この記事は2022年1月13日に「テレ東プラス」で公開された「カセットこんろの王者が挑む 新時代エネルギー革命!:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
目次
■1. 鍋、焼肉、たこ焼き……こんろが驚きの進化
焼肉専用のカセットこんろ「やきまる」。一般的なカセットこんろと比べて煙が出にくいのが最大の特徴だ。その秘密は、鉄板の下にある。ドーナツ状のスペースがあり、そこに水を入れる仕組みになっている。実は煙が出るのは脂が燃えるためだが、その脂が鉄板の隙間から水に落ちるようになっているため、煙が出にくいのだ。
いま、こうした専用のカセットこんろが増えている。たこ焼き専用のこんろ「炎たこⅡ」もそうだ。火力の強いガスだからこそ、外はカリっと、中はジューシーに焼けると人気だ。
カセットこんろの売れ行きは絶好調。ホームセンターの店頭には、用途や形などさまざまなものが並ぶ。コロナ禍で自宅での食事が増え、カセットこんろの需要が高まっているためだ。そのカセットこんろで国内シェア8割を誇るのが岩谷産業だ。
岩谷産業のカセットこんろはアウトドアでも人気。キャンプファンに聞くと、外での料理にはカセットこんろ「タフまる」が欠かせないという。外側と内側にダブルの風防。火元の穴も一般のこんろより多く、風が吹いても火が消えにくい構造になっている。
また、手の平サイズのこんろ「ジュニアコンパクトバーナー」は折り畳み式。軽くてかさばらないから、ソロキャンプにぴったりだという。
キャンプブームの追い風を受けて、岩谷産業は10月、大阪にアウトドア専門の商品を集めた直営店「イワタニ アウトドア ショップ BASE」をオープンした。店内で実際に火をつけて試せるのが売りだ。
カセットガス炊飯器「HAN-go」は、カセットガスを取り付けてスイッチをいれるだけで、ガスの火力でふっくらおいしく炊き上がる。一方、折り畳み式のカセットこんろ「フォールディングキャンプストーブ」は、反射板が外せて脚を折り畳める。そしてカセットガスのスペースにスッポリと収まるのだ。
■2. カセットガスのシェア6割 ~ それでも主力は総合エネルギー企業
■1. 鍋、焼肉、たこ焼き……こんろが驚きの進化
焼肉専用のカセットこんろ「やきまる」。一般的なカセットこんろと比べて煙が出にくいのが最大の特徴だ。その秘密は、鉄板の下にある。ドーナツ状のスペースがあり、そこに水を入れる仕組みになっている。実は煙が出るのは脂が燃えるためだが、その脂が鉄板の隙間から水に落ちるようになっているため、煙が出にくいのだ。
いま、こうした専用のカセットこんろが増えている。たこ焼き専用のこんろ「炎たこⅡ」もそうだ。火力の強いガスだからこそ、外はカリっと、中はジューシーに焼けると人気だ。
カセットこんろの売れ行きは絶好調。ホームセンターの店頭には、用途や形などさまざまなものが並ぶ。コロナ禍で自宅での食事が増え、カセットこんろの需要が高まっているためだ。そのカセットこんろで国内シェア8割を誇るのが岩谷産業だ。
岩谷産業のカセットこんろはアウトドアでも人気。キャンプファンに聞くと、外での料理にはカセットこんろ「タフまる」が欠かせないという。外側と内側にダブルの風防。火元の穴も一般のこんろより多く、風が吹いても火が消えにくい構造になっている。
また、手の平サイズのこんろ「ジュニアコンパクトバーナー」は折り畳み式。軽くてかさばらないから、ソロキャンプにぴったりだという。
キャンプブームの追い風を受けて、岩谷産業は10月、大阪にアウトドア専門の商品を集めた直営店「イワタニ アウトドア ショップ BASE」をオープンした。店内で実際に火をつけて試せるのが売りだ。
カセットガス炊飯器「HAN-go」は、カセットガスを取り付けてスイッチをいれるだけで、ガスの火力でふっくらおいしく炊き上がる。一方、折り畳み式のカセットこんろ「フォールディングキャンプストーブ」は、反射板が外せて脚を折り畳める。そしてカセットガスのスペースにスッポリと収まるのだ。
■2. カセットガスのシェア6割 ~ それでも主力は総合エネルギー企業
岩谷産業が大阪で創業したのは1930年。工場で使う部材を売る小さな店だった。
アイデアマンだった創業者の岩谷直治は、戦後の1953年、画期的なサービスを始める。日本で初めて、家庭用プロパンガスを「マルヰ」のブランドで販売したのだ。
当時、多くの家庭では炊事をするのに、薪や炭で火を起こしていた。危険なうえにすすで汚れ、主婦は大きな負担を強いられていた。そこで創業者は、プロパンガスをボンベにつめ、家庭に配送するサービスを開始。主婦を日々の重労働から解放するこのサービスは「台所革命」と呼ばれた。
1964年、東京オリンピック。15日間、聖火をともし続けたのが岩谷のプロパンガスだった。
そのころ、創業者は新たな革命を起こそうとしていた。当時はガスの元栓からゴムホースでこんろに繋ぐ必要があったが、使いづらい上に、ホースに引っかかって火事を起こす危険もあった。
そこで生み出したのが世界初のカセット式こんろ。1969年発売でホースがいらないから「ホースノン」と名付けた。カギとなったのが小さなガスボンベ。創業者は殺虫剤のスプレー缶を見てひらめいたという。
カセットガスを作っている工場が滋賀・近江八幡市にある。この工場で年間約5000万本を生産。岩谷産業はカセットガスの販売数で国内シェア6割のダントツ企業なのだ。
ボンベに充填するのはLPガス。ガスを詰めたボンベはラインを流れて、55度のお湯の中へ。そのボンベをじっと見つめている社員がいる。お湯でガスを膨張させて、ボンベから漏れだす泡が無いか、1本1本、人の目で確認しているのだ。
岩谷産業の本社は大阪にある。従業員は1万人、年間売り上げ約6300億円(連結)。そのうちカセットこんろとガスが占める割合は3%に過ぎないという。
主力事業は中東やアメリカなどから輸入するLPG、液化石油ガス。大阪・堺市の「堺LPG輸入ターミナル」に貯蔵している。岩谷産業会長・牧野明次(80)は「当社の半分はエネルギー事業です。ここから家庭にも持っていきます」という。
貯蔵したLPGのうち、カセットガスに使われるのはごくわずか。ほとんどをプロパンガスとして家庭や企業に供給している。実は岩谷の売り上げのほぼ半分がプロパンガスなどの総合エネルギー事業。次いでヘリウムや窒素などの産業ガス事業が約3割を占める。
2000年に牧野が社長に就任して以来、岩谷産業の業績はほぼ右肩上がりだ。
「できるだけCO2を少なくしたガスをお届けしたい。なんとか夢をもう少しぐっと進めたいです」(牧野)
■3. 御用聞きで町を助ける ~ 災害時は救世主に?
大型のタンクローリーがやってきたのは、島根・大田市にあるLPG配送センター。ここでプロパンガスをボンベに充填し、各家庭に配送する。岩谷産業はこうした供給拠点を北海道から沖縄まで全国105カ所に設置している。
国内の家庭で都市ガスを使っているのは約3000万世帯。プロパンガスは2400万世帯で、およそ4割の家庭で使われているのだ。
大田市は都市ガスが供給されていないため、ほとんどの家庭がプロパンガス。スタッフが1軒1軒まわって、ボンベを交換する。
岩谷はこうした配送網を生かして、客のさまざまな困りごとを解決している。ガスとは関係ない、たとえば、壊れた井戸ポンプの交換や土木工事の手配まで。岩谷が町の御用聞きになっているのだ。
大田市内のイワタニ島根・大田支店。時には変わったことを客から頼まれるという。
「お客さまがお困りであるだろうなということは大体対応する。最近だとハチの巣駆除だとか、獣が家の中に入って荒らしているとか、いろいろです」(ガス営業2課・清水昭敏)
一方、大阪・泉佐野市の介護老人保健施設「エルダーケア」にやって来たのは岩谷産業の営業・内川志織だ。ここには介護が必要な高齢者およそ70人が入所している。
この日は内川が提案した新たな設備の設置工事が行われていた。クレーンを使って屋上へと上げていたのは、プロパンガスを燃料とする非常用の発電機だ。燃料のプロパンガスはタンクに貯める。
「タンクは2.9トンで、約1週間分の施設のエネルギーを賄うことができます」(内川) 2018年の台風21号ではこの施設も停電し、大変な目に遭ったという。
「エレベーターが止まってしまいました。緊急時の搬送、ストレッチャーが入るのですが、完全にダメになってしまった」(事務局長・貝戸鈴代さん)
この設備があれば、停電の時でもプロパンガスで発電できる。今後の災害に備えて導入を決めた。災害に強いエネルギーとして、プロパンガスの需要が高まっているのだ。
■4. 自動車からロケットまで ~ 人類の究極のエネルギー
東京・蒲田で2020年、京浜急行バスに最新鋭の路線バスが導入された。ボディには「H2水素」の文字が。水素で走る燃料電池バスだ。
通常のバスはディーゼルエンジンなのでゴトゴトと振動がある。だが燃料電池バスが積んでいるのは、電気自動車と同様、モーター。だから音も静かで揺れも少ない。
車体の上部に積んでいる水素を空気中の酸素と化学反応させて発電。その電力でモーターを動かし、走る仕組みだ。その際に排出されるのは水だけ。CO2を出さない究極のエコカーと言われている。価格はおよそ1億円。通常のディーゼルバスの5倍の値段だが、都営バスや民間のバス会社が次々と導入し始めている。
水素を補給するのはガソリンスタンドではなく水素ステーション。ガソリンと同じように、ホースをつないで水素を充填。いまのところ燃料費は、通常のバスの軽油と比べて2倍以上かかるという。さらなるコストダウンが課題だ。
この水素を供給しているのが岩谷産業。全国にある水素ステーションの3分の1を運営し、水素の国内販売シェアの7割を占めている。
実は岩谷は1941年から水素の販売を始めていた。当時の用途は製鉄や石油精製など、ごく一部の産業用に過ぎなかった。だが創業者の岩谷直治は、「水素は人類にとって究極のクリーンエネルギー」といい続けていた。
牧野が入社したのは1965年。創業者のこんな言葉が耳に残っているという。
「『そのうちに水素で飛行機も飛ぶようになるぞ。非常に水素は面白いんだ』ということを仰った。変わったことをいうなあと思ったのが頭に残っています」(牧野)
創業者の言葉がやがて現実となる。1986年、旧・宇宙開発事業団が打ち上げたH-1ロケットの燃料として、岩谷の液化水素が使われたのだ。
しかし、気体の水素を液体にするにはマイナス253度まで冷やす必要があり、莫大な電力が必要。コストが高すぎるのが課題だった。
数年後、牧野は水素先進国アメリカの化学会社に出向する。当時のアメリカはスペースシャトルの燃料や宇宙での電力確保など、さまざまな用途に液化水素を活用していた。
ある日、出向先のプラントで、牧野は現地の副社長に「日本は電気代が高いから、液化水素を安くつくることができないんです」と話した。すると副社長は「安くつくるいい方法がある」というのだ。課題解決の糸口となったこのアドバイスを、牧野は「アメリカから持ち帰った一番の成果だったと思う」という。
2000年、社長に就任した牧野は液化水素のコストダウン実現に動き出す。そして堺市に完成させたのが、世界最大級の液化水素製造プラント「ハイドロエッジ」だ。牧野がアメリカで学んだコストダウンの方法が使われている。
岩谷のプラントの隣にある4つのタンク。関西電力の液化天然ガスの貯蔵タンクだ。液化天然ガスはマイナス162度で貯蔵されていて、使用する時は気体に戻す。その際に放出される冷熱を水素の冷却に利用すれば、その分、液化に必要な電力を削減できる。これこそアメリカでつかんだ方法だった。
実現には関西電力の協力が不可欠だった。
「関西電力に説明し、了解を得るのにひと苦労しました。3年くらいかかりました」(牧野) こうして牧野は水素のコストをある程度下げた。それでもガソリンなどと比べると、まだまだ高いのが現状だ。
そこで牧野はさらなるコストダウンに動く。切り札が「すいそふろんてぃあ」という船。
「オーストラリアと日本の間で液化水素の輸送をやろう、と、将来的には大量の液化水素を持ってきます」(水素技術開発部長・中島康広)
「すいそふろんてぃあ」はマイナス253度の液化水素を運ぶためにつくられた輸送船。電力が安いオーストラリアで液化水素を製造し、日本に輸送するという画期的な試みだ。
牧野の呼びかけで、川崎重工やシェルジャパンなど名だたる企業が参加する一大プロジェクトになった。
「値段を安くしないと水素社会にはならない。今100円/N㎥くらいですから、これではガソリンやLNGには勝てません。2030年には30円/N㎥くらいにしようと。そうすれば電力、製鉄、もっと他の自動車も水素を使ってくれるようになると思っています」(牧野)
■5. ~ 村上龍の編集後記 ~
岩谷は、可愛い顔をして、地面に巨体を隠している、怪獣に似ている。有名なのはカセットこんろだけだが、売上の3%にも満たない。LPG分野で日本の市場占有率1位の総合エネルギー企業だ。そんな会社がカセットこんろを作っているのが可愛い。牧野さんは、102歳まで生きた創業者に信頼されていた。創業者は15歳で運送会社に勤め、酸素ボンベの扱いを覚え、27歳で自分の店をもつ。二人の共通の夢は水素だった。その夢は、実現に向けて、日々進化している。
<出演者略歴>
牧野明次(まきの・あきじ) 1941年、大阪府生まれ。1965年、大阪経済大学卒業後、岩谷産業入社。2000年、社長就任。2012年、会長兼CEO就任。
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