代表取締役は、会社を代表する権限をもつことを会社法上で認められた役職である。社長やCEOなどと共に会社のトップというイメージがあるが、会社法上は大きな違いがある。この記事では、代表取締役の役割や権限、選定方法、代表取締役と社長やCEOなどの役職との違いや実際の運用について解説する。
代表取締役とは?
代表取締役とは、その株式会社を代表して業務を執行する取締役のことであり、取締役の中から選定される。
代表取締役の選任義務
取締役会設置会社では、代表取締役の選定が必要だ。(会社法第362条)
これに対し、取締役会を設置していない会社では、代表取締役の選定は任意となる。代表取締役を選任しない場合は、各取締役が代表となる。(会社法第349条)
代表取締役の選任方法
代表取締役の選任方法もまた、取締役会を設置している会社かどうかで異なる。
取締役会設置会社では、取締役会の決議によって代表取締役を選任する。(会社法第362条)これに対し、取締役会を設置していない会社では、定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定める。(会社法第349条)
代表取締役の人数
代表取締役の人数について、特に上限はない。したがって1つの株式会社に2人以上の代表取締役がいてもよい。
代表取締役の任期
代表取締役の任期について決まりはないが、代表取締役は取締役から選任するため、取締役の任期を把握しておかなければならない。取締役の任期は原則として、選任後「2年以内」に終了する事業年度のうち最終年度に関する定時株主総会の終結時までの期間内である。
ただし、非公開会社(監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除く)であれば、定款でその任期を、選任後「10年以内」に終了する事業年度のうち最終年度に関する定時株主総会の終結時までの期間内で定めることができる。(会社法第332条)
代表取締役になれない人 2つのケース
(1)法律上の欠格事由にあたる人
会社法における取締役の欠格事由に該当する者は、取締役になることができない。(会社法第331条)取締役の欠格事由に該当すれば、もちろん代表取締役に選ばれることもない。
【取締役の欠格事由(下記のいずれかに該当する場合)】
- 法人
- 会社法、一般社団・財団法人法の規定に違反して刑に処せられた者のうち、その執行を終えてから、又はその執行を受けることがなくなった日から、2年を経過しない者
- 金融商品取引法、民事再生法、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律、会社更生法、破産法における一定の罰則によって刑に処せられた者のうち、その執行を終えてから、又はその執行を受けることがなくなった日から、2年を経過しない者
- 上記以外の法律に違反し、禁錮以上の刑に処せられた者のうち、その刑の執行がまだ終わっていない者(執行猶予中の者は除く。「禁錮刑以上の刑」とは、死刑・懲役刑・禁錮刑のことで、罰金刑を含まない)
意外なことに、未成年者や破産者であっても、それだけで代表取締役の欠格事由にはあたらない。また、2021年3月1日以降、会社法の一部改正により成年被後見人や被保佐人であっても一定の手続きを経ることによって、取締役に就任できるようになった。
(2)監査等委員会設置会社の監査等委員
取締役であっても、監査等委員会設置会社の監査等委員である取締役は、その会社の代表取締役になれない。(会社法399条の13)
代表取締役の役割3つ
代表取締役は、会社の代表として責任を持った行動が求められる。ここでは、代表取締役が会社で果たす大きな3つの役割について解説する。
1.株式会社の業務執行
代表取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。(会社法第363条)
なお、代表取締役以外にも、業務を執行する役員として選定された取締役や、会社の運用で選定された執行役員が業務執行を担う体制にすることも可能である。
2.株式会社の代表
代表取締役は、株式会社で行われる業務に関して、全ての裁判上または裁判外の行為ができる権限をもつ。(会社法第349条)
これは、対外的に会社の代表になるという意味だ。なお、代表取締役を選定しない株式会社では、取締役である各自がそれぞれ代表となる。(会社法第348条・349条)
3.取締役会を組織する一員
代表取締役もまた取締役の1人であり、取締役会を組織する一員である。したがって、他の取締役とともに、取締役会の職務にも加わることとなる。
【参考:取締役会の職務】
・取締役会設置会社の業務執行の決定
・取締役の職務の執行の監督
・代表取締役の選定及び解職
代表取締役に関する会社法上のその他のルール
会社において代表取締役を据える場合、会社法上で定められたルールがある。
登記事項について
代表取締役については、氏名及び住所(取締役は氏名)を登記する義務がある。(会社法第911条第3項14号)
賠償責任について
株式会社は、代表取締役やその他の代表者が、職務上で第三者に損害を加えてしまった場合、損害に対する賠償する責任を負う。(会社法第350条)
なお、代表取締役でない取締役が、株式会社の代表であるかのような誤解を第三者に与えて契約をした場合、第三者側が保護され、株式会社がその責任を負うこととなる(会社法354条)。
任務懈怠による賠償責任の一部免除の範囲
役員等が任務懈怠(けたい)によって会社に損害を与えたときは、その賠償責任を負う(会社法第423条)。
ここでの「役員等」とは、「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人」を指す。もちろん、代表取締役は取締役であるため「役員等」に含まれる。
この賠償責任は、総株主の同意がある場合に限り、全額を免除できるルールがある。さらに、総株主から同意が得られなくとも、株主総会の決議によって賠償責任の一部を免除できるルールがある。(会社法第424条・425条)
一部免除の対象になるのは、善意(故意に損害を引き起こしたわけではない場合)であり、かつ、重大な過失がない役員等に限られる。
ただし、代表取締役がこの一部免除の対象になる場合、他の役員等よりも免除できる限度額が低くなるよう設定されている。(会社法第425条)
代表取締役と他の職との違い
会社には、代表取締役をはじめとするさまざまな役職がある。ここでは、代表取締役とその他の役職との違いを解説する。
代表取締役と社長の違い
代表取締役は、会社の代表として業務執行できる権限をもつ。これに対して社長は、会社法上の機関や役職ではなく、社内の職制に過ぎない。
とはいえ、社長という言葉の意味は、世間一般では会社のトップと認識されている。そのため、代表取締役以外の取締役に「社長」の名称を付けて業務執行を行わせた株式会社は、善意の第三者に対し、その取締役の行為によって発生した損害の賠償責任を負うこととなる。(会社法354条)
また通常、社長はその会社に1名であるのに対し、代表取締役は2名以上選定されることもある。規模の大きくない会社では、取締役が1名で「代表取締役=社長」であることも多いが、大企業では複数名の取締役が選任される。
取締役が複数いれば、代表取締役が2名以上選定される場合もある。つまり、社長でない代表取締役を置いている会社もあるということだ。
代表取締役と副社長の違い
副社長という肩書きもまた、社長と同様に会社法上の機関や役職ではなく、その会社の職制である。副社長は社長に次ぐ立場だが、代表取締役や取締役という場合もある。
また、社長と異なり2名以上の副社長がいる会社もあり、中には2名以上の副社長全員を代表取締役としている会社もある。
副社長という肩書のみから会社の代表権の有無を判断できないが、社長と同様、代表取締役以外の取締役に「副社長」の名称を付けて業務執行を行わせた株式会社は、その副社長が代表取締役であると信じた善意の第三者に対し、その副社長の行為によって発生した損害の賠償責任を負うこととなる。
代表取締役と会長の違い
会長とは、取締役会設置会社における取締役会の会長を意味し、社長と同様に、会社法上の機関や役職ではなく社内の職制である。
会長もまた、代表取締役である場合と代表権のない取締役である場合がある。名誉職として会長職を運営している企業も見られるため、会長という肩書のみから会社の代表権を有するか否かは判断できない。
代表取締役と専務や常務の違い
専務や常務といった肩書きもまた、社長と同様に会社法上の機関や役職ではなく、その会社の職制である。
専務や常務は、取締役である場合もあれば、執行役員制度を導入している会社では執行役員である場合もある。また、取締役と執行役員を兼務していることもある(例:専務取締役、専務執行役員、取締役専務執行役員)。
一般的に専務と常務では、専務が上位の職務を行うことが多い。代表取締役と専務や常務の関係は、取締役である専務や常務がその会社の代表取締役であるケースは、通常はないと考えてよいだろう。ただし、組織再編の関係で、常務取締役が子会社などの代表取締役である場合はある。
代表取締役とCEO・COO・CFO の違い
会社のトップが、会社全体の業務執行を統括する役職である「CEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)」を兼務する会社も珍しくない。アメリカ型のコーポレート・ガバナンスが日本に導入される中、CEOやCOOといったC×Oの役職が普及していった。
CEOは日本の会社法上の機関や役職ではないが、代表取締役社長や代表取締役会長がCEOである会社は多い。一方で、多角的な事業展開を行う会社では、取締役でない執行役員などが事業部門ごとのCEOに就任している場合もある。
他のC×Oとしては、「COO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)」や「CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)」がある。これらの職もまた、代表取締役や取締役が兼務していたり、執行役員を兼ねていたりする場合もあり、運用は会社ごとに異なる。
代表取締役と執行役員の違い
執行役員とは、アメリカのコーポレート・ガバナンスにならって日本に導入された職制である。会社の業務執行権を取締役から分離して執行役員に担わせることで、会社の意思決定・監督機能を強化できる。
会社法上の役員ではないが、会社法第362条第4項第3号の「重要な使用人」にあたると考えられ、定款等の定めに基づいて取締役会の決議によって選任されている。
執行役員もまた、会社の体制によって、取締役から選任されることもあれば、経営に従事しない一般従業員から選任されることもある。また、代表取締役が執行役員を兼任している会社もある。
代表取締役と代表執行役執行役の違い
「執行役」や「代表執行役」とは、指名委員会等設置会社において業務執行を担う、会社法上の役員である。
通常、会社の業務執行を担うのは取締役だが、指名委員会等設置会社では、「執行役」が担うことで取締役の業務執行を分離し、取締役会が監督業務に集中できるよう設計されている。そのため、指名委員会等設置会社で、会社を代表して業務を執行するのは「代表執行役」である。
指名委員会等設置会社にも取締役は置かれるが、その中から代表取締役を選定する必要はない。なお、執行役と取締役の兼任は認められている。
・指名委員会等設置会社とは
指名委員会等設置会社とは、業務執行を担う「執行役」を選任する他、取締役の中から指名委員会・監査委員会・報酬委員会を組織する委員を選定することに特徴のある会社である。
委員会には、それぞれ取締役の指名、執行役の監査、報酬の決定を行う権限があり、委員の過半数は社外取締役から選定しなければならない。
このように、指名委員会等設置会社は、透明性の高い経営を重視して設計された会社であり、公開会社や大会社が選択できる会社形態の一つである。
代表取締役は会社の代表として外部に果たす責任も大きい
代表取締役とは何か、選定方法、役割、権限と責任、他の職との違いについて解説した。代表取締役は、その会社の代表として全ての業務執行ができる立場であり、社外からも厳しい目で評価される立場である。
会社の内部統制によって、代表取締役の数や代表取締役が兼務する職名などはさまざまである。代表取締役の選定に迷ったときは、モデルとしたい企業のコーポレート・ガバナンスを参考にして決めるとよいだろう。
代表取締役に関するQ&A
Q.代表取締役は社長にあたるのか?
代表取締役とは会社法上の機関名であり、社長とは「会社のトップ」を意味する社内での肩書きのことだ。「社長」や「会長」などの肩書きの運用は自由であるため、「代表取締役=社長」(代表取締役社長)の会社もあれば、代表取締役が社長の肩書きをもたない場合もある。
また、取締役が1名のみで取締役会を設置していない会社であればその取締役が代表であるため、登記上の取締役が社長である場合もあるし、代表取締役を社長ではなく会長が担う会社もあるだろう。なお、代表権のない取締役に「社長」などの紛らわしい名称を付与すると、会社はその取締役が行った対外的な行為について法的責任を負わなければならないことがある。
Q.代表取締役と社長はどちらが上?
社長とは「会社のトップ」であり通常は1つの会社に1名である。これに対して、代表取締役は複数名が就任することも珍しくない。したがって、組織内の運用として、たとえば複数名の代表取締役の1人に社長や会長の肩書きを設け、他の代表取締役よりも上位の立場として区別することは自由である。
対外的には、社長であるかどうかよりも、会社の法的な代表権を有する代表取締役であるかどうかが重視される。
Q.代表取締役と取締役の違い
代表取締役とは、取締役の代表として業務執行を担う法律上の機関であり、取締役の中から法律上の手続きを経て選任される。また、代表取締役と取締役は、登記上も「代表取締役」「取締役」として区別され、代表取締役の登記事項には氏名のみでなく住所が加わる。
Q.代表取締役とCEOとの違い
代表取締役とCEOは、いずれも会社の業務執行のトップであり、両者を兼任した「代表取締役兼CEO」を設置する会社もある。ただし、代表取締役は取締役の代表として会社法に定められた法的機関であることに対し、CEOは諸外国をモデルに導入された役職であって、日本の会社における法的機関ではないという点で異なる。
社外の人物にとって重要なのは「代表取締役」なのかどうかであるため、CEOを設置する際は、代表取締役かそうでないかがわかるように表示する必要がある。
Q.代表取締役は何人いてもいい?
取締役や代表取締役の人数に特に制限はないため、1つの会社に2人以上の代表取締役がいても構わない。ただし、株式会社の種類によっては、一定割合の社外取締役を置かなければならない場合がある。
たとえば、監査等委員会設置会社の監査等委員である取締役や指名委員会等設置会社の各委員である取締役は、その過半数が、社外取締役でなければならない。上場等に向けてこのような会社を設計する場合は、自社の取締役の人数が多すぎると社外取締役の確保が困難になる点に注意が必要だ。
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文・中村太郎(税理士)