イグジット,方法
(写真=PIXTA)

ベンチャーなどの創業者や投資ファンドが株式を売却し、投資を回収するイグジットは、主な方法としてIPOによるものとM&Aによるものとがある。この記事では、イグジットの主な方法と近年の傾向、イグジットの失敗例、およびM&Aによるイグジットの事例について見ていこう。

イグジットとは?投資の回収を「出口」にする

イグジットとは、ベンチャービジネスや企業再生などにおいて創業者あるいはベンチャーキャピタルなどのファンドが株式を売却し、投資を回収することである。イグジットの方法には大きく分けてIPO(株式新規公開)、およびM&Aによる事業売却の2つだ。「イグジット」の用語の由来は、英単語の「Exit(出口)」からとなる。ファンドが利益の確定を出口とすることから広まった。

IRR(内部利益率)ベースで15~30%くらいを目標利益率とするのが一般的だ。ベンチャー企業は、ファンドによる投資を望む場合、出口計画(イグジット・プラン)を明確に持つ必要がある。「いつごろ、どのような方法により、どの程度の見返りが得られるのか」を明らかにし投資家の採算性に積極的にコミットする姿勢を見せることが重要だ。

また出口計画を明確に持つことは、マネジメントメンバーのモチベーションを高めることにもつながる。なぜなら近い将来におけるはっきりとした目標は、メンバーの金銭的欲求に応え、また自己実現の欲求を刺激することになるからだ。

イグジットの方法は2パターン

イグジットの方法として主なものには、IPO(新規株式公開)、およびM&Aによる事業売却の2つがある。そのほかの方法として中小企業の事業承継などの場合は、MBOが用いられることもある。それぞれのメリットとデメリットを見てみよう。

イグジットの方法1. IPO(新規株式公開)

IPOは、創業者などの既存株主が保有していた株式を上場により証券市場へ流通させることである。上場することにより株価が大幅に上昇することも多い。上昇したタイミングで株式を売却し、投資資金を回収することとなる。

<IPOによるイグジットのメリット>
IPOによるイグジットのメリットは、第一に、創業者が引き続き経営を行えることだといえる。創業者は、株式を売却するといっても一定数の株式はその後も保有することが一般的だ。したがってIPOによるイグジットにおいては、創業者が経営を継続し上場企業としてさらなる成長を目指すことが可能となる。

またIPOによるイグジットのメリットとしてM&Aによるイグジットと比較し得られる利益が一般に多いこともあげられる。上場にあたって株価が大幅に上昇することが多いためだ。

<IPOによるイグジットのデメリット>
IPOによるイグジットのデメリットとなるのは、多大な時間と費用がかかることだ。内部統制の整備や管理部門の充実などIPOの条件に見合った組織体制を整え監査法人による監査を受けなければならないためである。近年では、変化が激しい時代となりプロダクトライフサイクルも短い傾向だ。IPOのために時間をかけている間にマーケットが変化し、イグジットできなくなるケースもある。

イグジットの方法2. M&Aによる事業売却

投資資金の回収は、M&Aによる事業売却によって行うことも可能だ。アメリカにおいてはイグジットの多くはM&Aによって行われる。

<M&Aによるイグジットのメリット>
M&Aによるイグジットのメリットは、第一にIPOによるイグジットと比較して短期間に行えることである。IPOを行うためには、厳しい上場基準を企業が満たさなければならない。一方、M&Aの場合には、買い手の企業が「買いたい」といえば交渉が成立する。またM&Aによるイグジットなら赤字企業でもイグジットを果たすことが可能だ。

例えばInstagramは、利益を1円も上げていないにもかかわらずFacebookに800億円で売却された。M&Aにおける企業の価値は買い手企業が決めることとなるからだ。

<M&Aによるイグジットのデメリット>
M&Aによるイグジットのデメリットとしてあげられるのは、まず創業者の経営権が縮小されたり、なくなったりすることである。なぜならM&Aを行うことにより売却された企業の経営権は買い手の企業に移るからだ。ただし創業者は、売却して得た利益によって新しく事業をおこすこともできる。したがってこのことは必ずしもデメリットとはいえない場合もあるだろう。

また上述した通りIPOによる場合と比較して得られる利益が一般に少ないこともM&Aによるイグジットのデメリットだといえる。

その他のイグジットの方法(MBO)

その他のイグジットの方法として中小企業における事業承継の場合には、MBO(マネジメント・バイアウト)があげられる。MBOとは、経営陣が自社の株式を取得すること。所有と経営が分離していた企業においてMBOは、元オーナーの立場から見ればイグジットの方法の一つといえる。MBOで問題となるのが新しい経営陣が株式を取得するための資金だ。

個人で資金を出すことが難しい場合には、株式買い取りのための資金を金融機関から融資を受けたりファンドから出資を受けたりすることもある。

近年では日本でもM&Aによるイグジットが増えている

イグジットの方法としてアメリカでは以前から、ほとんどの場合においてM&Aが採用されてきた。しかし日本では、IPOによるイグジットを目指すベンチャー企業が多い。その理由として、まずベンチャー企業の側にM&Aに対して「身売り」や「大企業に買われた」などネガティブなイメージを持つことが多いことがあげられる。

加えて売り込みの際に必要となる大企業の作法について慣れていないこともある。また買い手の大企業の側にとっても以下のような不安な面があるだろう。

・M&Aに慣れていない
・買収した後にどのように経営をすればいいのかわからない
・どのようなベンチャー企業があるのかがわからない

しかし近年では日本でもM&Aによるイグジットが増加している。2017年にはKDDIによるIoT領域のベンチャー「ソラコム」の買収や、2018年にはヤフーによる料理レシピ動画サービス「クラシル」の買収などもあった。2018年の日本企業によるM&A件数は、3,850件と過去最多だった。M&Aイグジットが日本でも増えている理由として、以下のことが考えられる。

1. ベンチャー企業の意識の変化

近年になりベンチャー企業の意識が変化してきたといわれている。若手を中心としてM&Aに対して肯定的な経営者や起業家が増えている。

2. 日銀の超低金利政策の影響

日銀の超低金利政策の影響で大企業がベンチャーを買収する際に必要となる資金を非常な低金利で調達することが可能だ。そのために大企業においては、自前で新規事業を始めるよりベンチャーを買収したほうがコストを抑えて迅速に事業展開できるとの考え方が広まりつつあるといわれる。

理想のM&Aイグジットを達成するための条件とは?

M&Aによるイグジットを検討している場合には、自社の売却可能性を客観的に判断することが必要だ。ベンチャー企業のオーナーは、自社の価値を過大に見積もりがちである。しかし売却が可能となるのは、以下の3つの条件を満たさなくてはならない。

・キャッシュフローが黒字であるのか
・買収先の企業に対してシナジー効果を提案できるだけのプロダクトやサービス、あるいは顧客を持っているか
・創業者がいなくても事業が継続していけるか

1. キャッシュフローが黒字であるのか

大前提として「キャッシュフローが黒字であるのか」が重要だ。ただし成長戦略として広告宣伝を積極的に行っているために赤字であるということもある。成長のための投資を仮に抑制した場合、キャッシュフローは黒字になるのかを問うことになるだろう。キャッシュフローが黒字でないと売り手の交渉力は基本的にゼロになる。

なぜならキャッシュフローが赤字の場合、買い手にすれば交渉を長引かせることにより資金が尽きるまで待っていれば十分に安い価格で買い取りができることとなるからだ。

2. 買収先の企業に対してシナジー効果を提案できるだけのプロダクトやサービス、あるいは顧客を持っているか

企業がベンチャー企業を買収するという場合、企業は次のいずれかのシナジー効果が期待できる。

  • 買収先ベンチャー企業のプロダクトやサービスを自社の顧客に対して展開する
  • 自社の製品を買収先ベンチャー企業の顧客に対して展開する

一般にM&Aを検討するような大企業は、確立した顧客基盤を持っている。またその顧客に対して新たに展開できるプロダクトやサービスを常に探している。M&Aもそのための手段となることが一般的だ。したがって「自社が買収先企業の顧客に対して展開できるプロダクトやサービスを持っているか」が自社が売却可能となる大きな条件となってくる。

ただし特定の職業や年齢層などのユニークな顧客基盤を持っているベンチャー企業については、それらの顧客層にリーチできていない企業にとって買収のターゲットとなることも少なくない。また顧客基盤を持っているということは、その前提としてベンチャーのプロダクトやサービスが顧客にフィットしていることを意味している。

したがってそのようなベンチャーに対して企業は、顧客およびプロダクトやサービスの両方を取り込むことを目的として買収の提案をしてくることもある。

3. 創業者がいなくても事業が継続していけるか

M&Aによるイグジットを目指す場合は、売却をした後には「事業から手を引いて骨休めをする」「新規事業を立ち上げる」「エンジェル投資家としてベンチャーを支援する」などを考えている創業者も多いだろう。そのようなケースでは、創業者である自分がいなくなっても事業が継続していけることが売却できる大きな条件になってくる。

創業者がいなくても事業が継続できるためには、社内体制や組織がしっかりと構築されていなければならない。また事業を継続していけるだけのリーダーや社員も育っていなければならないだろう。

M&Aによるイグジットの失敗例3選

増えつつあるM&Aによるイグジット。しかし失敗する例もある。他の企業がどのような失敗をしたのかを見てみよう。

1. 売却価格を高くしすぎることによって破談

大手企業A社は、ベンチャー企業B社の買収を検討している。たしかに業績は好調で売上高は大きかったB社だが業績は数年間横ばいで利益率もそれほど高くない。そのためにA社が見積もった買収価格はB社が期待するものより低かった。B社オーナーの友人がたまたま同時期に高額での事業売却に成功したこともありB社オーナーの期待は大きくなる。

新規事業をスタートさせることを名目に高額での交渉に乗り出した。その結果、価格が折り合わずに交渉は破談となった。しかしその後B社は、ライバル企業がIPOを果たしてB社の人材を引き抜くなどしたために業績が下落。好調時の数分の1の企業価値となってしまった。A社による買収に応じていれば数倍の利益が得られたことになる。

自社の企業価値は大きく見積もってしまいがちだ。しかし強気一辺倒で進んでしまえば大きな落とし穴に落ちることもあるだろう。

2. M&A後に放置されたことにより業績が低下

ベンチャー企業C社は、大手企業D社により買収された。D社にとってC社は関連する業種の企業で事業領域を拡大することが買収の目的だった。ところが最先端であったC社のビジネスモデルは、買収後数年で陳腐化。しかもその間にD社は「ビジネスモデルが異なる」などの理由によりC社に対して資金や人材などの提供やマネジメントへの関与を一切行ってこなかった。

結果としてC社の業績低下は続きD社は減損処理を強いられることに。ベンチャーにとってM&Aはまさにイグジットとなる。しかし買収する企業にとっては、M&Aは出発点にしかすぎない。その後のマネジメントをどのようにしていくかで結果は大きく異なったものになるのはいうまでもない。

3. PMI(ポスト・マネージャー・インテグレーション)の欠如により業績低下

ベンチャー企業E社と、E社を買収した大手企業F社は、企業カルチャーが大きく異なっていた。そのために事業の具体的な方法や組織体制のあり方について意見の食い違いが目立つようになってきた。本来ならばE社のオーナーとF社とが相談しながら買収後の統合プロセスであるPMIを進めていくべきところである。

しかしF社は、「問題はE社オーナーによる一極体制」と曲解しE社オーナーを早々と切り捨ててしまった。キーマンがいなくなってしまったためにE社はF社との方向性の違いを解消できず優秀な従業員は会社を去る。最終的にE社の事業は閉鎖となった。企業カルチャーの違いを埋める買収後のPMIは、重要なプロセスだ。PMIを軽視することにより買収が失敗に終わることも少なくない。

M&Aイグジットにおける「アーンアウト条項」とは?

M&Aによるイグジットにおいては、「アーンアウト条項」が設定されることもあるだろう。アーンアウト条項は、主に買い手企業のリスク回避のためにあるが売り手側にもメリットとなる場合がある。ここでは、アーンアウト条項についてのポイントを見ていこう。

アーンアウト条項とは

アーンアウト条項とは、M&Aの実行後一定の期間のなかで買収の対象となる事業が特定の目標を達成した場合において、あらかじめ合意した算定方法に基づいて、買収先が売却側の企業に買収対価の一部を支払うとする規定のことだ。算定に使用されることが多い財務指標は、純利益、売上高、営業利益、EBITDA、営業キャッシュフロー、およびフリーキャッシュフローなどとなる。

アーンアウト条項が設定される場合、買収対価の支払いは、その後数年間にわたる分割払い。例えば買収時に50%の金額を支払い、その後数年で目標の達成率に応じて残金を支払っていく形となる。

アーンアウト条項のメリットとデメリット

アーンアウト条項は、買収先企業がリスクを回避することを目的として採用されることが一般的だ。また売却側の企業にとっては、売却後も結果を出せば、さらに利益を手に入れることが可能となる。したがって売却後も経営に関与したいと考えるベンチャー創業者にとってはメリットとなるだろう。売却側企業にとってのデメリットは、売却時に多額の利益を手に入れられない場合があることとなる。

アーンアウト条項についての注意点

アーンアウト条項を設定する場合には、売却側の企業は以下の3つの点に注意することが必要だ。

1. 業績達成の可否が操作されないようにする

買収先企業にとって買収後は、アーンアウト条項に基づく支払いをなくしたり支払額を減らしたりしたくなるものである。したがって売却側は、アーンアウトに期間中はひきつづき経営に参画するなど業績達成の可否が買収先企業によって操作されないよう注意することが必要だ。

2. アーンアウトの期間が長くなりすぎないようにする

アーンアウトの期間が長くなる場合には、交渉時には予測できなかった事態が発生するリスクが高まる。したがってアーンアウトの期間は、長くなりすぎないことが必要である。「3年」とすることが一般的だ。

3. 再売却についての契約上の整備をする

買収先企業が売却側企業の同意なく事業を売却した場合には、アーンアウト条項で定められた目標が達成されたかどうかを評価できなくなることとなる。したがって事業の再売却について契約上での整備が必要となってくる。

失敗しないイグジットのためには事前の準備が必要

ベンチャーや創業者が投資を回収するイグジットは、IPOによるものとM&Aによるものと大きく分けて2つだ。これまではIPOによるイグジットが多かった日本でもベンチャー企業の意識の変化、あるいは日銀の超低金利政策の影響などによりM&Aイグジットが増えている。理想のM&Aイグジットを達成するためには、キャッシュフローが黒字であることを基本とし、いくつかの条件がある。また買収後も見越したM&A対策も重要だ。

文・THE OWNER編集部