「キャッシュ・カウ」とは? 経営者なら知っておきたい基本の考え方
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「キャッシュ・カウ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。日本語に直訳すると「金のなる木」という意味だ。本来、経営資源を最適に配分することを目的としたマネジメント手法に出てくる言葉だが、決算説明書や経営計画の中でキャッシュ・カウを使う企業もある。企業経営者はぜひキャッシュ・カウの意味や事業における必要性などについて押さえておこう。

目次

  1. キャッシュ・カウとは?
  2. PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)とは
  3. PPMの市場成長率、市場シェアに応じた4つのポジション
    1. 1. クエスチョンマーク(問題児)
    2. 2. スター(花形)
    3. 3. キャッシュ・カウ(金のなる木)
    4. 4. ドッグ(負け犬)
  4. 事業ポートフォリオにおけるキャッシュ・カウの例
  5. キャッシュ・カウはなぜ重要?
  6. キャッシュ・カウの事業を作る経営を
  7. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

キャッシュ・カウとは?

キャッシュ・カウとは、市場成長率が低く競争が鈍い分野において、高い市場シェアをとった製品・事業セグメント。簡単に言えば長期にわたり安定して利益を上げることのできる製品・事業セグメントのことである。日本語では「金のなる木」と訳されており、投資が少なくて済む割に効率よく利益を出せるポジションを示す。

自社のシェアが高いため、売上は大きくなりキャッシュインが増加。市場成長率が低く競争が鈍いため設備投資や販促費などのキャッシュアウトが少なくて済む。結果的に効率よく儲けられることになる。まさに金のなる木だ。経営者なら金のなる木は何本でも欲しいところだろう。一方で市場成長率が低いことから将来的に大きく成長する見通しがあるとはいいにくい。

あくまでキャッシュ・カウで収益(投資資金)を確保し他の分野の投資資金として集中して金を注ぐ。こういった事業運営としての一つのポジションだ。PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)では、企業が事業を展開する際に4つのポジションに分類する。「経営資源を重点的に投資する部分」「他事業を開発するための資金源とする部分」など事業戦略の方向性を検討するようにしているのだ。

PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)とは

PPMについても確認しておこう。PPMとは、「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」の略で企業が展開している複数の製品や事業の組み合わせと経営資源配分を最適化するためのスキームだ。

「市場成長率」「市場占有率」といった高低により製品・事業を4つのポジションに分類する。具体的には、以下の表のイメージだ。

  • 縦軸:製品ライフサイクル理論に基づく市場成長率
  • 横軸:経験曲線効果に基づく相対的市場シェア(市場占有率)

それぞれに数値(率)によって4分割し自社の製品または事業がどこにあるかを位置づける。

「キャッシュ・カウ」とは?経営者なら知っておきたい基本の考え方

こうすることで自社が展開する複数の製品・事業のどれから収益(資金)を回収し「どこに経営資源を集中して投下するか」といった戦略の方向性を検討できるようになる。

PPMの市場成長率、市場シェアに応じた4つのポジション

上図のようにPPMでは、自社全体の製品・事業を「クエスチョンマーク」「スター」「キャッシュ・カウ」「ドッグ」の4つのポジションに分ける。経営戦略を練るうえで各ポジションの意味を知っておこう。

1. クエスチョンマーク(問題児)

クエスチョンマークは「市場成長率は高いけれど市場シェアがまだ低く育成すべき段階」というポジションだ。市場に新しい商品を投入する場合、多くはこの「クエスチョンマーク」から始まり「スター」→「キャッシュ・カウ」→「ドッグ」という道をたどるのが一般的である。市場全体が成長過程にあるため、競争も激しい。

うまくいけば将来的にスターに育つことが期待できるため、市場の動きや競合他社の動向を見極めながらしっかりと投資したいポジションだ。

2. スター(花形)

スターは「市場成長率および市場シェアが高い」というポジションだ。売り上げ好調で企業に多くの利益をもたらし今後もさらなる成長が期待できる。企業にとってもその製品・事業セグメントは、文字通り「スター」だ。しかし市場成長率が高いということは、競合他社の圧力や新規参入も考えられるため、油断禁物で継続的な設備投資や販促促進も必要となる。

いわば「売上も大きいが支出も大きい」というポジションだ。

3. キャッシュ・カウ(金のなる木)

キャッシュ・カウは、冒頭で述べたように「市場シェアは高いが市場全体の成長率は低く競争が鈍い」というポジションだ。スターのような華々しい期待感はないが、競合他社の圧力や新規参入が少ない市場ですでに高いシェアを有しているため利益効率も優れている。4つのポジションの中で費用対効果が最も大きく経営者にとっておそらく最も頼もしいポジションだろう。

一方で市場全体の成長率が低いため、いずれは市場全体が衰退する可能性もある。将来的な衰退も見込んで新たなスターやキャッシュ・カウの確立を目指し他事業を育てることも必要だ。そのためにもキャッシュ・カウに位置する製品・セグメントでしっかりと利益を確保しておくことが大切となる。

4. ドッグ(負け犬)

ドッグは「市場成長率および市場シェアが低い」というポジションで撤退する段階にあることを示す。相対的投資が不要な半面、利益を生み出すことも期待できず、悪くいえば「毒にも薬にもならない」存在だ。投資が不要とはいえ事業を継続していれば費用はかかってしまうため、撤退してしまうことも選択肢の一つとなる。

とはいえ、需要が継続することが見込めており、競合他社がすべて撤退してしまえば、将来的にキャッシュ・カウに転身する可能性もある。リストラや合理化をしながら粘り強く市場に残り続けるのもいいだろう。

事業ポートフォリオにおけるキャッシュ・カウの例

このようにPPMにおける4つのポジションには、それぞれに異なった特徴がある。そのため各特徴を踏まえたうえで事業戦略や投資配分を決定していくことが大切だ。ソニーの例で紹介しよう。同社は、エレクトロニクス事業としてスタートをしてからエレクトロニクス周辺事業を次々追加してきたのはご存じだろう。

例えば半導体や音楽、映画、ゲームといったエンターテインメント事業、さらには金融事業なども行っている。これまでの歴史の中でさまざまに事業分野を広げてきたが、安定的に高いレベルのキャッシュフローを創出する事業は、テレビやカメラ、スマートフォンといったエレクトロニクス事業だ。テレビやカメラ、スマートフォンといったエレクトロニクス製品はすでに市場にあふれている。

そのため成長率自体は鈍めだが需要が途絶えることはない。加えてこれらのソニーブランド製品は、市場で大きなシェアを持つソニーにとってのキャッシュ・カウである。同社は、2018年に策定・発表した2018~2020年度中期経営方針の中でもエレクトロニクス事業を以下のようにキャッシュ・カウと位置づけている。

“映像と音を極める技術を用いてユーザーとクリエイターを繋ぐソニーブランドのエレクトロニクス(「ブランデッドハードウェア」)を、安定的に高いレベルのキャッシュフローを創出する事業、すなわち持続的なキャッシュ・カウ事業とする”
出典:ソニー

2019年3月には、安定的に利益を稼ぐ「キャッシュ・カウ」と位置づけていたテレビ、カメラ、スマートフォンの3事業を「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション」事業に統合した。統合することで利益率をさらに強固にし、半導体やコンテンツなど成長事業の原資にあてる戦略だ。

キャッシュ・カウはなぜ重要?

キャッシュ・カウの概要や事業経営における位置づけについて説明してきたが企業を経営する人なら自社事業におけるキャッシュ・カウの必要性が理解できたかもしれない。ここでは、なぜキャッシュ・カウが重要なのかについてもあらためて確認しておこう。技術革新やイノベーションなど優れたビジネスモデルが創出される一方で資源問題や疫病問題など世の中は不安定で変化が激しい。

企業を取り巻く環境もいわゆるVUCAワールドとなっておりビジネスで勝ち抜くためにはVUCAを意識した経営が必要だ。VUCAとは以下の4つの頭文字を並べた言葉である。

  • Volatility(変動性)
  • Uncertainty(不確実性)
  • Complexity(複雑性)
  • Ambiguity(曖昧性)

企業を取り巻く市場環境が不安定で混沌とした状況であることを示す。せっかく優れた製品を作っても短期間でその優位性が揺らいでしまう。つまりPPMでいうところのクエスチョンマークに積極的な投資が不可欠でそのためには原資が必要だ。

既存事業であるキャッシュ・カウで原資を十分に確保、将来を見定めたプランを策定し変革をもたらすために投資する……これを継続的に行わなければ企業自体が脆弱化してしまいかねない。いわばキャッシュ・カウは「自社を支える製品、サービス」なのだ。

キャッシュ・カウの事業を作る経営を

自社にとってのキャッシュ・カウが何であるかを今一度、明確にしてみよう。まだ主だったキャッシュ・カウといえる既存事業が成長していない場合、まずは収益獲得を使命とする事業を明確にしたり既存事業のコスト削減や構造改革を進め抜本的な収益改善策を打ったりすることが必要だ。コスト削減などを行っても収益向上や成長が見込めない事業は、撤退を検討することも必要かもしれない。

今まで以上に事業の収益性に対して敏感になることがこれからの企業経営にとって重要だろう。キャッシュ・カウとなり得る事業を確立し、強い企業体質になることを目指して欲しい。

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文・續恵美子(日本FP協会認定CFP(R))

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