IT就職の氷河期到来か? 米テック株崩壊でリストラ・新規雇用抑制
(画像=and4me/stock.adobe.com)

米国の政策利上げをきっかけにIT株の暴落が続く中、TeslaやNetflix、Meta(旧Facebook)などのテック企業大手が、続々と人員削減や新規雇用抑制に乗り出している。「上場IT企業に入社すれば一生安泰」という時代は、終焉を迎えたのだろうか。

米株が弱気相場入り

コロナ禍で市場最高値を更新し続けていた米株式市場は、2022年に調整局面に突入した。ナスダックやS&P500の下落とともに、割高感が強かったIT株が売られて大手銘柄が軒並み急落。2000年代初頭の「ITバブル崩壊」の再来を懸念する声が一部であがっている。

景気後退とさらなる金融引き締めへの警戒感から、米相場の調整は長期化するとの観測が市場で広がり、2022年6月13日にはS&P500が3.88%急落の3,749.63ポイントと、年初来安値を更新した。

過去10年間にわたって、低金利と過剰マネーに後押しされた強気相場に終止符が打たれ、弱気相場入りが確認された。

Teslaでは1万人がリストラ対象に

雇用市場に激震を走らせたのは、米電気自動車(EV)大手であるTeslaの大量リストラ計画だ。

イーロン・マスクCEOが、幹部宛てのeメールで従業員を10%削減する意向を伝えていたことが、2022年6月3日のロイターの報道で明らかになった。2021年末時点のSEC提出書類から試算すると、子会社を合わせておよそ1万人が解雇対象となる。

コロナ禍で急成長を遂げたTeslaは、ピーク時の2021年11月には時価総額が1兆ドル(約134兆7,533億円)を突破するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

しかし、それを境に一転して下落基調になった。2022年4月には株価が12%以上急落し、1日で1,260億ドル(約16兆9,938億円)の時価総額が吹き飛んだ。2022年6月17日時点では639.30ドル(約8.6万円)とピーク時から約48%下落している。

急落の引き金となったのは、マスクCEOによるTwitter買収騒動だとされているが、他のIT株が軒並み下落している現状を考慮すると、複数の要因により生じたと解釈すべきだろう。

同氏も同様の見解を示しており、メールの中で景気に対する"深刻な懸念"について言及。リストラの実施とともに、「世界的な雇用の一時停止」を命じた。

業績低迷や過剰雇用が原因となり経営を圧迫

一方で動画ストリーミングのNetflixは2022年5月、業績低迷を理由に、北米の従業員の約2%にあたるカリフォルニア支社のスタッフ約150人を解雇する計画を明らかにした。

同年4月に発表した四半期決算は過去最高の売上高を記録したが、アナリストの予想には届かず、過去10年間で初めて会員が減少するなど成長の鈍化が顕著に表れていた。

FinTechの旗手とされた米投資アプリ、Robinhoodは、経営効率化戦略の一環として正社員の約9%を削減すると発表。同社は個人投資家間でミーム株(SNSなどで注目を集め、短期間で急激に株価が上昇した銘柄)ブームを巻き起こし、2021年7月に上場を果たしたものの、2022年6月16日の株価は87%減と大幅に落ち込んでいる。

また、昨年末に従業員900人をZOOMで解雇したとして批判されている、米住宅ローンプラットフォームBetter.comでは、従業員の半数に当たる約4,000人を追加解雇する計画が報じられている。

ヴィシャル・ガーグCEOいわく、過剰雇用が前第3四半期にもたらした損失は1億ドル(約134億,7484万円)に達した。

「急成長し過ぎた」暗号資産セクター

リストラの波は暗号資産セクターにも及んでいる。

主要仮想通貨の暴落の影響から、複数の仮想通貨取引所が人員削減を余儀なくされる中、米国最大の仮想通貨取引所Coinbaseは、2022年6月14日に全従業員の18%にあたる1,100人のリストラを実施すると発表した。

暗号資産市場の急成長に伴い雇用を急拡大させたものの、市場環境の急変によりコスト管理を引き締める必要性が生じたためである。ブライアン・アームストロングCEOは、従業員宛てのメモの中で「我々は急成長し過ぎた」と述べた。

MetaやUberは採用凍結

Metaや配車アプリのUber、Lyftは、新規雇用ペースを減速させるという手段を選択した。

Twitterも買収に先立って採用の一時凍結、並びに旅行、コンサルティング、マーケティングなどのコスト削減を計画していることが、ブルームバーグ紙が入手した内部メモから明らかになった。このメモは同社のパラグ・アグラワルCEOが社員に宛てたもので、全社規模の人員削減は計画していないものの、「効率性の改善のために必要に応じて組織再編を続ける」意向が示されていた。

2022年の第1四半期に38億ドル(約5,135億6,109万円)の純損失を計上したAmazonも、同年後半に人員削減に踏みきる可能性が高い。

ライアン・オルサフスキーCFOによると、コロナ需要で物流倉庫の収容キャパを2倍に増やした結果、人員過剰に陥ったため生産性が低下し、前年と比較してコストが約20億ドル(約2,702億517万円)増となったとされている。

リストララッシュでも求人需要は旺盛?

お世辞にも楽観的とは言えない現状は、ITセクターの就職氷河期到来を予感させるが、一部のアナリストや人事担当者は悲観的な見通しを否定している。

例えば、求人サイトIndeed.comのデータによると、2022年における米国のソフトウェア開発者の求人広告は、2020年初頭を120%上回っている。Zip Recruiterのデータでもテクノロジーセクター、特にセイバーセキュリティやソフト開発分野の求人需要は依然として非常に高く、1人あたりに対して約1.6人相当の求人がある。

また、リストラ統計サイトLayoffs.fyi のデータを見る限り、世界的なロックダウン真っただ中の2020年第2四半期には約6万人がITセクターで解雇されたのに対し、2022年第2四半期はその3分の1強にとどまっている。

現在の市場が多数の不確実性であふれている点を考慮すると、ITセクターが景気後退を見据えたプレ就職氷河期にあるのか、あるいは短期的な調整局面にあるのか、現状だけを見て判断するのは難しい。

もっとも、多数の企業がコロナ禍の消費需要に応えて事業規模を拡大した中で、インフレによる需要パターンの変化や金利上昇の圧力に苦戦していることだけは確かである。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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