内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
税理士・公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

会社の資金繰りが悪化し事業が立ちいかなくなると、会社はリストラや経費の削減、役員報酬の返上、私財の投入、さらに金融機関の協力のもとリスケジュールを行い、資金繰りの改善を図る。それでも資金繰りが改善しない場合は、「破産」や「民事再生」などが現実味を帯びてくる。

破産や民事再生は、誰かに相談することがはばかられるため、精神的負担が大きい。今回は、破産や民事再生とはどのような手続なのか、それに至ったときにどうなるのかを解説するので、最良の選択をするための参考にしていただきたい。

会社の法的整理の局面では、弁護士に誘導されるまま手続が進んでしまうことが多い。しかし、会社の責任者はあくまでも経営者だ。経営者として、それぞれの手続の概要を理解し、最適な選択をする必要がある。

目次

  1. 民事再生とは
  2. 「民事再生」と「破産」の違いは目的にある
  3. 「任意整理」とは?
  4. 個人の債務者でも民事再生はできる
  5. 民事再生ができる条件
  6. 「民事再生」の再生計画3つのパターン
    1. 1.自力再建型
    2. 2.スポンサー型
    3. 3.清算型
  7. 「民事再生」の手続と流れ
    1. ①準備期間
    2. ②再生手続開始の申立て
    3. ③裁判所による監督委員の選任と保全処分の決定
    4. ④債権者へ説明会の実施
    5. ⑤再生手続開始決定と債権調査
    6. ⑥財産評定、再生計画案の策定、債権認否書の提出
    7. ⑦再生計画案の可決と認可、再生計画の実行
  8. 民事再生には最大数千万円の費用がかかる?
  9. 民事再生の23つのメリットと3つのデメリット
    1. 民事再生手続のメリット1.会社を存続できる
    2. 民事再生手続のメリット2.経営陣を刷新する必要がない
    3. 民事再生手続のメリット3.債務免除が受けられる
    4. 民事再生手続のデメリット1.社会的な信頼やブランドイメージの低下
    5. 民事再生手続のデメリット2.担保として提供している財産が取られてしまう
    6. 民事再生手続のデメリット3.再生計画が認められなければ裁判所が職権で破産宣告することもある
  10. 民事再生の注意点
    1. 社長が退任した場合
    2. 民事再生のハードルは高いか
    3. 一律に弁済が禁止
  11. 民事再生が成功する3つのポイント
  12. 会社更生法と民事再生法との違い
  13. 債権者の課税について
  14. 債務者の課税について
    1. 財産の価額評定
    2. 債務免除
    3. 留保金課税
  15. 民事再生の際は必ず専門家に相談を
  16. 民事再生に関するQ&A
    1. Q.民事再生したらどうなる?
    2. Q.民事再生した場合、従業員はどうなる?
    3. Q.民事再生のメリットは?
    4. Q.民事再生のデメリットは?
    5. Q.民事再生と会社更生の違いは?
民事再生法,破産
(写真=Satori Studio/Shutterstock.com)

民事再生とは

倒産手続には、いくつかの種類がある。一般的にイメージされる破産や倒産は、会社財産をすべて清算して債務を消滅させる倒産手続をイメージすることが多いのではないだろうか。しかし民事再生は、経営不振に陥った企業を再建する制度で法人・個人を対象とする中小企業の再建を目的に2000年にスタートした民事再生法に基づく「再建型」の倒産手続である。

倒産手続きは、大別すると「清算型」「再建型」の2種類だ。一般的にイメージされる破産や倒産は「清算型」の倒産手続きに該当する。しかし倒産手続きには、民事再生法に基づく民事再生や会社更生法に基づく会社更生も含まれる。これらは会社存続を目的に再建を図る「再建型」の倒産手続きに分類される。

民事再生法や会社更生法は、企業を消滅させるのではなく企業を存続させることが目的だ。そのため民事再生と会社更生では、会社が倒産したときに債務整理をしながら再建を目指すことになる。

民事再生では、債務者が再生計画に基づき事業を継続しながら債務の返済を行う。再建が手遅れになる前に申立てることもでき、債権者が少ない中小企業にとって利用やすい制度となっている。支払不能や手形の不渡りなどの破産原因がなくても申立ては可能であり、会社の経営陣が交代せずに再建を目指せることも大きな特徴だ。

債権者も少ないことから事業の再生計画の作成に要する時間も短くて済み、裁判所の認可までの期間は6ヵ月程度といわれている。また個人でも利用できる個人民事再生と呼ばれる制度もある。

「民事再生」と「破産」の違いは目的にある

民事再生と破産の最大の違いは、その目的だ。民事再生の目的が「会社を残すこと」であるのに対し、破産の目的は「会社を消滅させること」である。

裁判所に破産の申立てがなされた場合、すべての会社の業務を停止したうえで、破産管財人の管理のもと、その財産がすべて処分される。財産は、優先的に弁済を受けることのできる者に分配した後、債権者に平等に弁済される。これを配当という。

破産するような会社は、すでにめぼしい財産を処分していることが多い。不動産などがあったとしても抵当権や根抵当権が設定されていることが多く、抵当権者が優先的に弁済を受ける。国税などの税金にも先取特権があるので、配当がないことも珍しくない。すべての財産が処分されると会社には何もなくなるので、会社は消滅することになる。

民事再生の場合、一般的には業務を継続しながら「再生計画案」を立案し、債権者の多数決(頭数および債権の額の過半数)による決議で「再生計画案」を採択し、業務を継続しながら計画を実行していく。

「任意整理」とは?

会社の資金繰りが悪化し、買掛金や未払金、借入金、給料などの支払いができなくなった場合に取るべき手続は、裁判所を介するものか否かに大別できる。裁判所を介する手続は後で詳しく解説するが、まずは裁判所を介さずに再生する道を探るべきだろう。そのほうが、整理も早く済む場合が多いため。顧問税理士や弁護士と相談したうえで、慎重に取り組んでほしい。

裁判所を介さない手続では、金融機関や取引先などの債権者と協議し、個別に債務の一部もしくは全部の免除、支払い期限の延長などを取り決めていく方法がある。取引金融機関を集めてバンクミーティングを実施し、既往債務の返済条件の変更や企業の事業改善計画について足並みをそろえて支援する事例も多くある。債権者としては、破産の場合と比べて債権を回収できる可能性が高いので、仮に融資した借入金の一部を放棄したとしてもメリットはある。

この方法は裁判所による強制力はなく、あくまで話し合いで行われるので、債権者の協力が得られなければ採用できない。

個人の債務者でも民事再生はできる

民事再生には、法人を対象とする通常の民事再生手続きと個人を対象とする民事再生手続きの2つがある。個人債務者の民事再生は、通常の民事再生よりも手続きが簡素化されているのが特徴で、さらに以下の2つに分けられる。

  • 小規模個人再生:将来継続的に収入を得る見込みがあり、無担保債務の総額が5,000万円以下の個人が申し立てできる
  • 給与所得者等再生:無担保債務の総額が5,000万円以下で、給与所得者などのように将来の収入が確実であり容易に把握できる個人に特化

再生計画が認可されて、債務者が再生計画どおりに返済すると、残りの債務が免除される。ただし再生計画の内容は、原則として3年間で分割して返済しなければならない。またその返済する総額は、債権者が破産手続を選んだ際に配当される額を上回る必要がある。返済総額の最低額は、無担保債務の総額により定められており、返済総額は定められた一定の最低返済額を上回る金額としなければならない。

返済金額については、小規模個人再生の場合、将来の収入から返済できる金額を決め再生計画を作成する。しかし給与所得者等再生では、返済総額が生活に必要となる「政令によって定められた計算による可処分所得額を債務者の手取収入額から控除した額の2年分以上」となる必要がある。

  • 無担保債務の総額が100万円未満:無担保債務の総額以上
  • 無担保債務の総額が100万円以上500万円未満:100万円以上
  • 無担保債務の総額が500万円以上1,500万円以下:無担保債務総額の5分の1以上
  • 無担保債務の総額が1,500万円を超え3,000万円以下:300万円以上
  • 無担保債務の総額が3,000万円を超え5,000万円以下:無担保債務総額の10分の1以上

住宅ローンを除いた無担保債務の総額が5,000万円以下であることが条件だが、民事再生は事業を行っていない給与所得者でも利用することが可能だ。民事再生は、法人などの事業者に限らず、給与所得者でも利用できることが大きな特徴でもある。

民事再生ができる条件

民事再生ができる条件は、民事再生法第21条(再生手続開始の申立て)に定められている。

①債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき
②債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済できないとき

つまり支払不能や手形の不渡りなどの破産原因がなくても申立てはできる。また破産するおそれがあれば、破産する前に再生を目指すことが可能だ。事業で使用している不動産や機械設備などの動産を処分すれば、事業の継続が困難になることは容易に想像できるだろう。債務の返済ができる場合でも返済のための財産の売却などで事業継続が困難となるケースでは、民事再生の申立ては可能となる。

ただし以下のようなケースでは、再生手続が棄却されてしまうため、注意したい。

  • 裁判所に支払う費用である予納金の支払いがないとき
  • すでに進行している破産手続や特別清算手続による方法のほうが債権者の利益にとってよいと裁判所で判断されたとき
  • 不当な目的で再生手続の申立てを行ったとき
  • 再生計画の実現性に乏しく認可の見込みがないと判断されたとき

「民事再生」の再生計画3つのパターン

民事再生には、いくつか手法があるが、大きくは「自力再建型」「スポンサー型」「清算型」の3種類に分類される。ここでは、それぞれの手法の内容についてみていきたい。

1.自力再建型

この自力再建型が、民事再生法などの民事再生関連法規で想定されている、原則となる方法だ。この方法は、債務圧縮により企業価値を取り戻した申立会社が、その潜在的な収益力を生かし、自らの企業努力により再生計画を実行して再建を図るものである。

2.スポンサー型

民事再生は、自力再建を前提としているとはいいつつも、そもそも経営難に陥っている会社においては、ビジネスモデル自体を大きく変革しなければ、収益性の改善が難しい場合が多い。そのため、近年は自社以外の力を借りて再建を図る「スポンサー型」で、民事再生手続が申立てられている例が多い。

また当初は、「自力再建型」での再建を行っていたとしても、当初の方法での再建を断念し、「スポンサー型」に移行する例も多く見られる。

「スポンサー型」とは、民事再生を申立てた企業が、他の企業(スポンサー)による直接的な経済的援助(貸付け、出資、事業譲受など)を受け、スポンサーの提供した資金で再生計画を実行するというものだ。

これは、申立てた企業に将来収益性が期待できる事業が残っているとスポンサーが判断したとき、再生計画の遂行のために必要な資金を援助する代わりに、申立て企業を買収するというものである。スポンサー選定の公平・適正を確保するため、広くスポンサー候補を募り、入札により選定する。

なお、スポンサー型の再生手続の中でも、申立て前からスポンサー企業が決まっており、民事再生手続の開始後に資金を注入することを予定しているケースを、「プレパッケージ型」ということもある。この形式が取られる場合、多くは大口債権者である銀行等の金融機関(メインバンク)が予め承諾し、場合によってはメインバンク主導でスポンサーや申立代理人となる弁護士を選定する。

民事再生においては、あくまで債権者の合意が必須なので、債権者主導でスポンサーがあてがわれることも多い。もっとも、プレパッケージ型が採られる場合、入札によらずにスポンサーを選定することも多いため、スポンサーの利益を重視するあまり、企業価値と比較して低額な資金しか提供しないといったこともある。

そのような場合、債権者が本来受けるべき配当を受けられない恐れもあるため、裁判所や監督委員はより公平性を期するため、民事再生手続を申立てた経緯やスポンサー選定の経緯・方法を精査し、慎重に対応するのが通常である。場合によっては、スポンサーとして認められないといったこともある。

3.清算型

清算型とは、営業譲渡などの手法により、営業の全部または一部を受け皿会社に移管したうえで、旧会社が清算する方法だ。民事再生法では、手続開始後に、裁判所の許可を得て、営業譲渡を行うことができることとされており、営業譲渡代金が再生債権の弁済財源となる。

清算型の民事再生では、会社自体は最終的にはなくなってしまうものの、破産とは異なり、事業自体は譲渡先の会社において存続させることが可能だ。事業に内在する無形資産(ノウハウなど)も含めて買い取ってもらうことができるため、事業自体に価値がある場合に、破産にかえて選択されることも多い。

「民事再生」の手続と流れ

オーナー企業
(写真=vectorfusionart/Shutterstock.com)

民事再生の手続は、約5~6ヵ月の期間を要するのが一般的である。手続の流れを順に見ていこう。

①準備期間

事前に弁護士に相談・依頼し申立代理人となる弁護士を決めて、裁判所に提出する書類を準備する期間が必要になる。資金繰り表や債務者一覧表などを準備する必要があり、再建が難しい場合は債務整理手続など他の方法も検討しなければならない。

②再生手続開始の申立て

申立てを行う企業の所在地を管轄する地方裁判所で再生手続開始の申立てを行う。裁判所へ支払う予納金に加え、弁護士への費用も準備しておく必要がある。

③裁判所による監督委員の選任と保全処分の決定

申立てを行うと債権者が債権回収を強行できないように裁判所から保全処分の決定が出される。以後再建債務者(会社)は、借入金や仕入債務などの支払いをすることが原則禁止されるのが一般的だ。同時に裁判所は、民事再生などの手続実績がある弁護士を監督委員として選任し、再建債務者は、財産処分などの一定の行為について監督委員の監督下に置かれる。

④債権者へ説明会の実施

債権者への説明義務はないものの、再建には債権者の理解と協力が必要となるため、説明会を実施するケースが多い。謝罪や再生計画を認めてもらうための再建計画の説明、再建後の取引継続依頼など説明会の実施は、今後の企業の再建に大きな影響を与えるだろう。

⑤再生手続開始決定と債権調査

裁判所が要件を確認し、申立てから1~2週間で裁判所は再生手続開始の決定を行う。予納金の納付や再生計画の作成・可決・認可の見込みなどの民事再生ができる条件を満たさないと棄却されてしまうため、注意したい。裁判所は、再生手続開始決定と債権届の用紙を債権者に送付する。債権者は、原則として債権届出期間内に債権の金額・原因などを裁判所に届け出ることが必要だ。

⑥財産評定、再生計画案の策定、債権認否書の提出

届出がなされた債権の認否を再建債務者が行い債権額を確定させるとともに所有する財産の価額の評定を実施する。認否書と財産評定の結果は、裁判所に提出しなければならない。また債権調査と財産評定の結果を踏まえたうえで再生計画案を会社が作成することになる。

⑦再生計画案の可決と認可、再生計画の実行

再生計画の可決には、債権者集会に出席した債権者の「人数で過半数、債権額で2分の1以上」の賛成を得ることが必要だ。ここで賛成が得られれば裁判所が再生計画案を可決し認可される。その後、再建計画を実行し各債権者に計画的に債務を弁済していく。

前述の通り、民事再生は申立て後も事業を継続する手続である。民事再生開始決定以前に発生した債権については、再生債権としていったん棚上げ(弁済してもらえない)されるので、資金繰りが一見楽になるように見える。

しかし、すべての会社が民事再生を選択できるわけではない。営業キャッシュフローがマイナスの会社には、そもそも事業を継続しても支払いができないので、民事再生を行っても意味がない。営業キャッシュフローがマイナスでも、リストラや事業内容の選別などによってランニングコストを抑えられるかもしれないが、リストラを行う場合は就業規則などに従って退職金の支払義務などが生じるため、慎重に検討しなければならない。

また、民事再生を申請したことが広まれば、信用不安のリスクもある。大企業を中心に、そのような会社とは取引をしないと決めている会社も多い。一般消費者向けの商売をしている会社にとっても、信用不安は無視できない。民事再生がニュースになれば、世間からは倒産と同じ評価をされることになるからだ。このように、民事再生による事業継続には大きなリスクが伴う。

民事再生には最大数千万円の費用がかかる?

民事再生手続では、裁判所に納付する予納金や弁護士報酬、事業継続のための運転資金が必要になる。裁判所の予納金は負債の金額によるが、数百万円から数千万円程度はかかる。

弁護士費用は弁護士によって異なるが、大きく分けて「着手金」と「成功報酬」があり、まず着手金を払い、民事再生を終えた後に成功報酬を支払うことになる。成功報酬は、会社の財産や事業規模によって変わるが、さまざまな法律事務所の報酬体系を見て、払える範囲かどうかを確認しておこう。

また、民事再生では財産評定などを行うプロセスがあり、公認会計士や税理士の協力が必要になるので、この報酬も考えておかなければならない。

当面は取引先から現金決済を求められる(手形は使えなくなり、掛取引を受け入れてくれる取引先はない)ので、当面の運転資金も用意しておかなければならない。家賃や人件費など固定費の支払いのために、数ヵ月分は用意しておきたい。

上記の資金を用意できないほど資金繰りが逼迫している場合、事業再生の可能性があったとしても民事再生手続を断念しなければならないこともある。つまり、そのような状況になる前に決断しなければならないのだ。

民事再生の23つのメリットと3つのデメリット

民事再生にはネガティブなイメージがつきまとうが、メリットもある。民事再生手続を選択する際は、そのメリット・デメリットをよく考えなければならない。民事再生手続を採用するかどうかは、会社の存続に関わる決断なので、メリット・デメリットを考慮したうえで慎重に判断したい。

民事再生手続のメリット1.会社を存続できる

民事再生手続の最大のメリットは、会社を存続できることだ。民事再生手続は、会社を存続させるための最終手段の一つである。再建の過程で、リストラや企業規模の縮小を余儀なくされることが多いが、破産のように会社を消滅させることなく事業を継続できる。これまで築き上げてきた会社のネームバリューやブランド価値のもとに、これまでの取引を継続できるということもメリットだ。

民事再生手続のメリット2.経営陣を刷新する必要がない

民事再生においては経営陣を刷新する必要がないため、経営陣は引き続き会社の経営に携わることができる。民事再生には「監督委員」がいるため、それまでのような強権をふるうことはできないが、経営自体は続けることができる。

民事再生手続のメリット3.債務免除が受けられる

再生計画が認められれば、大幅な債務免除が受けられるメリットがある。ただし債権者の割合は、金融機関であることが多く金融機関が納得できる再生計画を作成しなければならない。金融機関を説得できるレベルの再生計画を作ることで、民事再生の可能性が現実味を帯びてくる。

民事再生手続のデメリット1.社会的な信頼やブランドイメージの低下

民事再生は会社を存続させるための手続とはいえ、ニュースや噂ですぐに広まる。ネガティブなイメージがつきまとう以上、社会的な信頼やブランドイメージの低下は避けられない。また、民事再生は経営陣を維持できることがメリットの一つだが、それが逆効果になることもある。経営陣の経営管理能力が向上しなければ、民事再生手続を行ったとしても経営状況は好転しないだろう。

民事再生手続のデメリット2.担保として提供している財産が取られてしまう

民事再生手続に入ると、通常の債務については弁済が猶予されるが、担保権については権利行使ができるため、担保として提供している財産が取られてしまう可能性がある。通常、担保提供している資産は会社の経営の根幹となる資産が多いので、担保権者の協力を得られなければ民事再生手続は「絵に描いた餅」になってしまう。

民事再生手続のデメリットは、破産手続のメリットと表裏一体だ。破産手続のメリットは、債務超過の会社から経営者が解放され、新たなスタートを切れることだ。民事再生手続は「再生計画の履行」を前提としているため、これまでの事業を継続しながら利益を出し、多額の負債を返済していかなければならない。

破産の場合、負債は残らず、まったく借金のない状態からスタートできることは大きなメリットだ。破産のデメリットに、会社がなくなってしまうため最初から事業を立ち上げなければならないことがあるが、経営者としての経験やノウハウ、人脈などはなくならないので、再起できる人も少なくない。

民事再生手続のデメリット3.再生計画が認められなければ裁判所が職権で破産宣告することもある

再建計画が認められないと、破産手続きに移行する可能性が生じてくる。なぜなら民事再生法では、再生手続に失敗すれば破産手続きに移行することが定められているからだ。再生計画がいかに現実的で実行できる計画として作成できるかが、民事再生のカギとなる。

民事再生の注意点

民事再生は、会社を残したまま再建する手法であるが、注意点もある。

社長が退任した場合

民事再生の場合は、社長が退任することは必ずしも求められない。しかし、放漫経営が原因の場合など、残留することが債権者の同意を得られない場合がある。そのような場合には、新たに有能な経営者が確保できるかがカギとなる。

民事再生のハードルは高いか

民事再生は無条件に認められるものではない。民事再生は、一定の要件に該当すると、開始決定が出されることなく棄却されてしまう。また、開始決定がなされても、再生手続廃止、再生計画不認可または再生計画取消しの決定が確定した場合、裁判所は職権で破産手続に移行させることができるとされており、民事再生は容易ではない手法といえる。

一律に弁済が禁止

民事再生は、一定額以下の少額債権を除き、債権者への弁済が禁止される。この債権者には、金融期間だけでなく、商取引による債権者も含まれる。

そのため、取引先には「倒産した」とのマイナスイメージが生じることとなり、取引先の信用を失い、取引の終了などによって企業価値の著しい毀損も予想される。

民事再生が成功する3つのポイント

民事再生を成功させるためには、以下の3点についてよく検討することが必要である。

  • 経営戦略を策定
  • バランスの良い再生計画案を作成
  • 資金繰りの問題を解決

通常、顧問税理士や弁護士、主要な債権者である金融機関と共同で作成することになる。きちんと相談したうえで、第三者から見ても合理的な計画を策定する必要がある。

会社更生法と民事再生法との違い

事業資金
(画像=Freedomz/Shutterstock.com)

民事再生法とよく似たものに、会社更生法がある。その違いは何だろうか。会社更生法は民事再生法と同様に会社再建を目指す手続ではあるが、現在の経営陣が一切経営に関与できなくなることが最大の相違点だ。会社の再建は、裁判所が任命した管財人が行っていく。また、会社更生法では担保権の実行ができない。

会社更生法は大企業で採用されることが多く、中小企業では民事再生法を使うのが一般的だ。

民事再生と会社更生の特徴や違いを簡潔にまとめると以下のようになる。それぞれの特徴について見ていこう。

【民事再生法の特徴】

  • 株式会社以外の法人や個人も対象となるため、中小企業でも使うことができる
  • 会社更生法に比べて手続きが簡易で迅速に進むため、短期間で会社を再生できる
  • 原則として経営陣は引き続き経営権を維持することができる
  • 原則として債権者による担保権の行使を禁止することができないため、財産が取られてしまう可能性がある

【会社更生法の特徴】

  • 対象が株式会社に限られるため、上場企業や大企業などを対象とすることが多い
  • 手続きが厳格に定められているためハードルが高く、完了までに数年かかることもある
  • 会社の経営権は管財人に引き継がれ、原則として旧経営陣は会社から退かなければならない
  • 債権者が担保権を行使することが禁止されるため、資産を守ることができる

債権者の課税について

取引先が民事再生手続を行うことも考えられる。その場合、売掛金などの債権は当面弁済されないことになるが、債権に関する税務処理はどうなるのだろうか。

まず、民事再生の申請がなされた段階で、債権金額における50%の貸倒引当金の計上が認められる。これは、次の再生計画の認可までの仮の処理だ。

再生計画が認可されたら、その資産の評価損をその「特定の事実」が生じた期に計上することが認められる。その場合は、申告書に評価損の明細の記載をし、かつ評価損を証明する書類を添付しなければならない。なお、売買目的で保有する有価証券など、一部評価損の計上が認められない資産もある。

民事再生を申請しただけでは、貸倒処理は認められないことに注意したい。民事再生計画が認可されてはじめて債権の価額が決定するため、早まって貸倒損失を計上すると、税務調査で指摘される可能性がある。

形式的な貸倒の処理として、継続取引のある売掛債権に限り、以下のいずれかに該当した場合は、債権価額を1円(備忘価額)だけ残して貸倒処理をすることが認められることがある。

1つ目の要件は、「継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力などが悪化したため取引停止した場合において、その取引停止のときまたは最後の弁済時のうち最も遅いときから1年以上経過したとき」である。この場合、根抵当などの担保のある場合は、担保を処分してからでないとこの基準は適用できない。

2つ目の要件は、同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合だ。

債務者の課税について

「儲かっていない会社に課税されるのか」と思うかもしれないが、業歴が長い会社で含み益のある資産を多く抱えている場合は、会社を整理する段階で多額の税金が発生することがある。ここでは、そのような税金の取り扱いについて解説する。

財産の価額評定

民事再生が行われると、その財産について価額評定をしなければならない。法人税法の特例として、譲渡などがなくても、再生計画が認可された事業年度に評価損益を益金または損金に計上する必要がある。民事再生手続で計算されている評価と法人税法上の評価額は異なる可能性があるので、必ず民事再生に詳しい税理士の指導を受けて申告書を作成しよう。

債務免除

民事再生においては、一般的に多額の債務免除が行われる。その場合、キャッシュが増えていないのに多額の所得が発生するため、当然法人税などの負担が生じる。これを避けるために、再生計画の認可に伴って発生する債務免除益、財産評定による評価替益、役員や株主からの資材提供による寄付収益の合計額を限度として、期限が切れてしまった欠損金をすべて控除できることになっている。

それでも多額の課税が生じる場合は、再生債権を分割返済することとし、その都度一定の債務免除を受けることを取り付けるなど、債務免除益の課税負担が最小限に留まるようなプランニングが必要になる。

留保金課税

資本金が1億円以上の会社は、留保金課税にも注意したい。同族会社の留保金課税とは、株主と社長が同一であるようなオーナー会社において、通常の上場会社のように獲得した利益を株主に配当せず、会社内に留保して株主個人の税負担を減少させる行為を抑制するための法人税法の規定である。一定額以上の利益を会社内部に留保した場合は、その部分に対して追加で税金を課すものだ。

具体的には、持株比率の最も高い株主グループの保有株式が、その会社の発行済株式の50%超を占める場合、通常の法人税の他にその事業年度に社外に流出(配当や役員賞与など)しなかった金額のうち、一定額以上の部分に対して10~20%の税率で追加課税が行われる。

ここでいう利益とは、欠損金の控除を行う前のものであることに注意したい。多額の債務免除益を欠損金の控除の特例を用いて相殺したとしても留保金課税の対象となってしまうため、法人税がゼロであっても多額の留保金課税が発生することがある。民事再生を行うような会社にとっては、税金の支払はできるだけ避けたいところなので、事前のタックスプランニングが極めて重要といえる。

民事再生の際は必ず専門家に相談を

民事再生は、会社再建を目的とした手続である。そのためには、慎重かつ時期を逃さない決定と、綿密な計画が不可欠だ。債権者からの理解も必要であり、ハードルは決して低くない。自社にもしものことがあったときのために、これを機会に一度検討してみてはいかがだろうか。

民事再生手続は、会社の再建まで含めると非常に長期にわたる。債権者は、会社が存続する社会的意義があるかどうか、経営者と社員は会社を存続させる意思と能力が十分にあるか、といった観点で意見をいってくる。

民事再生を行う場合は、長期にわたるプレッシャーを乗り越え、会社を再建させる覚悟を持たなければならない。民事再生は高い専門性を求められる手続なので、検討する際は必ず弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に相談したうえで進めてほしい。

民事再生に関するQ&A

Q.民事再生したらどうなる?

A.民事再生は、経営不振に陥った企業を再建する「再建型」の倒産手続のため、再建債務者が再生計画に基づき事業を継続しながら債務の返済を行うことになる。債務免除を受けることで負債を減らすことが可能だ。経営体質の改善により会社を存続できるだけでなく経営陣が退陣せずにそのまま会社の経営に携われることに大きな特徴がある。債権者の賛成が得られ、裁判所による再生計画の認可が受けられれば、再生計画に沿って再建を実行し、各債権者に対しても計画的に債務を弁済していくことになる。

Q.民事再生した場合、従業員はどうなる?

A.破産の目的は「会社を消滅させること」にあるが、民事再生は「会社を残すこと」が前提だ。そのため従業員は、民事再生後もそのまま勤務できる。特に技術やスキルが必要となる業種の企業では、人材流出があると再建が困難になるだろう。ただし再生計画の同意を得るにあたってリストラや企業規模の縮小を余儀なくされることは多い。整理解雇を行う場合は、労働基準法の手続や労働契約法上の解雇に伴う民事上のリスクを踏まえた対策が必要となる。就業規則などに従った退職金の支払義務も生じるため、資金面の準備も計画に入れておきたい。

Q.民事再生のメリットは?

A.民事再生手続の最大のメリットは、会社を存続させることができる点だ。リストラや企業規模の縮小を余儀なくされることは多いが、破産のように会社を消滅させることはない。これまで築き上げてきた会社のネームバリューやブランドイメージのもとに既往取引先との関係を継続できることは、再建の可能性を高めることにつながる。また経営陣は、引き続き会社経営に携われることもメリットの一つだ。民事再生には、監督委員がいるため、自由に経営できるわけではないが経営陣を刷新せずに経営継続することも可能である。

Q.民事再生のデメリットは?

A.デメリットとしては、社会的な信頼やブランドイメージの低下などが考えられる。また民事再生手続に入ると通常の債務は弁済が猶予されるものの、担保権の権利行使は禁止されないため、担保として提供している財産が取られてしまう可能性がある点はデメリットだ。民事再生は「再生計画の履行」を前提としているため、事業を継続しながら利益を出すことが求められる。これまでと同じ経営方法を継続するわけにはいかないため、経営体質を一新する必要もあるだろう。再生計画の作成から債権まで長期に及ぶことも多く専門家に相談したうえで慎重に進めなければならない。

Q.民事再生と会社更生の違いは?

A. 民事再生法や会社更生法は、企業を消滅させるのではなく、企業を存続させることが目的だ。

民事再生法の特徴としては、主に以下の4つが挙げられる。

  • ①株式会社以外の法人や個人も対象となること
  • ②手続きが会社更生法に比べて簡易で迅速であること
  • ③原則として経営陣は引き続き経営権を維持することが可能なこと
  • ④債権者による担保権の行使を原則として禁止できないこと
    など

会社更生法の主な特徴は、以下の4つだ。

  • ①対象が株式会社に限られる
  • ②手続きが厳格で完了までに数年かかることが多い
  • ③会社の経営権は管財人に引き継がれて旧経営陣は会社から退く
  • ④債権者が担保権を行使することが禁止される
    など

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