矢野経済研究所
(画像=faithie/stock.adobe.com)

2021年12月
研究員 丁田徹也

2021年は前年に引き続きコロナ禍にあるが、直近では人々の外出が増え、コロナ禍以前の生活が戻ってくる兆しもある。コロナ禍で変化した人々の行動様式のなかには、コロナ禍以降でも、以前の暮らしよりも便利になったことがあれば、引き続きそのスタイルを変えないこともあるであろう。そのひとつがシェアリングエコノミーの利用と考えられる。今回はその中でもとくに利用が増えているスキルシェアサービスの分野を取り上げる。

まず、シェアリングエコノミーとは、モノやスペース、サービスといったあらゆるものをネット上で共有して利用し、購入(所有)ではなく利用したことに対して対価を支払う経済の仕組みのことである。といっても想起されるのはカーシェアくらいで、ほかにどのようなサービスがあるかピンとこない人も多いのではないだろうか。人々にとっていまだ馴染みのない新しいサービス形態であるがゆえに、認知は進んでも利用までたどり着かず、市場が爆発的に成長しておらず、シェアリングエコノミー市場の大きな課題でもある。そのような状況が続く中でコロナ禍に突入したが、当該市場においてはコロナ禍が追い風となったといってもよいだろう。

コロナ禍に入って以降人々は外出が難しくなり、仕事から私生活に至るまで、これまでとは行動様式を変えざるを得なくなったが、この環境の変化がシェアリングエコノミーサービスの新たな利用ニーズをあぶりだした。
まず、これはシェアリングエコノミーサービスに限ったものではないが、コロナ禍では在宅が推奨されたことから、多くの人々がインターネット上での活動に時間を費やした。シェアリングエコノミーサービスは、2010年以降登場した比較的新しいサービスが多く、サービスの利用者と提供者を繋ぐプラットフォームでもあることから、インターネットを介して登録や利用するものがほとんどである。そしてコロナ禍では多くの人々が在宅環境にあり、インターネット上のサービスを利用する機会が増えたことに伴い、シェアリングエコノミーのサービスの利用も増加した。
この行動様式の変化により、とくにスキルシェアと呼ばれるシェアリングエコノミーの分野は大きく成長した。スキルシェアとは、個人の特技や技術を提供できるおもにCtoC型のサービス(消費者〈consumer〉から消費者〈consumer〉に提供するサービス)である。プラットフォーム上で業務・スキルの募集や依頼ができるサービスや、個人が講師となり参加者に講習することのできる仕組みを提供するサービスなどがある。コロナ禍前までは、シェアリングエコノミーサービスがプラットフォームサービスとはいえ、いったんリアルな場での打ち合わせをしたうえでの業務委託や、リアルな会場での講習が多く、結局は工数が掛かるものも少なくなかった。
しかし、コロナ禍以降は仕事の打ち合わせでオンライン会議システムを利用することが一般的になり、モニター越しでのコミュニケーションの品質に問題がないことが証明された。オンライン会議システムの利用が一般的になったことで、各スキルシェアサービスでもオンライン会議システムをサービスに取り入れたことで、業務委託前のオンライン打ち合わせやライブ配信による講習などが盛んに行われるようになり、オンライン上ですべて完結するようになり、サービスの利便性が格段に上がった。
加えて、コロナ禍で職を失った人々や、収入に安定を求める人々が副業・複業の手段としてスキルシェアサービスに注目するようになっており、需要は一層高まっている。
コロナ禍が過ぎ去った後も、オンライン会議システムはその利便性から普遍的なコミュニケーションツールのひとつになることが想定できる。これにより、ビジネスシーンではリモートワークが継続することが想定でき、通勤時間の短縮で可処分時間が増加することから、副業・複業需要の継続も期待できる。さらに、オンライン上で気軽に副業・複業できるスキルシェアサービスは輪をかけて需要が高まる。スキルシェアサービスはコロナ禍を機に今後も人々の生活をより豊かにする手段として認知され、そして利用が進んでいくと考えられる。

コロナ禍で人々の行動様式が変化し、スキルシェアサービスの捉え方が変わってきたことは、これまで訪れてこなかった、またとない市場成長の機会である。ゆえに、オンライン会議システムの普及という最大瞬間風速を利用し、各事業者は引き続き需要を喚起し、スキルシェアサービスをより人々の生活の一部になるまで普遍的なものにしていかなければ、市場の成長はコロナ禍特需で終わってしまう。このチャンスをものにするためにも、今はサービス事業者各社が手を取り合い、市場全体でサービスの普及に努めることが最優先事項である。市場研究をするこの立場においても、引き続き各事業者の動きを追いかけ、さまざまな取り組みを周知し、市場発展に寄与していきたい。

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