この記事は2022年6月9日に「テレ東プラス」で公開された「アルバイトから業界トップに!~「負けない男」格闘の舞台裏:読んで分かる『カンブリア宮殿』」を一部編集し、転載したものです。
あなたの愛車がピカピカに~客殺到! 繁盛店の舞台裏
落とそうとしてもなかなかしつこい風呂の水垢。皮脂が原因で生まれるピンクの汚れも気になる。
掃除代行サービスの「おそうじ本舗」では、まずは汚れの種類や場所に応じて、専用の洗剤や道具で汚れを落としていく。画期的なのはここからで、取り出したのは液体のコーティング剤。これを塗っておけば1年間、水洗いだけで汚れが落ち、カビも出ないと言う。
「評判はいいです。『手入れがいしやすい』というお声がよく届きます」(「おそうじ本舗」佐藤史人さん)
コーティングは作業から1時間で乾くので、頼んだその日もお風呂に入れる。この「おそうじレスコーティング」の料金は、掃除代プラス1万円で総額2万6,400円。このコーティング剤を「おそうじ本舗」と共同開発したのがキーパー技研だ。
東京・足立区。キーパー技研が運営する「キーパーラボ」では、すごい勢いで洗車が行われていた。車の汚れを落としコーティングで「きれい」を長持ちさせる専門店。全国に102店舗を展開、年間51万台もの車をコーティングしている業界の最大手だ。客のリピート率は85%に及ぶ。
そこでは洗車ひとつをとっても工夫が満載。洗車はスポンジを使うところが多いが、キーパーでは羊の毛のグローブを用いる。「スポンジに比べて摩擦抵抗が少なく傷になりにくい」と言う。
▽キーパーでは羊の毛のグローブを用いる
ボディは2度洗い。今度は強力洗浄剤を使い、普通の洗剤では落ちにくい水垢や油汚れを落としていく。流す水にもこだわりが。水道水だとミネラル分がシミになってしまう。キーパーでは水道水を機械に通してミネラルをろ過。だからシミができない。
洗車が終わるといよいよ魔法のコーティングへ。キーパー技研のコーディングを施すと「雨が洗車代わりになる」と言われており、キーパーもCMでアピールしている。
▽洗車が終わるといよいよ魔法のコーティングへ
コーティングした車に色水をかけると、撥水性が高いから走るだけできれいになっていく。そして水を浴びせれば、一瞬で真っさらになるのだ。
一般に行われているコーティングは、まず研磨するのが常識。削って塗装の表面にあるデコボコを平らにし、その上に薄くコーティング剤を塗ることでボディを輝かせている。
だが、キーパー技研は研磨の代わりにこれまでの5倍の厚さでコーティング剤を塗り、表面のデコボコを埋めている。その上に水をはじくコーティング剤も。だから雨が降るたびに汚れが落ちる。作業前と比べてツヤツヤのピカピカに。この「きれい」が1年続く。
▽作業前と比べてツヤツヤのピカピカに
研磨する一般的なコーティングは一日がかりで、料金は7万円を超えるところが多いが、研磨しないキーパーは、その分、早くて安い。人気コースは2時間で2万2,000円。新規客は毎年15%のペースで増えている。
ガソリンスタンドの5軒に1軒が導入する独自技術
キーパー技研の本社は愛知・大府市にある。そのオフィスでは、創業者で会長の谷好通(70)の前に社員が行列を作っていた。さまざまな相談に乗っているのだ。
「優しいです。なんでも聞いてくれるし、『自分で考えて』と言われることもなく、助かっています」(店舗部デザイナー・中島拓也)
ガソリンスタンドのアルバイトから始めた谷は、洗車ビジネスに革命を起こし、東証一部、現在はプライムに上場する会社を一代で築きあげた。
谷のビジネスの独自性は、本社の1階から見えてくる。そこでは人が車と向かい合っているのだが、よく見ると、「エネオスウイング」「出光昭和シェル」など、いろいろなガソリンスタンドのスタッフが入り混じっている。
キーパー技研は、自分たちの技術をガソリンスタンドのスタッフに教えることで新しいビジネスモデルを生み出した。自社開発した洗剤やコーティング剤をガソリンスタンドに販売し、利益を上げている。その相手は今や6,200店。全国のガソリンスタンドの5軒に1軒がキーパーのコーティングを導入しているのだ。
▽全国のガソリンスタンドの5軒に1軒がキーパーのコーティングを導入
「人に何も出さずに独り占めすることが楽しいと思えない。みんなが喜んでくれたほうが楽しいしうれしいですよね」(谷)」
そもそもガソリンスタンドは、若者の車離れや最近の原油高で厳しい状況が続いている。そんな中、全国に319店舗を展開するエネオスウイングの遠野哲朗会長はキーパーを6年前に導入した。すると逆風をはねのけ、売り上げも利益も伸ばすことができたという。
「『キーパーでとにかく稼ぐんだ』と。ガソリンと同じくらいの利益を出しています。感謝以外の何物でもないです」(遠野さん)
ガソリンスタンドにとってキーパーは生き残るための大きな武器となっているのだ。
ファンは全国に広がり、売り上げも右肩あがり。去年は過去最高の118億円に達した。
「新しい洗車やコーティングの市場を構築していく。お客様が喜んでくれてみんなが良くなれば、その仕事は自然に大きくなるに決まっています」(谷)
窓枠の白いシミを防げ~客の声から新商品を開発
これまでキーパー技研は、ユーザーの悩みを解決する商品を自ら開発し、世に送り出してきた。
例えば、樹脂製のバンパーは、時間とともに白っぽくなってしまうという悩みの声が多く上がっていた。そこでキーパーが作ったのが樹脂バンパー専用のコーティング剤「樹脂フェンダーキーパー」(5,800円)。これを白っぽくなったバンパーに塗っていくと、白さは消え、買った時の色に。一度塗ればツヤが1年続くという。
キーパーが商品開発するにあたり、最も大切にしているのが客の声だ。ある日の開発会議で谷が目を止めたのは、窓枠の「白シミを完全に防ぎたい」という要望だった。
「これは他社も作れていないんです。これを防げたらお客様はすごく喜ぶ」(谷)
窓枠にできる白いシミの正体は白サビ。アルミを使った窓枠は、雨に当たると白サビが出てしまうのだ。
白サビを止めるコーティング剤の開発が始まった。商品開発の責任者である谷も参加。コーティング剤の配合を変えながら200通りも試す。まずアルミをコーティングし、そこに雨と同じ成分の水溶液を垂らし、時間が経ったものをチェック。程度の差はあれ、どれも白サビが出てしまった。「まだ全然ダメだね。全部不合格だな」と谷。
▽白サビを止めるコーティング剤の開発
こんな地道なやり方をひたすら続ける。開発まで3年かかったこともあったと言う。
「化学式通りにいけば商品は簡単にできますが、化学式通りには全くいかない。これを何百回かやるしかない」(谷)
2022年4月、白サビのコーティング剤が完成した。愛知・江南市の「キーパーラボ」江南店にやってきた客の車の窓枠には白サビがビッシリ。早速、白サビを落とし、新開発したコーティング剤を塗る。容器も独自開発した。先が筆になっていて、分厚く塗ることができる。この「アルカリブロックキーパー」(3万3,600円)で1年間、白サビを防げると言う。
アルバイトから起業家へ~運命を変えた人生の出会い
洗車業界の革命児となった谷は1952年、愛知県生まれ。4歳の時に脊髄性の小児麻痺、ポリオにかかり、左足に障害が残った。
「足に障害を持っていたので、走ったらいつもドベだった。でも『足が悪いからこれはできない』と言われると、認めたくない」(谷)
18歳になるとガソリンスタンドでアルバイト。強い負けん気から、あえて立ち仕事を選んだ。結局、そこに就職し、32歳で独立。自分のガソリンスタンドを開く。これが繁盛し、2号店も開業した。
ところがここに大きな落とし穴が。当時、ガソリンスタンドは地域ごとに数が制限されていて、他のスタンドが閉店しない限り、谷の2号店でガソリンは売れなかったのだ。
「本当はコーティングをやるつもりはなかったのですが、ガソリンを1年間売れなかったので、何とか食いつなごうとコーティングを始めた。始めてみたらガソリンスタンドと合うと感じて、独自のコーティングをやり始めました」(谷)
ただ、独自のコーティングが簡単にできたわけではない。最初は通常の研磨するコーティングで食いつなごうと思ったのだが、高価だったこともあり、利用するのはほんの一握りのカーマニアだけ。普通の客は見向きもしなかった。
「研磨というのは一般のお客様にとってお金も時間もかかるので買ってもらえない。その人達が買ってくれるコーティングを作ればすごく儲かるな、と」(谷)
研磨しないでいいコーティングなら安くできて需要も生まれる。谷は車用のみならず、スキー板やフローリング用など、ありとあらゆるコーティング剤を買い集め、片っ端から試してみた。塗り方も変えながら、極上のツヤを求めた。200種類以上を試したところで「これだったらいけると思った。『やっとここまできた』という感じでした」(谷)。
▽「『やっとここまできた』という感じでした」と語る谷さん
1992年、研磨をしない新しいコーティングサービスを開始。かかる時間も料金も常識破り。45分で5,000円とすると、多くの客がガソリンを入れるついでに利用してくれた。そして全国のガソリンスタンドの月間洗車売り上げで2位に輝いたのだ。
無名の店の快挙は大評判となり、さまざまなガソリンスタンドのスタッフが視察に来た。谷は開発したコーティング技術を無料で教えた。すると次々に「そのコーティング剤を売ってほしい」との要望が。谷は、「これだ」と思った。
「材料を供給して技術を教えれば、ビジネスとして大きくする価値があるな、と」(谷)
これを機に、谷はより納得できるコーティング剤を自社開発。ガソリンスタンドの経営から、オリジナル商品を他のガソリンスタンドに売る新しいビジネスに転換したのだ。
▽さまざまなガソリンスタンドのスタッフが視察に来る
身近でも拡大中~手間を省く「きれいビジネス」
キーパーはカーコーティング以外のビジネスも始めている。
その現場は三重県亀山市の「エネオスウイング」亀山TS。地上12メートルの看板のコーティングだ。汚れを落とした後で独自開発したコーティング剤を塗れば、車同様、雨で汚れが落ちるようになる。
「皮膜が分厚くて紫外線や熱から防げるので、看板のきれいさを保てます」(特販部マネージャー・青山翔勇也)
この「サインキーパー」(4万円+高所作業車代)で一度コーティングすれば、5年間は「きれい」が続くと言う。
「すごく斬新なサービスだと思うし、きれいになってお客様にアピールできるのでいいことだと思います」(エネオスウイング・楠照順大さん)
他にも、船をフジツボから守るクルーザーのコーティングや、スマホに傷や汚れがつきにくくなるサービスを開始している。
▽キーパーはカーコーティング以外のビジネスも始めている
さらに新たなマーケットも開拓した。最近、急速に売り上げを伸ばしているのが新車のコーティング。トヨタやスバルの新車販売店でキーパーのコーティングをオプションで提供している。
~村上龍の編集後記~
谷さんは負けず嫌いの人だ。1店目のガソリンスタンドの前に巨大な商社系ガソリンスタンドができて、安売り戦争が勃発。闘いには勝ったが、赤字に疲れて閉店。ただし、安売り競争には憎しみしかないと学んだ。
コーティングはむらなく塗るのは高度な技術が必要で、全国のトレーニングセンターで年間延べ5万人が講習を受ける。「自分の車がきれいになる」。感動した客から、ありがとうの声。スタッフの離職率が極めて低い。でも昔から洗車は嫌いだったらしい。車がピカピカに輝くのが好きなのだ。
*価格は放送時の金額です。
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<出演者略歴>
谷好通(たに・よしみち)
1952年、愛知県生まれ。1970年、名城大学中退後、富士石油販売入社。1985年、(株)タニ創業。1993年、コーティング部門を分離しアイ・タック技研設立。2014年、キーパー技研に社名変更。2016年、東証一部上場。2018年、会長兼CEO就任。
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