グロービス経営大学院教員が2022年の注目トピックを取り上げるシリーズ。今回は「マーケット・事業戦略」編です。新型コロナウイルスの感染拡大は世界の経済活動の大きな足枷となった一方、企業活動においてはDX(デジタルトランスフォーメーション)化の促進など、新たな変革がもたらされました。次の1年の事業環境を展望するうえでのキーワードは何でしょうか? 「経営戦略」などの講座を担当する教員2名にそれぞれ挙げていただきました。
「メタバース」
金子 浩明
2022年注目のトピックは「メタバース」です。メタバースとはインターネット上に構築された3Dの仮想空間です。2020年10月には米フェイスブック社が社名を「メタ」に変更したことで話題になりました。メタバース市場は近い将来100兆円市場になると期待されています。GPU(リアルタイム画像処理に特化した半導体チップ)の進化やデータ通信量の拡大により、2000年代の仮想空間と比べて、没入感が高まりました。
現在、世の中に普及しているのはゲームが中心ですが、メタバースはビジネスの世界での普及も期待されています。米マイクロソフト社がMR(Mixed Reality:複合現実)技術を用いた会議ツールを発表するなど、大手企業も力を入れ始めました。長引くCOVID19の影響とテレワークの普及、脱炭素で飛行機や車での移動を控える風潮も、ビジネス領域での導入を後押ししています。ただし、本格的に普及させるには、乗り越えなければならないハードルがいくつもあります。
カギを握るのは、3Dコンピューターグラフィックスの性能や、映像処理の遅延をカバーする技術などの「認知や感覚に関する技術」です。この分野は日本企業も技術開発に力を入れています。21年12月、ソニーは8Kの超高精細VRゴーグルの開発を発表しましたが、これにはVR酔いの原因となる映像の遅延を低減する技術も搭載しています。8K画像の解像度は人間の目で見る上で実物とほぼ変わらないので、没入感はかなり高まるでしょう。これらに加えて、交流の基盤となるソーシャルネットワークの整備、財の取引や仮想空間上の所有権を保護するブロックチェーン技術の向上も必要です。
これらの課題が解決されれば、自分のアバター(分身)がバーチャルタウンにあるバーチャルオフィスに出社して、遠く離れた土地に住む同僚と一緒に働くような日が来ると思います。そして、その日は遠くありません。2022年はメタバースに注目です。
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「リスクマネジメント」
嶋田 毅
2022年はこれまでにも増してリスクマネジメントの能力が必要となるでしょう。典型的なリスクとしては、1)コロナがどの程度収束するのか、あるいはあまり変わらないのか、2)アメリカ経済の行方(インフレ等)、3)中国のビジネスへの規制の動向、4)地政学的問題などから生じるサプライチェーンの混乱(それに伴うコスト増や供給不足)、5)デジタル化進展に伴う、競合となる破壊的なビジネスモデルの登場などがあります。
これらは正確に予測できるというものではないため、どのようなシナリオになったとしても対応できる代替案を複数用意すること、そして経営環境により敏感になり、俊敏に意思決定を行うことを企業に要請します。2021年に好調だったからといって2022年以降も安心できない、というのが近年の経営の難しさです。リスク要因を見極めたうえでそれを回避、コントロールできる企業はサバイブできる可能性が高まる一方で、そうでない企業は時代に取り残されます。
戦略や戦術の速やかな変更も必要ですが、経営者や従業員の意識が変わらないことにはこうした対応は不可能です。VUCAの時代と言われて久しいものがありますが、2022年はその次元がさらに上がっていきます。VUCA時代に必要な戦略的マネジメントや組織変革をしっかり行える企業とそうでない企業の選別がますます進みそうです。
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(執筆者:金子 浩明、嶋田 毅)GLOBIS知見録はこちら