
IT技術の発展により、サービスのデジタル化が急速に進み、DXの推進が求められている。DX推進にあたって大きな役割を果たすのがDX人材だ。本記事では、DXの現状や課題をおさらいしつつ、DX人材の定義や求められるスキルなどを解説する。DX人材を確保・育成する方法や、教育に役立つ資格についても参考にしてほしい。
目次
そもそもDXとは?
DX(Digital Transformation、デジタルトランスフォーメーション)とは、グローバル化などによるビジネス環境の急激な変化に対して、社会ニーズをもとにデジタルテクノロジーを活用して自社ビジネスを変革させることである。
DXが求められる理由
5G環境の普及をはじめ、IoT技術の発達や人工知能(AI)の誕生、ビッグデータの活用など、ビジネスでは最新のデジタル技術が不可欠となった。
DXでは、最新技術によって新しい製品やサービス、ビジネスモデルを生み出し、競合他社に対する優位性を確立していく。
すでに総務省はDX推進ガイドラインを策定しており、DX化に関する経営戦略やビジョンの明確化、DX推進体制の整備など、経営のあり方と仕組みを示した。
DX推進の現状
2020年に総務省が報告したデジタル競争力ランキングにおいて、日本はG7では6位、世界順位では27位と低迷している。アジアにおいても、シンガポールや韓国に出遅れているのが現状だ。
また、「ポストコロナの経済再生に向けたデジタル活用に関する調査研究」では、関連項目の詳細順位が以下のように報告されている。
これによると、以下の項目について課題を抱えているとわかる。
・人材
・規制枠組み、資本
・ビジネスの俊敏性
規制枠組みについては、政府の対応が欠かせない。しかし、人材や資本、ビジネスの俊敏性については、経営計画も含めた企業側の課題も浮き彫りとなっており、DX推進のために解決が不可欠である。
このような状況下にあっても、ほとんどの企業がDX化に取り組めていない現状であり、社内で危機感の共有や意識の改革が進んでいない。
DX化が遅れている要因
日本のDX化が遅れている要因として、レガシーシステムの存在がある。
レガシーシステムとは、過去に導入したITシステムの老朽化や増築などによる複雑化によって、保守や運用のコストが肥大化したシステムだ。日本企業の約8割が、レガシーシステムによって資本の問題を抱えているとされている。
また、システムサポートの終了やシステム導入に関わった技術者の定年退職なども重なり、人材に関するノウハウの継承停滞も問題視され、「2025年の崖」として12兆円にのぼる経済損失が懸念されている。
DX推進に不可欠なDX人材
2025年の崖は、DX推進を担う技術者の不足という問題も抱えている。避けては通れない課題であり、DXを推進する人材の確保や育成は急務となっている。
DX人材の定義
DX人材とは、DX推進に関する知識やスキルを習得した人材だ。主に以下の技術に関する知識やスキルが必要とされている。
・人工知能(AI)に関する技術
・IoTシステムの構築に関する技術
・セーフティ、セキュリティに関する技術
・システムズエンジニアリング技術
ビッグデータを収集して分析・解析する技術についても重要度が増していくとされている。
DX人材の課題
最新技術に詳しいDX人材の確保や育成は急務だが、単純にスキルがある人材だけを集めてもDX推進は難しい。
ビジネスをデザインできる人材やシステム全体を俯瞰できる人材などが将来的に必要になると予測されている。
DX推進人材の不足感
DX推進に必要とされる職種について、人材の不足感を調査した結果も報告されている。
DXビジネスの企画・立案などを担当するビジネスデザイナーや全体を統括して主導するプロデューサーの人材不足が顕著であるとわかる。
DX推進に必要な職種6つ
DX推進に欠かせない人材は主に下記の通りだ。
・プロデューサー
・ビジネスデザイナー
・アーキテクト
・エンジニア/プログラマ
・データサイエンティスト/先端技術エンジニア
・UXデザイナー
ここでは、各職種の役割について解説する。
職種1.プロデューサー
プロデューサーは、DX関連のプロジェクトを実行するリーダーだ。プロダクトマネージャーと呼称されることもあり、マーケティングや経営計画の立案にまで関わる。
IT技術でビジネス変革を主導する立場であり、CDO(最高デジタル責任者)がその役割を担うこともある。
プロデューサーには、ITスキル以外に経営の知識も必要だ。管理職やIT事業の人材など、自社の主力を内部から登用するケースが多い。
職種2.ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーは、DXに関するビジネスやマーケティングを企画・立案・推進するDX人材である。
プロデューサーが描くDXを実現するために、具体的なプランを立てる立場だ。IT技術やシステム全体に対する深い理解だけでなく、ニーズを把握する力やビジネスへの知見などが求められる。
職種3.アーキテクト
アーキテクトは、ビジネスデザイナーが描いたDX企画に対して必要なシステムを設計するDX人材である。テックリードやエンジニアリングマネージャーと呼称されることもある。
課題抽出や要件定義なども行うが、システムの実装についてはエンジニアが行う。ITスキルのほかに経営者目線の設計力も求められる。
職種4.エンジニア/プログラマ
エンジニア/プログラマは、アーキテクトが設計したシステムを構築・実装するDX人材である。
システムを稼働させるハードウェアエンジニアや、IT環境を構築・運用・保守するインフラエンジニアなどは、DX人材として欠かせない。
自社のDXに必要なシステムは、会社の事業や業界によって異なる。既存社員だけで構築できないケースがあり、ITベンダーへの外注も視野に入れなければならない。
プログラマには、JavaやJavaScriptなど、Web・アプリケーションのプログラミングスキルが求められる。場合によってはPythonやRなど、機械学習や統計に関するプログラミングスキルも必要になる。
職種5.データサイエンティスト/先端技術エンジニア
データサイエンティストは、社内外に蓄積されているビッグデータを活用してDXを推進するDX人材である。
課題解決につながるデータを選定・分析・解析するデータサイエンスの知識を持つ。社内データに精通している必要もあり、データ解析の素質がある社員の育成も重要だ。
先端技術エンジニアは、機械学習やディープラーニングなどのAI(人工知能)、ブロックチェーンといったデジタル技術に詳しいDX人材だ。
技術の変化が目まぐるしい領域であり、自社で人材を確保できない場合、外部リソースとの連携も必要になるだろう。
職種6.UXデザイナー
UXデザイナーは、ユーザーの体験(User Experience)を想定してシステムの最適なデザインを設計するDX人材だ。顧客向けサービスのDXを想定している会社には欠かせない。
ユーザーのニーズを汲み取り、体験を通したフィードバックを言語化して、システムに反映する力が求められる。
UI(User Interface)に関する経験やスキルも必要であり、自社に該当スキルを持つ社員がいなければ外注を検討する。
DX人材に求められる能力5つ
DX人材にはさまざまな能力が求められる。ここでは代表的な能力について紹介する。
能力1.マネジメント力
DX推進においてリーダーの役割を果たす人材には、プロジェクトマネジメント能力が欠かせない。
スコープ設定やコスト意識、リスクマネジメントなどをはじめ、プロジェクトメンバーの育成などに関するスキルが重要だ。
能力2.企画推進力
DXは、業務のデジタル化が目的ではない。あくまで、デジタルによる経営革新を目指さなければならない。
そのため、新しいビジネスを企画する力や周囲を巻き込みながら推進する力も必要だ。
能力3.実務力
DXではデジタル技術を活用するため、IT関連の知識だけでなく実務スキルも不可欠だ。
たとえば、データサイエンティストには課題設定力が求められる。単純なスキルだけでなく、問題を見抜き解決するための視野も欠かせない。
能力4.学習力
AIの発展やビッグデータの活用など、IT業界の技術は急激に進化している。せっかくDXを進めても、活用した技術が廃れる恐れもある。最先端テクノロジーに興味を持てる好奇心と、素早く最新の知識を習得できる学習力が重要だ。
能力5.設計力
DXを行う際には、最終的にシステムを使用するユーザーを考える必要がある。そのため、UIやUXなどユーザー目線で設計や実装を行う能力が大事だ。
DX人材が社内改革するときの方針3つ
DX推進では、想定外の困難にぶつかることも少なくない。DX人材がぶれずにプロジェクトを遂行するための方針を確認してみよう。
方針1.現状を変えるためにやりきる
DX推進では、さまざまな困難にぶつかることがあり、既存社員から反対されることもあるだろう。しかし、経営革新という目的を果たすためには、情熱を持って最後までやりきらなくてはならない。
方針2.周囲を巻き込んで調整する
DXのプロジェクトを遂行するには、部署横断的な活動が求められ、関係各所から同意を得なくてはならない。さまざまな意見をまとめて折衝していくことを意識しよう。
方針3.失敗を恐れず計画に固執しない
DXの計画進行中には予期せぬトラブルや、想定の甘さが露見することもある。その場合、失敗を恐れず当初の計画に固執しすぎないよう柔軟性に考えていく。
DX人材を確保する方法3つ
DX人材の確保が難航している企業も少なくない。ここでは、DX人材を確保する方法を紹介する。
方法1.外部パートナーにDX推進を依頼する
ITサービスに詳しいITベンダーにDX推進を依頼する。また、システムの導入をサポートするSIer(System Integrator)やシステムプロバイダーなども相談先として検討したい。DXシステムの実装・運用・保守を任せられる人材が見つかるかもしれない。
方法2.社外からDX人材を獲得する
DX推進の経験があるエンジニアを中途採用や派遣社員として雇用する。
アーキテクトやデータサイエンティスト、AIエンジニアなどは、システムの設計や実装段階で特に重要なDX人材だ。社内に適性のある社員がいなければ、中途採用や委託を検討したい。
方法3.社内でDX人材を育成する
社内でDX人材を育成する方法があるが、人材を選定・教育する時間を考えると、負担は大きい。
しかし、システム実装を外部委託のみに頼っていては、運用・保守なども含めてコストが増えてしまう。コスト全体を俯瞰しつつ自社で賄える人材を育成していくべきだ。
ユーザー企業とベンダーに求められるDX人材とは?
DX推進への関わり方はユーザー企業とベンダーによって異なり、求められるDX人材も違ってくる。ここでは、ユーザー企業とベンダーの各立場で求められる人材像を紹介する。
ユーザー企業に必要なDX人材
経営の根幹に関わるプロデューサーやビジネスデザイナーを社内で選定しなければならない。アドバイザーとして外部コンサルタントに頼ることもあるが、最終的なDXの方針はユーザー企業のトップ人材が担う。
アーキテクトはDXによる経営改革を具体化する役目であるため、できればユーザー企業で人材を育成してほしい。自社データを分析できるデータサイエンティストも必要だ。中途採用という手で採用するのもよいだろう。
システムの実装に関わるエンジニアやUXデザイナーなどは、自社に知見がない場合も多いため、ベンダー企業への外注なども検討しよう。
ベンダーに必要なDX人材
ベンダーがDXに関わる際には、受託開発やアドバイザーとしての役割がほとんどだろう。したがって、要望を形にする最新テクノロジーに詳しいエンジニアや、要望からデザインを最適化できるUXデザイナーなど、実装に関係する人材が不可欠だ。
ただ、ベンダーも受託だけでは競合との差別化が難しくなる。そのため、自社の独自技術を活かしたDX推進アプリケーションを提供するなど、ユーザー提案型のプロデューサーやビジネスデザイナーも不可欠となるだろう。
DX人材の育成ポイント4つ
DX人材の育成方法に迷っている担当者もいるだろう。ここからはDX人材を育成するポイントを解説していく。
育成ポイント1.DXの経営戦略を明確にする
DXを推進する際には、自社の目的に応じた経営戦略を立てたうえで、具体的な経営計画に落とし込む。経営計画には人材育成の項目も設けて、社員に会社としての方針を共有する。
育成ポイント2.職種に適したDX人材を選定する
DXでは、ITスキルのほかにビジネス感覚が必要な職種もある。そのため、職種に適したDX人材を選定してから育成に取り掛からなければならない。
育成ポイント3.DXを学ぶ機会を提供する
DXに関して自社にノウハウがない分野では、OJTによる育成は不可能だ。そのため、リカレント教育や研修などで学ぶ機会を用意して、参加を後押しすることも重要である。
育成ポイント4.政府のDX人材育成支援を活用する
経済産業省は、2018年から「第四次産業革命スキル習得講座(リスキル講座)認定制度」を施行している。経済産業大臣が認定した講座を受講して受給条件を満たせば、最大で講座受講費用の7割が給付される。対象分野は以下の通りだ。
・AIやIoT、データサイエンス、クラウドなどの実務レベル分野
・高度なセキュリティやネットワークの実務レベル分野
・IT技術の利活用についての分野
新卒社員に対象講座を受講させる活用方法もあるだろう。
DX人材におすすめの資格6つ
DX人材には、DX推進に関する知識をはじめ、IT技術を経営に活用するスキルなども求められる。ここでは、DX人材が知識やスキルを習得するのにおすすめの資格を紹介する。
おすすめ資格1.プロジェクトマネージャ試験(PM)
プロジェクトマネージャ試験(PM)は、システム開発のプロジェクトを成功に導く能力について証明する国家資格だ。
予算や品質、リスク、メンバーなどを的確に管理できるスキルが求められる。DX人材におけるプロデューサーに関連する資格といえよう。情報処理技術者試験の中では最高難度である。
おすすめ資格2.ITパスポート
ITパスポートは、IT業界における入門資格だ。AI技術やビッグデータ、IoTをはじめ、マーケティングや経営戦略などについても学べる。社内でDXに関する基礎知識を浸透させるために、IT技術者以外の社員にも取得を促すとよい。
おすすめ資格3.ITコーディネータ試験
ITコーディネータ試験は、経営のIT化についてアドバイスできることを証明する資格である。
経済産業省が推進する資格であり、ITベンダーならばユーザー企業のDX支援に役立つ。プロデューサーのように、DX人材を育成する立場にも欠かせない資格だ。
おすすめ資格4.基本情報技術者試験
基本情報技術者試験は、ITエンジニアに必要な基礎知識を網羅的に学べる国家資格である。
取得すれば、プロジェクトマネージャなどの上位管理者からの指示をもとに、プロジェクトの実務を行えることを証明できる。若手エンジニアの育成に役立つだろう。
おすすめ資格5.データベーススペシャリスト試験
データベーススペシャリスト試験は、DXの要であるビッグデータ活用に関連する資格である。ビッグデータの活用では、取得データの選定やデータ蓄積先の設定など、データサイエンスの知識が必須だ。
同試験は、データベースの企画や構築、保守に関する専門性を証明する資格であり、DX人材には欠かせない。
おすすめ資格6.G検定
G(ジェネラリスト)検定は、最新テクノロジーを事業に活用するジェネラリストを養成する検定である。一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が開催している。
AIや機械学習、ディープラーニング(深層学習)などの知識を学習できる。いずれの知識もDX推進に役立つはずだ。
DX人材の確保や育成について経営計画に盛り込む
デジタル化が進み、顧客ニーズが多様化した現代において、DXの推進は避けられない。「2025年の崖」にあるように、レガシーシステムやDX人材の確保など、DX推進にともなう問題も浮き彫りになっている。
経営者が自社でDXを推進するには、社員育成や外部委託などによって、DX人材を確保しなければならない。経営戦略にDXの目標を盛り込み、社員に共有することも不可欠だ。
自社の将来像とリーダーを明確にしたうえでDXを推進していこう。
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文・隈本稔(キャリアコンサルタント)