2019年4-9月期、上場する78の地銀・地銀グループのうち56行が最終赤字となった。収益悪化の主因はもちろん低金利である。しかし、貸倒引当や損失処理費用を含む “与信費用” の負担がこれまで以上に重くなった影響も大きい。日経によるとこの中間期における与信費用の合計は1,077億円(不祥事のあったスルガ銀行を除く)、前年比で2.2倍に拡大した。実際、中小企業の倒産はじわりと増えつつある。2019年7-9月期における倒産件数の前年比伸び率はリーマンショック後の2009年1-3月期の13.4%に次ぐ8.1%増に達したという(東京商工リサーチ調べ)。
2009年12月、国は中小企業金融円滑化法を施行、リーマンショックの影響で経営危機に陥った中小企業を救済すべく返済猶予など貸付条件の変更を銀行に要請した。円滑化法は2013年3月で期限を迎えたが、引き続き「法の精神の維持」が求められてきた。実は円滑化法施行の前年、金融庁は貸出条件緩和のための経営改善の計画期間を3年から5年(最長10年)に変更している。つまり、円滑化法適用会社は最長10年間の長期経営計画を銀行に提出しているということだ。
それから10年が経過した。計画どおり成長軌道を回復し、収益の改善が進んでいる企業ばかりではあるまい。ここへきての倒産件数増と地銀の与信費用の拡大は、円滑化法施行から10年を経た今、「法の精神の維持」の解釈に幅が出来てきた、ということだ。要するに「猶予期間は終わった。改善見通しが立たないのなら支援は打ち切る」ということである。
一方、地銀の預貸率は上昇基調にあり、低金利下にあって融資拡大に積極的だ。背景には自身が淘汰の危機にあるという事情がある。政府が主宰する “未来投資会議” は2019年の実行計画案の中に「地方銀行に対して向こう10年間で集中的な再編を促す」と書き込んだ。各行は10年内にやって来るであろうXデーに向けて自行のプレゼンスを少しでも大きくしたい。そのためには資産の健全化と地元優良企業との関係強化が必須だ。より良く選別されるための選別が進むということだ。
とは言え、闇雲な融資拡大がリスクであるように形式基準のみによる健全化は自らの未来の芽を摘むことになる。地域の中に可能性を見い出し、支援し、育成すること、つまり、地域密着型金融という地銀本来のノウハウこそが最大の資産であって、それが強固で、豊かであることが自行の企業価値を高めることになる。地方創生の担い手は地元企業であり地域金融である。淘汰を再生と創造につなげるための “選別” に期待する。
今週の“ひらめき”視点 11.17 - 11.21
代表取締役社長 水越 孝