M&Aコラム
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M&Aをはじめ、株式投資やベンチャー企業などへの出資を行う現場では、対象となる企業の企業価値を評価する過程で指標が用いられています。これらの指標の中でも、とりわけ多くの現場で用いられている指標の1つが今回解説するPERです。PERは、M&Aの買い手企業が売り手企業のスクリーニングを行う場合や、機関投資家が投資対象の絞り込みを行う場合などに頻繁に用いられています。
本記事では、このPERについて、基本的な内容からその計算方法などを紹介し、最後にPERを企業価値評価の指標として使ううえで注意すべき点について解説していきます。

PERとは?

PERとは、Price Earnings Ratioの略語で、株価収益率と訳されます。
M&Aの買い手企業や株式投資を行う投資家は、リストアップされた資料の中からスクリーニングを行い、最終的にどの企業に対して投資を行うのかを絞り込んでいきます。このスクリーニングを行うために、さまざまな指標を用いて企業価値評価を算出し、それに基づいて企業同士を比較・検討します。この企業価値評価の算出を「バリュエーション」といい、その際に用いられる指標が、本記事で解説するPERです。
ちなみに、スクリーニング時に用いられる指標には、PER以外にもROE(Return On Equity:自己資本利益率)やPCFR(Price Cash Flow Ratio:株価キャッシュフロー倍率)などがあり、これらは比較する企業の業種や投資の目的などに応じて最適なものが選択されています。

利益に対して株価が「割高」か「割安」かをあらわす

M&Aであれ株式投資であれ、投資する側にとって株価が割安であることが望ましいのは間違いありません。「株価が割安である」と判断するためにはさまざまな判断基準がありますが、その中でも株価と利益の関係に着目して一株あたりの利益に対して何倍の株価がついているのかを算出したものがPERです。なお、PERを算出するためには、以下の算式を用いて計算を行います。

PER(株価収益率)の計算式
PER=株価÷1株あたりの純利益

たとえば、税引き後の当期純利益が1億円で、発行済み株式総数は1万株であるA社の株価が10万円の場合は、A社のPERを以下のように算出します。

A社のPER=10万円÷(1億円÷1万株)=10

では、同じ条件でA社の株価が10分の1(1万円)だった場合はPERが何倍くらいになるのでしょうか?同様に計算をしてみます。

A社のPER=1万円÷(1億円÷1万円)=1

この2つの例から、税引き後の当期純利益が同じであっても、株価が10分の1になるとPERも10分の1になることがわかります。もしこの2つが別の会社だったとしたら、どちらが割安になるでしょうか?会社の財務諸表は同じわけですから、当然株価が低いほう、つまりPERの低いほうが割安です。 まとめると、 PERは利益に対して株価が割高か割安かを表す ことができ、 PERが低くなればなるほど割安に、そして反対に高くなればなるほど割高 になります。

投資した金額がどれくらいで回収できるかを表す

PERは、株価が割高か割安かを表すだけでなく、 投資した金額が何年くらいで回収できるのか 、その目安を表すこともできます。
たとえば、1株あたりの当期純利益が1万円の企業の株価が15万円の場合であれば、この投資金額は15年(株価15万円÷1株あたりの当期純利益1万円=10=PER)で回収できることになります。ただし注意しなければならないのは、ここで用いる当期純利益は 投資時点における当期純利益 である点です。計算上15年で投資金額が回収できるとしても、向こう15年間まったく同じ当期純利益で推移することはまずありません。したがって、これらの数字は あくまで目安としての投資回収期間 を表しているに過ぎない点に留意しなければなりません。

「割高」と「割安」の目安は?

PERが何倍以上であれば割高で、何倍以下であれば割安なのかを一概に言い切ることはできません。業種によっても異なりますし、また国によっても異なります。
しかし一般的に日本国内の上場企業であれば、 PER15倍あたり が1つの目安とされています。なぜなら上場企業の経営者が合理的な経営を行った場合の平均値が、PERでおよそ15倍になるからです。約10年間の日経平均のPERを見ると15倍前後を推移していることから、PERが15倍を超えれば超えるほど「割高」と判断し、逆に15倍よりも低くなれば低くなるほど「割安」と判断できます。

マイナスのPERが出る場合もある

PERを算出するための算式は上述の通りですが、 当期純利益が赤字の場合 は算式中にマイナスの数字が加わるため、結果的にPERはマイナスに転じてしまいます。
たとえば税引き後の当期純利益が1億円の赤字で、発行済み株式総数は1万株であるA社の株価が10万円のPERを求めてみましょう。

PER=10万円÷(△1億円÷1万株)=△10

PERが△10ということはPER15倍を切っているわけですが、もちろん割安にはなりません。PERは15倍を切ってゼロに近づけば近づくほど割安にはなりますが、マイナスになってしまってはむしろ投資対象として考えるのが難しくなってしまいます。
しかし、PERがマイナスになってしまっても、必ずしも投資を控えたほうがよいわけではありません。たとえば、経常利益が黒字にもかかわらず、何らかの特別損失が生じたために当期純利益がマイナスになってしまうことがあります。この特別損失の影響が短期的なものであれば、経常利益そのものは黒字なわけですから、必ずしも投資対象から外したほうがよいとは言い切れません。加えて、当期純利益が赤字の結果株価が下落していれば、PERはマイナスであったとしてもむしろ割安となる可能性すらあります。PERは計算上マイナスになる場合もありますが、その場合は財務諸表などを確認してマイナスとなった原因を特定し、それを加味したうえで割高か割安かを判断する必要があるでしょう。

「PER」と「PBR」の違いは?

PERと名前の似ている指標に PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率) があります。PERが 1株あたりの当期純利益に対して、何倍の株価になっているのかを比較する指標 であるのに対し、PBRは 1株あたりの純資産に対して何倍の株価になっているのかを比較 しています。なお、PBRを求める場合は以下の算式を用いて算出可能です。

PBR(株価純資産倍率)の計算式
PBR=株価÷(純資産÷発行済み株式数)

では仮に、株価が100で純資産が10,000、発行済み株式数が100だった場合のPBRを求めてみます。このケースにおけるPBRの数値は以下のようになります。

PBR=100÷(10,000÷100)=1

純資産10,000を発行済み株式数100で割った数字は、その会社が現時点で解散した場合株主に戻って来る1株あたりの金額のことを意味します。これが10,000÷100=100となり、これは株価100と等価です。つまり、PBR=1が、理論上投資段階で会社が解散しても同額が株主に戻ってくるボーダーラインとなります。このことから、 PBRが1を割ると割安に、逆にPBRが1を超えると割高である とみなされます。ただし、会社が創業間もない場合は借入金などの負債が多くなりがちです。PBRは高くなりがちですが、ただちに「割高である」と判断はできません。

PERの計算方法

では、投資を検討する段階で、PERが実際にどのように用いられているのかを計算例を用いて解説します。本来は、PERは上述のようにスクリーニング時の絞り込みで用いられるために数十~数百社を一気に比較しますが、ここでは2社のみで比較します。条件は以下の通りです。

A社 B社
・経常利益:1億円

・特別損失:2億円

・税引き前当期純利益:△1億円

・法人税等:0円

・発行済み株式総数:100万株

・1株あたりの株価:500円
・経常利益:1千万円

・税引き前当期純利益:1千万円

・法人税等:300万円

・税引き後当期利益:700万円

・発行済み株式総数:7万株

・1株あたりの株価:1,500円

※ A社の法人税:赤字につき便宜上0円

ではまず、A社のPERから計算してみます。

A社のPER=500円÷(△1億円÷100万株)=△5

次いで、B社のPERを計算してみます。

B社のPER=1500円÷(700万円÷7万株)=15

したがって、PERが15倍以下(ただしマイナスは除く)でスクリーニングを行うと、A社は投資対象から外れ、B社だけが残ります。しかし、よく見てみるとA社は特別損失があったために当期は赤字となっていますが、これが翌期以降に及ぼす影響が限定的であるならば、投資対象として考えることができるかもしれません。

PERを見る上でのポイント

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前章でご紹介したPERの計算例を踏まえたうえで、PERを用いる場合の注意すべきポイントについて解説します。PERを見るうえで注意すべきポイントは、以下の4つです。

数値によって「割高」「割安」が明確に決まるわけではない

PERが15倍以下であることは1つの目安にはなりますが、前章の例のように、それだけで「割高」か「割安」かを単純に判断できません。どういった理由でPERが算出されたのかを個別に見ていかなければ、本当に割高(あるいは割安)なのかを正しく判断することは難しいでしょう。仮にPERだけで判断するのであれば、少なくとも複数年のPERの推移を確認しながら判断しなければなりません。

PERだけを見て判断してはいけない

上述のように、PERだけで簡易的に判断する方法では、投資判断を誤る可能性があります。したがって、PER以外にもPBRなどの複数の指標を用いてスコアリングし、M&Aや投資にふさわしいかどうかを判断すべきでしょう。

同じ業種の企業同士を比較する

同じ業種であれば産業構造が似てくるため、原価率や利益率なども大まかに似た数字となります。したがって、PERなどの指標を使って企業同士を比較する場合は、同じ業種同士を比較しなければ正しく判断できません。
減価率の高い製造業と利益率の高いIT企業のPERを比較できますが、これらを直接比較したところであまり意味がないと考えられます。

比較対象の企業のPER推移を確認する

前章におけるPERの計算例で説明したように、単年で特異的なことが起きるとPERが大幅に増える(もしくは減る)ことがあります。しかしこれは、必ずしも企業の実態を正しく表しているわけではありません。
したがって、もし単年のPERのみで判断してしまうと、本当の企業価値とは大幅に乖離した数値に影響を受けてしまいます。比較対象となる企業のPERを見るときは、必ず複数年のデータを並べてその推移を確認しなければなりません。

終わりに

本記事で紹介したPERは、ほかの指標と比べて算出が簡単であるだけでなく、投資対象となる企業の実態を株価と利益の関係から非常に正確に表しています。そのため、投資に関わる多くの現場で用いられているのが現状です。
M&Aに関しては、買い手側が投資判断を行う指標として用いるケースを紹介しましたが、これは売り手側にとっても同じように考えられます。もし、将来的にM&Aによるクロージングを視野に入れている企業経営者であれば、自社のPERが15倍を基準とした場合、「割安」なのか「割高」なのかを普段から把握しておけば、M&Aの成立をより望ましい形で行えるでしょう。
ただし、企業価値評価を行う場合に用いる指標はPERだけでなく、実際には複数の指標を用いて複数年の推移を見ながら総合的に判断しなければなりません。したがって、将来的に売り手側の立場で理想的のM&Aを達成しようとするならば、早い段階からM&A仲介会社に相談をして、自社の正しい市場価値を把握しておくことが大切です。

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