M&Aコラム
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企業買収には相応の資金調達が必要とされるため、昨今LBOを検討する企業も少なくありません。本記事ではLBOの仕組みやメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。

LBO(レバレッジド・バイアウト)とは?

LBOとは「Leveraged Buyout、レバレッジド・バイアウト)」の略語であり、企業買収方法の一つです。
買収資金を調達するために、譲受企業(買い手)が譲渡企業(売り手)の資産などを担保に、金融機関等から融資を受けて資金調達をする点に特徴があります。そのため、自己資金が少なくてもM&Aに取り組むことが可能な方法といえます。

LBOの仕組み

LBOの最大の特徴は、M&Aの対象会社を買収するために調達する負債(借入金など)をM&Aの対象会社自身に負担させる(負債は買収された企業が返済する)点にあります。LBOを利用することによって、買い手側企業は少ない手元資金でも大きなサイズの企業を買収することが可能になります。

本来、LBOとは金融機関が大きな利益を生み出せる新規投資先を獲得するために開発された手法なので、信用取引投資としての性格が強い方法でもあります。現実的に、ビジネスのシナジー効果を得ることを目的として事業会社がLBOを利用する事例よりも、投資ファンドが売買益を獲得する目的でLBOを活用する事例の方が圧倒的に多い状況です。

LBOにかかわる会社・組織

LBOにかかわる主な会社・組織には、買収対象企業(譲渡企業)、買収元企業(譲受企業)、金融機関(銀行など)、SPC(特別目的会社)、PEファンド、コンサルティング会社などが挙げられます。

買収対象企業

買収対象企業とは、LBOの対象となる企業のことです。前述したように、買収側企業の手元資金額では買収対象企業を買収することが困難なので、買収対象企業が保有している資産などを担保にして資金を調達します。
その際に銀行などの金融機関が与信を付与するのは買収先企業になりますので、被買収先が借入金などの負債を負担することになります。

特別目的会社(SPC)

SPCとは「Special Purpose Company(特別目的会社)」の略称で、簡単に言ってしまうとペーパーカンパニーのような存在です。企業が特定の資産を企業本体から切り離して、その特定の資産やプロジェクトなどのためだけに作られた会社のことです。

SPCに類似している言葉にSPAC(「Special Purpose Acquisition Company(特別買収目的会社)」というものがあります。SPCは買収の受け皿となる会社のことですが、SPACは上場のタイミングでは事業を行っていないペーパーカンパニーであり、上場した後に株式市場から資金調達を実施して未公開会社を買収する会社のことです。
また日本では解禁の動きはあるものの、まだSPACの設立は認められていません。

PEファンド

投資家から調達お金を資産運用のプロフェッショナルであるファンドマネージャーが運用して、その儲け(収益)を投資家に分配する金融商品を投資ファンドと呼んでいます。その投資ファンドの中でもPE(Private Equity :非公開企業の株式)のオーナー系中堅企業を対象に運用しているファンドをPEファンドと言います。
他にも、大企業の子会社やノンコア事業部、事業再生が必要な企業あるいは不良債権などが含まれるケースもあります。LBOにおいて、PEファンドは銀行などと同様に買収資金の出し手として登場します。

ただし、銀行などの金融機関は融資の返済に伴う利息によって収益を確保しますが、PEファンドは未上場会社(LBO対象企業、あるいは買収企業)の未公開株式を担保にすることが一般的ですので、その未公開株式が上場した際に生じるキャピタルゲインを期待して融資することになります。

「MBO」「EBO」とのスキームの違い

MBO・EBOとLBOには、買収者が自社内か、第三者(他社など)なのかという相違点があります。

MBOとは「Management Buyout」の略語で、経営陣が自社株を買収するLBOを指します。
一方、EBOとは「Employee Buyout」の略語で、従業員が自社株を買い取るLBOのことをいいます。
MBOやEBOは、主に経営権を移動させることで会社の状況を好転させることを目的に実施されます。

LBOを行う流れ

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LBOを行う際の実際の流れについて、それぞれ見ていきましょう。

①特別目的会社(SPC)を設立する

LBOにおける買収側企業はSPCを設立して、買収側企業と融資をした銀行などの金融機関はSPCに買収のための資金を投入します。SPCの設立後は、LBOに関する手続きは、原則としてSPCを通して実行されます。

②金融機関・投資ファンドから資金を調達する

買収側企業は金融機関などから資金調達を実行しますが、金融機関側としては融資が返済されなければ多額の損失が発生することになるので、買収対象企業は綿密かつ慎重に調査を実施します。

金融機関などがLBOにおいて融資する場合には高めの貸出金利が設定されるケースが多いため、金利分も含めて返済できる資産や収益力を有しているのかどうかを判断することになります。

③対象企業の買収・M&Aを実行する

買収側企業は、LBO対象企業の100%の株式取得を目標にM&Aを実行します。企業買収が完了した場合には、SPCが親会社、買収対象企業が完全子会社になります。
このタイミングでは、SPCが多額の債務とLBO対象企業の株式を保有している状態となります。

④対象企業とSPCを合併する

LBO対象企業とSPCを合併させることによってSPCは消滅して、多額の債務はLBO対象企業へと移ることになります。よって、LBO対象企業が金融機関などに対して返済を行うことになります。

⑤融資先に借入金を返済する

LBOされた企業は銀行などの金融機関に対して借入金の返済を実施します。融資した金融機関などは早期回収を優先するため、LBO対象企業は最大限余剰資金を返済に充当する必要があるでしょう。
そのため、LBOされた企業は融資金の返済が完了するまでは多くの制約に縛られた厳しい経営を強いられる可能性が高いといえます。

LBOを行うメリット

LBOを実行するメリットには、下表の点を挙げることができます。LBOに関与している立場の違いを考慮したそれぞれの利点について解説します。

自社より大きい企業を買収できる

買収側企業の立場からは自己資金を抑えることが可能です。資金繰りを考慮した場合、少ない自己資金で大企業の買収が可能になることは大きなメリットといえます。

前述したように銀行などの金融機関の与信対象になるのはLBO対象企業なので、LBO対象企業の財務体質が良好であれば金融機関からの融資が承認される可能性が高いので、この部分は大きな利点となります。

少ない資金で買収を実行できる

また、買収側企業にとっては少ない自己資金で買収を実行できることもメリットです。LBOは、対象企業が保有している資産や収益力を担保にして、銀行などの金融機関から買収に要する資金調達が可能な仕組みなので、実際よりも買収側の企業は少ない自己資金で企業買収できるメリットがあります。

自己資金が少なくても買収が可能であるということは、LBO対象企業の企業価値が大幅にアップした場合には、より利益率も大幅に向上することになります。

少ない資金で大きなリターンを期待できる

これまで説明したように、LBOは少ない自己資金でも大きな企業を買収することができるという「レバレッジ効果」に特徴があります。このレバレッジ効果により、内部収益率(IRR)を向上させることを企図することが可能です。

なお、借入金があればあるほどレバレッジ効果は高くなりますが、実際はその分リスクも上昇するのでレバレッジ効果とリスクのバランスも考慮することが重要です。

リスクを最小限にできる

借入の返済リスクが少ないこともLBOのメリットの一つといえます。LBOの際に融資を受けるケースでは、買収元企業がSPCを設立しますが、買収のための資金調達はSPCが主体となって実行するため、買収元企業は直接的に調達返済義務を負うことはありません。

こうした実質的な買収企業に返済の義務が生じない借入を、ノンリコースローンと呼んでいます。LBOの融資はこのノンリコースローンに該当しますので、借入金に対する返済リスクが小さくなります。

買収対象企業は通常より多い売却益を得られる

買収側企業はLBOを実行する場合に、一般的には株主から株式を買い取るために、適正レベルの株価に対してプレミア価格を上乗せします。したがって、LBO対象企業の株主は保有している株式の売却により多くの売却益を獲得することが可能です。

ただし、LBOの対象となった企業は厳しい制約下でビジネスを継続することになります。つまり、対象企業の経営に関与してきた人からすれば、大きな利益が得られるからという理由だけでこれまで慣れ親しんだ思い入れが深い会社の株を売却することに抵抗を感じてしまう人もいるかもしれませんので、注意しましょう。

法人税の節税につながる

LBOにおいては銀行などの金融機関から資金調達をするので、当然ながら元本の支払いだけでなく利息の支払いも生じます。支払った利息は損金算入することが可能なので、結果的に税負担を圧縮することができ、法人税の節税につながります。

ただし、多額の利息を支払うことは収益の圧迫にもなるので注意が必要です。なお、この節税効果を享受できるのは、買い手企業ではなくLBO対象企業になります。

LBOを行うデメリット・注意点

しかしLBOには前述したようなメリットだけでなく、下表のようなデメリットもあります。それぞれのデメリットについて詳しく解説します。

買収資金は返済が必須

LBOで買収される企業は、本来は優良企業だったにもかかわらず、LBOによって多額の債務を保有してしまうことになります。買収企業側が同様に事業会社だった場合には、何ら落ち度がない企業に多額の債務を負担させることに対して、後ろめたい思いやプレッシャーなどを感じてしまう経営者もいるかもしれません。
その一方で、投資ファンドのようにドライに目的遂行を目指しているケースもありますので、LBOに対する考え方は買収側の当事者によって大きく変わるものと言えます。

買収対象企業によって買収側企業の信用度が下がる可能性がある

借入金の直接の返済義務は、もちろんLBO対象会社にありますが、もしもLBO対象企業が返済できなくなってしまった場合には、無理なLBOを仕掛けた買収先企業のレピュテーション(評判)が著しく悪化して信用が大幅に低下してしまう可能性があります。

想定していたシナジー効果を得られない場合がある

LBOの実行後にLBO対象企業との統合に支障が生じたケースなどでは、買収側企業が期待していたシナジー効果を得ることが叶わず、結果的にLBOの目的を達成することができなくなるデメリットも考えられます。

借入金の金利が高く、資金繰り悪化のリスクがある

前述したように、LBOの資金調達では高金利の借入になるケースが多いため、支払利息の負担が重くなって会社のキャッシュフローが悪化する可能性があります。
したがって、LBO対象企業の経営者がLBO実行後も継続して会社の経営に携わる立場になった場合でも、従来以上に経営効率化を図らなければなりません。

LBOを成功させるためのポイント

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LBOを成功に導くためには、負債が少なく経営が比較的安定している企業を買収する、シナジー効果が見込まれる企業を買収する、金融機関から課せられた制約・条件をクリアするというポイントがあります。それぞれのポイントについて解説します。

負債が少なく、経営が比較的安定している企業を買収する

経営が安定していてキャッシュリッチ(手元流動性が高い)で負債が少ない企業がLBO対象企業には向いていますので、LBOが成功する確率も高いでしょう。こうした企業が過小評価されていて業績改善の見込みが立てやすければ、一層LBOの成功確率はアップします。

シナジー効果が見込まれる企業を買収する

LBO実施後にシナジー効果が見込める企業を買収することも重要なポイントです。

例えば、製品開発能力が高い企業が強力な営業力を有する企業をLBOするなど自社ビジネスの補完が可能な企業との組み合わせは企業価値を大きく上昇させることが可能です。

金融機関から課せられた制約・条件をクリアする

銀行などから融資を受ける際には様々な制約が課されることがあります。
具体的には、買収企業は金融機関などからモニタリングされる、コベナンツ(債務者側の義務などの特約条項)を結ぶ必要があるなどの制約です。こうした条件にきちんと対応することでLBOを成功に導くことができます。

LBOの事例5選

これまでLBOの特徴やメリット・デメリットについて詳しく説明してきましたが、実際にはLBOには成功するケースもあれば失敗するケースもあります。そこで有名な企業が関与した具体的なLBOの事例についてご紹介します。

事例1.ソフトバンクによる、ボーダフォン日本法人に対してのLBO

さかのぼること2006年、ソフトバンク株式会社は、Vodafone Group Plcの日本法人であるボーダフォン株式会社を1兆7,500億円で買収しました。ソフトバンクの調達資金は1兆円に昇り、有利子負債も巨額となりました。ソフトバンクはボーダフォンの日本法人が保有している設備を利用することで携帯電話マーケットに進出したのです。

買収で携帯ビジネスへの新たな参入を考えていたソフトバンクは、既に成熟していた2G・3Gのインフラ・サービス・ブランドなどを入手することでスピーディーなビジネス展開の大きな契機となったのです。当時ボーダフォンは携帯電話事業が不調であり、2007年3月期の業績見通しを下方修正しており、ふるわない海外事業を手放すという話も報じられていました。
携帯電話のような通信ビジネスは顧客の契約期間が長期にわたり、一定の収益が見込めるため、LBOに向いているビジネスともいえるでしょう。

事例2.カーライル・グループによる、リガクに対してのLBO

世界でも有数の投資会社である米国のカーライル・グループ(以下、カーライル)と、X線分析・測定・検査機器のトップメーカーである株式会社リガク(以下、リガク)の代表取締役社長の志村氏は、共同出資して新規設立する持株会社を通じて、リガクの全発行済株式を取得することで合意した、と2021年1月に発表しました。

双方の出資比率は、カーライル側が約80%、リガク側(志村社長)が約20%で、数年内に持ち株会社の企業価値を向上させたうえで上場を目指すと発表されました。1951年にリガクは設立された会社で、X線分析・測定・検査機器の分野においては我が国を代表するテクノロジー企業に発展しており、2021年に設立70周年の記念すべき節目を迎える企業です。

リガクの製品は、様々な原材料の組成成分や構造の分析・解析に利用されていて、科学技術に関する最先端テクノロジーの研究開発・生産に至るまで広範囲に活用されています。リガクは、大学の研究施設、半導体、電子デバイス、製薬、鉄鋼、セメントなど広範囲の分野の大手の民間企業、など国際的なマーケットにおいても1万社以上のバラエティに富んだ豊富な顧客基盤を保有し、年間売上は約441億円(内、海外売上比率は約65%)にのぼっています。

今回のLBOはグローバルビジネスの更なる拡張、高い成長が期待できる分野での顧客ニーズの取り込み、国際的なガバナンス・経営体制の充実及び強化が狙いだとされています。

事例3. 昭和電工による、日立化成に対してのLBO

日立化成は日立御三家のひとつであり、時価総額では昭和電工の2倍ほどの差がありましたが、LBOを活用することにより買収成功に至ったものと考えられます。
このLBOのスキームは、買収目的で設立されるSPCがみずほ銀行からノンリコースローンを4,000億円借り入れて、みずほ銀行と日本政策投資銀行から2,750億円の優先株出資も受けるとともに、昭和電工本体もSPCに対して普通株出資をしますが、その資金である2,950億円もみずほ銀行が融資をする、というものでした。

事例4. エリオットとビスタによる、シトリックスに対してのLBO

2022年1月にエリオット・インベストメント・マネジメント(以下、エリオット)とビスタ・エクイティ・パートナーズ(以下、ビスタ)は、米国のソフトウエアメーカーであるシトリックス・システムズ(以下、シトリックス)を130億ドル(約1兆5,000億円)で買収することでシトリックスと合意しました。

このLBOは、2022年初の大型規模のものとなりました。LBO資金は金融機関から調達する予定で、LBO完了後にシトリックスは上場廃止となる見込みで、ビスタが既に買収しているビジネスデータ分析の大手企業であるティブコ・ソフトウエア社と合併する予定です。(※2022年2月現在)

事例5.ダイセンホールディングスによる、さとうベネックに対してのLBO

米国サブプライムローン問題や不動産不況の影響で業績が低迷していた建設会社のさとうべネックですが、投資ファンドのネクスト・キャピタル・パートナーズによる経営再建を果たした(2010年度・2022年度に黒字計上)ことから、ダイセンビルディングへと売却されることとなりました。

ダイセンビルディングは、2011年11月にLBOを活用してさとうべネックを買収することで、ネクスト・キャピタル・パートナーズは売却益を獲得しましたが、その後1年も経たない内にさとうべネックは倒産しました。さとうべネックの将来性に不安を抱いた幹部職員が続々と退職し、最終的にはメインバンクが貸し剥がしに動いたことが致命傷になったようです。本事例はLBOの失敗事例といえるでしょう。

終わりに

LBOは自己資金が少ない企業でも大企業を買収することが可能な企業買収手法の一つです。しかし、メリットだけに注目するのではなく、デメリットもしっかりと踏まえて検討することが重要です。
また、LBOではLBO当事者以外にも様々な人物が登場します。それぞれの役割を整理してスムーズにLBOのスキームを稼働させるためにはLBOにも精通しているM&AアドバイザーやM&Aコンサルタントによるサポートも必要不可欠です。

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