初に始めた時は、僕の部下が『これはうまくいかないと思いますよ』と。『美容室には30%しかパソコンがありません』と言われました。なるほど、それは難しいな、と(笑)」(出木場)
まだパソコンを持つヘアサロンが少ない時代。出木場は一人、まだそこにない便利なネット予約サービスの普及を信じ格闘した。
「『50年後に自動運転の車が普及している』と言ったら、まあ、そうじゃないですか。いつ始めたらいいのかが、ビジネスの一番のキモだと思うんです。そうすると『あそこは早すぎて失敗した』というくらいで挑戦するしかない。諦めずにやり続けるしか、イノベーションはつくれないのかなと思います」(出木場)
1冊の情報誌から巨大企業へ~47歳トップを独占直撃
出木場がリクルートの原点とも言える情報誌を見せてくれた。「企業への招待」。創業者の江副浩正が1962年、26歳の時に発行した大学生向け就職情報誌だ。
「当時は会社を知る情報が何もなく、学生さんには本当に貴重な情報だったという時代だと思います」(出木場)
企業と学生を「情報」という切り口で結びつけたリクルートビジネスの第一歩だ。しかしその後、江副は政財界に未公開株をばらまいた「リクルート事件」の主役となり、表舞台から去る。
そんな歴史を経て巨大企業となったリクルートだが、その主戦場はアメリカにある。メキシコに近いテキサス州・オースティン。ビルの壁面に見えてくるのが「indeed」の文字だ。CMでおなじみの求人サイト「インディード」はリクルートの事業だ。
もともとアメリカのベンチャー企業だったインディードを、2012年、出木場が見つけ出して買収。当時は売り上げ100億円に満たなかったが、リクルートの傘下となり、爆発的な成長を遂げた。
▽インディードの社員と昼食をとる出木場さん
「インディードの社員と昼食をとっていたら、『お前、何やっているの?』と聞かれて、『今度、俺が仕事を教えてやるよ』と言われた。自分がCEOだと知っている人は大爆笑でした」(出木場)
今やリクルートの海外売り上げ比率は55%。出木場も仕事の大半を、アメリカを拠点とした海外で行うグローバル企業の経営者となった。
出木場が入社したのはリクルート事件の後の1999年だった。
「何をやってる会社か知らなかった。どうせ3年で辞めて自分の会社をやろうと思っていたので、半分はどこでもいいと思っていました」(出木場)
ところが30歳の頃、出木場を覚醒させる出来事が起きる。
「朝5時に痛くて痛くて、救急車で運ばれてそのまま入院。十二指腸潰瘍穿孔でした」(出木場)
深刻な病状にもかかわらず、出木場は医者に「僕がいないと仕事が回らない。いつオフィスに戻れますか?」と尋ねる。すると医者は「十二指腸潰瘍で普通、人は死なない。でも放っておいて腹膜炎になると死ぬ可能性もある。ちゃんと人生を考え直しなさい、と」(出木場)。
出木場は天井を見つめながら、終わっていたかもしれない自分の人生について考え続けた。そして、死ぬ前に何か一つぐらい社会に残るサービスを生み出したい、と思った。漫然と働いていた出木場が覚醒した瞬間だった。
いかに価値あるサービスを生み出すか、今、世界を駆け回り訴え続けている。
知られざる「スーモ」~なぜ無料相談の店舗を?
リクルートの便利なサービスがショッピングモールの中にある。それが「SUUMOカウンター」。住宅情報サイト「SUUMO」が展開、住宅のどんな悩みでも無料で答えてくれるという。
▽ショッピングモールの中にある「SUUMOカウンター」
最大の売りは公平なアドバイス。個別物件の営業も一斉行わないのが決まりだ。「SUUMOカウンター」は消費者に正しい情報提供を行うべく作られた。
一方、「SUUMO」のチームがやってきたのは東京・目黒区にできた木造で建てたというおしゃれな賃貸マンション「アーブル自由が丘」。彼らは「SUUMOジャーナル」の取材班だ。最新の住宅を取材し、「SUUMO」のサイトにそのレポート記事を載せる。
▽「SUUMOジャーナル」の取材班
1階にはおしゃれなカフェがあり、賃貸部分には素敵な共有スペースがあるシェアハウスの物件。この取材の狙いは、最近増えている木造住宅を品定めするための取材だという。
「木造住宅に興味を持っている方はめちゃくちゃいるんです。『耐火性、耐震性は大丈夫か』とか『住む場所としてはどうなのか』と、話題の物件としてうかがいました」(住まい領域マーケティング1部・高橋七重)
「SUUMOジャーナル」の編集方針は、消費者の利益になる情報の発信なのだ。
「SUUMO」の始まりは、1976年創刊の「住宅情報」だった。その理念も、正しい情報の発信。曖昧だった徒歩1分の距離を80メートルと決めるなど、業界の基準作りも進めてきた。
▽「SUUMO」の始まりは、1976年創刊の「住宅情報」
消費者への正しい情報提供が最大の価値。時代は移り変わっても、そのポリシーに揺らぎは無い。
-
<出演者略歴>
出木場久征(いでこば・ひさゆき)
1975年、鹿児島県生まれ。1999年、早稲田大学卒業後、リクルート入社。2011年、全社WEB戦略室室長就任。2012年、執行役員、Indeed CEO就任。2021年、リクルートHD CEO就任。
テレビ東京の人気経済番組が見放題の「ビジネスオンデマンド」
「テレビ東京ビジネスオンデマンド」とはテレビ東京で放送したニュースや報道番組の一部をインターネットで視聴いただくサービスです。経済を詳しく伝える最新ニュースを毎日更新し、旬な情報をお届けいたします。法人契約サービスも用意しており、社長本人や従業員の情報収集をサポートしております。