サントリーグループでは、7月1日、国内に5つある酒類会社を統合し、新会社「サントリー株式会社」が誕生した。
生産から営業まで統括し、組織の壁を超えてお客様に徹底的に寄り添う。一体経営をスピード感をもって実現する。社長にはサントリーの創業者・鳥井信治郎氏のひ孫にあたる鳥井信宏氏が就任した。サントリーホールディングスの代表取締役副社長も引き続き兼任。「世界の変化が激しい中、第二の成長期を信宏氏に託す」(ホールディングス新浪剛史社長)とされる通り、これからのサントリーのグローバルな成長を一身に担っていく。新会社設立にあたり、中長期の方針を聞いた。
――改めて新会社設立の目的は
国内酒類事業の一体運営体制を一層強化するため、ビール、スピリッツ、ワイン各事業のマーケティング部門、営業部門、生産部門、研究開発部門を束ねる。すでに2017年にサントリーBWSを新設し、そのもとにサントリービール、サントリースピリッツ、サントリ―ワインインターナショナル、サントリー酒類を傘下としていたわけだが、どうしても細分化してしまう懸念が残っていた。
ビールの会社、スピリッツの会社というと、良し悪しは別にして、どうしても製品軸から物事を考えてしまいがちだ。今回は、お客様起点で物事を考える。これまで無駄とは言わないが、同じお客様に対して、ビールはビールの、スピリッツはスピリッツの、ワインはワインのアプローチをしてきた。当社は赤玉ポートワインに始まり、ウイスキー、ビールと、お蔭様でいろいろなポートフォリオを持っており、もっとアプローチの仕方があるはずだ。
新会社は7月1日付ではあるが、すでに昨年から変革に着手しており、何かが大きく変わるわけではない。予算や、会議体や、営業現場の実務も変わらない。ただ、一層現場の意見をスピーディーに吸い上げていく。
――市場環境の変化について
コロナ禍もあり、市場環境の変化は激しい。業務用市場は2019年以前にはなかなか戻らない。足下をみても、21時くらいまでは料飲店にお客は入っているが、2次会、3次会がない。遅くまで飲んでいた方が戻るのはまだ厳しい。
世界的に適正飲酒への対応が迫られる中、アルコールにノンアルコールというカテゴリーを加えることも重要だ。先月、久しぶりにヨーロッパに出張したが、量販店の棚をみても、ノンアルビールのスペースが拡がっている。やがてノンアルカクテルなどにも波及するだろう。世界的なトレンドとみている。当社もノンアルを「アルコール0.00%のお酒」と位置付けて、プレモーションを拡大していく。GWに東京駅でオープンした「のんある酒場」も期間限定だったが、話題性を喚起できた。私自身、「ノンアルでワインの休日」が驚くほどおいしく、よく飲んでいる。まだまだ、やりようがあると思っている。
――それぞれの品目の課題は
ビールはお客様との接点を増やすためにも、もっとボリュームをとらないといけない。ワインはなかなか収益が上がりにくいビジネスモデルだ。足下では円安という要素もあり、構造的に改革が必要だろう。
スピリッツはグローバルに展開する上での旗振り役を務める責務がある。ウイスキーは今日作って明日売れる、というものではない。現場にも頑張ってもらい実際には生産量を増やしているものの、需給が落ち着くにはまだしばらくかかるだろう。その間、何もマーケティングしなくてよい、ということにはならない。このウイスキー復権の火を消してはならない。引き続き丁寧にマーケティング活動も進めていく。
〈「全社員でビールへの挑戦を行う」〉
――ビール事業の方針は
新会社誕生の7月1日、旧5社計の3千数百名が参加して決起大会を行った。営業現場、生産現場の社員が各拠点に集まった。そこで、ビールは国内に大手4社あるので、まずは四分の一であるシェア25%に挑戦すると改めて宣言した。今こそ過去の延長ではなく、新しい目標を打ち立てる必要がある。
以前と比べて当社には、ザ・プレミアム・モルツ、金麦、オールフリー、パーフェクトサントリービールと強いブランドがいくつもある。これで「売れない」というのは、おかしいだろうと。また、海外出張中にビアボール発表会の報告を見たが、メディアの皆様に大変注目いただいていると手ごたえを感じている。今後もお客様にとって価値のある、ビール市場を活性化する商品を生み出していきたい。
社員のビールに対する意識をさらに高めるため、おいしいビールを、よりおいしい環境で飲んでもらえるようにしていきたい。来年は当社のウイスキー100周年であるし、ビール60周年でもある。これを機会ととらえ、しっかりと活動していきたいと思う。
――社内の環境づくりは
コロナ禍でコミュニケーションが薄れてはいけない。現在も各部署のマネージャー、リーダーがきちんとマネジメントしているが、在宅勤務でできる仕事は在宅ですればよいと思う。一方で、社員が自ら出社したい、と思うような理由付けもしていきたい。終業後、社員で飲めるスペースの整備を田町でもお台場でも行っている。
新会社誕生ももちろんモチベーションアップにつながっている。一例を挙げれば、九州熊本工場の竣工はもう20年くらい前になるが、当時新卒の社員だった方が、これからはサントリー株式会社の一員になる。本人の希望があれば、国内の別の生産現場に異動することができる。そういう自分の仕事の可能性が拡がるところが増えてくるというのも、今回の意図したところだ。
――グローバル戦略は
国内酒類事業を一体化し、盤石なものにした上に次のグローバル戦略がある。次の100年を睨むと、まだまだスピリッツで世界1位が見えてきたとは思っていない。ディアジオやペルノといった競合は強い。ビームサントリーは米国と日本の依存度が高い。競合とは販売構成比もチャネルも違う。もっと世界的に売れるようにならないといけない。そのための一つの武器として、まずは国内を盤石なものにし、ジャパニーズウイスキーの価値を更に上げて、これを世界にどんどん売っていける、というようにしたい。そういうポテンシャルはある。そのためにも2024年からスタートするジャパニーズウイスキーの定義をふまえ、引き続き品質を磨いていく。