ISRAERUウェブマガジンを読んでイスラエル発のイノベーションに益々関心を持ち、イスラエル企業への投資、イスラエル企業との提携など何らかのビジネスを考えている方は、是非まずStart-Up Nation Finderというプラットフォームを使ってみてください。このウェブサイトには、この原稿を書いている7月15日現在、イスラエルの6,543社のスタートアップ、665社の投資家が登録されており、それぞれの、企業プロファイル、事業の概要、創業からの時系列（投資ラウンド）、投資家、リーダーシップチーム、メディアに取り上げられた記事など、とても重要な情報がわかりやすく整理されて掲載されています。
それらを俯瞰した全体像も見ることが出来るので、どの産業分野に何社の企業がいて、どれだけ世界からの投資を集めている、というようなインサイトがひと目でわかるようになっています。各企業の情報は簡単に検索できますし、トップページには、投資金額、毎月のディール数の推移、各企業のプロダクトのステージ（アルファ、ベータ、リリース済、など）、今のイスラエルのスタートアップの状況がひと目で理解できるようにグラフでも可視化されています。
Start-Up Nation Finderでわかること
例えば、トップページには、Israeli Innovation Overview（イスラエルのイノベーション概要）というコーナーがあり、セキュリティやフィンテックなどのセクター別に、“Trending Investments”（投資の傾向）、”New Companies”（新規参入企業数）、”No. of Companies”（当該分野の企業数）、”No. of Rounds”（ラウンド数）、”Deals”（取引額）の5つの情報がわかりやすく図解されています。
2021年Q2では、Trending Investments（投資の傾向）は上位から次のようになっています。
Enterprise, IT & Data Infrastructure（エンタープライズ、IT＆データインフラストラクチャー） $2.852B（約3,100億円）
Security Technologies（セキュリティテクノロジー） $1.8B（約2,000億円）
Retail & Marketing（リテール＆マーケティング） $1.24B（約1,300億円）
Life Science & Haelthcare（ライフサイエンス＆ヘルスケア） $781M（約860億円）
トップのIT&Data分野にはAI等が含まれると考えます。
次にNew Companies（新規参入企業数）という指標を見てみると、上位から、
Enterprise, IT & Data Infrastructure（エンタープライズ、IT＆データインフラストラクチャー） 8社
Retail & Marketing（リテール＆マーケティング） 5社
FinTech（フィンテック） 4社
Smart Mobility（スマートモビリティ） 3社
No.of Companies(当該分野の企業数）という指標では、上位から、
Life Science & Haelthcare（ライフサイエンス＆ヘルスケア） 1,274社
Enterprise, IT & Data Infrastructure（エンタープライズ、IT＆データインフラストラクチャー） 1,094社
Retail & Marketing（リテール＆マーケティング） 896社
Industrial Technologies（産業テクノロジー） 706社
Deals（取引額）という指標では、上位から、
Security Technologies（セキュリティテクノロジー） $1.566B（約1,700億円）
Enterprise, IT & Data Infrastructure（エンタープライズ、IT＆データインフラストラクチャー） $1.037B（約1,100億円）
FinTech（フィンテック） $567.5M（約620億円）
Retail & Marketing（リテール＆マーケティング） $440.9M（約480億円）
これらのデータを見ると興味深い事がわかります。例えば、イスラエルの代名詞でもあるサイバーセキュリティ分野の新規参入は少なく、イスラエルの起業家からはもはや余り新たな挑戦をする魅力のある領域とは思われていない様子が伺えます。一方で、投資額も2位、取引額もトップということは、この分野でのイスラエルの高度な技術力が必要とされ、お金が集まると言う現実を反映しているのでしょう。ビジネスとしてはお金の動く間違いなく望ましい分野であることが分かりますが、アントレプレナーの目はすでに別のものを見ているということです。
では、イスラエルのアントレプレナーたちは今どこを見ているかというと、参入企業数が最も多いのがLife Science & Haelthcare（ライフサイエンス＆ヘルスケア）です。実際、IT技術をヘルスケア分野へ応用したツールやサービスは次々に生まれており、この領域は今イスラエルで正に動いていると言えるでしょう。Dealの金額では$134.5Mと余り大きくはないのですが、おそらくB2C系で比較的安価なサービスが多かったり、FDAの認可等で時間がかかる分野であることも要因かもしれません。しかし、投資額も4位であり、確実にポテンシャルが大きいと考えられていることが、この企業数からも分かるのではないでしょうか。
その次にアントレプレナーや投資家に注目されているのは、明らかにIT & Data Infrastructure（IT＆データインフラストラクチャー）分野です。おそらくAIや量子コンピューティングが有望分野とみて参入する起業家が増え、投資家も投資しているというのが状況と考えられます。
メディアで良く話題になる“Smart Mobility”（スマートモビリティ）分野は、投資額や企業数という指標でみれば、実はイスラエルでは余り大きくないことも、このOverviewのチャートから伺うことができます。
特定の企業の情報も簡単に検索可能
個別の企業情報を簡単に調べることができるのも、このプラットフォームの特徴です。例えば、7月13日にIJ-DO社主催のサイバーセキュリティセミナーがあり、4つのイスラエル企業がプレゼンテーションを行いました。そのうちの1社であるBigID社の名前を検索Boxに入れると、直ちに当該企業の情報がコンパクトにまとめられたページが出てきます。企業・サービスの概要、その紹介ビデオ（ある場合）、投資のタイムテーブル（何年何月に創業し、各ラウンドでいくら資金調達をしたか、誰が投資をしたか）、リーダーシップチーム（それぞれのLinkedInへのリンク）などがまとめられています。BigID社は2016年5月に創業、すでにDラウンドまで行い、累計で＄246.1Mの資金調達をしています。創業者はDimitri Sirota、共同創業者はNimrod Vax、というような具合です。この企業、製品が取り上げられたニュースもリンクされています。つまり、セミナー等で興味を持った企業が、例えば自社の投資対象と成るか、提携先として適切か、などを検討する場合、まずこのプラットフォームで企業を検索することで、概要を把握することが出来るわけです。
このプラットフォームの使い方のビデオもYouTubeに公開されているので、言葉で解説するよりもまずそちらを見ていただくほうが早いかもしれません。（ただし、プラットフォームのデザインは最近更新されましたが、このビデオで紹介される画面は以前の古い画面であることに注意してください）
このプラットフォームを運営する組織、Start-Up Nation Centralは2013年に作られました。現在のCEOユージーン・カンデル氏(Prof.Eugene Kandel) は、2月15日に開催されたウェビナー、”Japan-Israel Academic Innovation Collaboration Webinar 2021“のなかで次のように話しています。
“The goal is supporting productive impact of Israeli innovation in the world as well as making Israel morre welcome to the innovation and keep in the leadership position.”
“単にイスラエルのイノベーションを支援するだけではなく、世界におけるイスラエル企業のポジションを確固たるものにしようという、大きな理念に基づいているのです。”
既に多くの方がご存知の通り、イスラエルのイノベーションには世界中が注目しています。またそのようなイノベーションを生む独自のエコシステム（産官学軍の協力）がイスラエルにはあることも良く知られています。しかし、そのイノベーション・企業に関する情報がこのようなプラットフォーム上でわかりやすく整理され、とても簡単にアクセスできること、こそがイノベーションを生むイスラエルの企業活動や世界からの投資活動を活発にし、エコシステムを実際に有効にしていることは余り知られていないのではないでしょうか。実際に使ってみると、このようなツールがあるからこそ、容易に求める企業の情報を探すことができ、投資や提携の判断が的確に出来ることがわかると思います。イスラエルのイノベーションに関心のあるかたは、是非一度このプラットフォームを使ってみてください。
