近年、商品の販売のみならず企画・製造まで自社で一貫して行う「D2C」というビジネスモデルが大きな注目を集めるようになった。顧客と直接つながる特長を活かして事業発展に成功する企業もあり、D2Cに関心を持っている企業も多いだろう。しかし、すべてを自社で行うためにはさまざまなリソースも必要で、進め方にもコツがある。本稿では、D2Cの成功事例を紹介しつつD2Cのメリットやデメリットについても詳しく解説していく。
目次
D2Cとは?
D2Cとは「D to C」つまり「Direct to Consumer」の略称だ。メーカーもしくはブランド保有企業、個人事業者などが仲介業者を通さずに、自社で企画・製造した商品を自社のチャネルを通して消費者に直接取引するビジネスモデルである。アフターケアまでも自社で完結させるのが一般的だ。
古くから使われている「B2C」や「B2B」という言葉に似ているが、これらは「誰に向けて(誰と)ビジネスをするか」という意味合いで使われる。
- B2C(Business to Consumer):一般消費者を対象とするビジネス
- B2B(Business to Business):企業や組織を対象とするビジネス
一方D2Cは「どのように商品・サービスを提供するか」というモデルであり、ビジネスの対象者を限定するものではない。
D2Cの成功企業例
詳しくは後述するが、D2Cはダイレクトに最終顧客と接点を持つことで中間マージンを排せることや、最終顧客データを獲得できるなどの点で注目されており、実際にD2Cで成功した企業もある。以下で3つの企業の例を紹介する。
PHOEBE BEAUTY UP
まつ毛美容液の販売で有名になった企業だ。消費者に寄り添った商品展開や直接消費者とコミュニケーションを取ることを大切にしており、自社サイトでの商品販売を中心に全国のバラエティショップでの販売も行っている。また扱う商品の特性上、若い女性のユーザーが多い。そのためインスタグラムやTwitterなどSNSを活用した宣伝にも力を入れているのが特徴だ。SNS独自のキャンペーンなども行っている。
Mr. CHEESECAKE
こだわりのチーズケーキを製造・販売するブランドだ。自社サイトでは、有名シェフがチーズケーキを企画、製造するまでのストーリーを丁寧に紹介。また季節ごとの商品紹介もセンスの良い写真とともに掲載しており消費者の購買意欲をくすぐる内容となっている。メールマガジンに登録することで販売開始や限定商品のお知らせが届く。これによりリピーター獲得の一助となっている。
snaq.me
おやつの定期便を販売する企業。サイト上で好みや除外したい食材の情報を入力し購入手続きを行う。その後は、ポストにおやつが届く仕組みだ。「2週に1回」「4週に1回」という頻度で届く定期購入でリピーター獲得に成功している好例といえるだろう。またおやつが届くと評価をフィードバックするシステムで好みの商品を届けてもらう仕組みが確立しているところも高評価につながっている点だ。
D2Cが注目されている背景
近年D2Cが注目されるようになった背景には、消費者の価値観や消費行動変化があると考えられている。特に消費行動においては、SNSやECサイト、比較サイトなどを通じて購入前に情報検索、性能・価格などの比較、コメントチェックといった行動が一般化しつつある。
多様な消費者ニーズやインサイトに応えるためには、顧客の体験価値向上とそのためのデータ分析の重要度が増している。そのためにも、直接消費者とつながる必要性が生じているのだ。幸い、ネットショッピングの普及とともにECサイト構築の利便性が向上したり、SNSや動画配信などの消費者と直接コミュニケーションを取ったりできるツールも普及している。
企業にとってもD2Cに取り組みやすくなっているといえるだろう。
D2C導入のメリット
D2Cを導入することでどのようなメリットがあるのだろうか。詳しく見てみよう。
顧客の反応がダイレクトに分かる
D2Cでは、仲介業者を通さず直接企業と消費者がつながるため、顧客の反応がダイレクトに分かり、供給量の調整や商品・サービスの改善をスピーディに行えることが最大のメリットだ。例えば自社サイトを利用して商品を販売する場合、サイトの滞在時間、アクセスが多いページなどの解析が容易にできる。
顧客が「どの商品に反応を示しているか」「どの商品は人気がないか」というデータの収集や蓄積により、魅力的な商品開発につなげることが期待できる。
収益性が向上する
D2Cでは、自社で商品の企画・製造・販売を一貫して行う。卸売業者や小売業者は入らないため、それらにかかるコストが削減できる。また店舗を持たずインターネット販売に特化することで、店舗にかかるコストも必要なくなる。こうした理由から収益性アップが期待できるだろう。
顧客に自社の想いを直接伝えることができる
自社サイトを通じて商品を販売するD2Cでは、自社の想いや商品に対するこだわりを消費者に伝えることが可能だ。自社のファンになった人や商品へのこだわりを理解してくれた消費者は何度も購入してくれるリピーターになることが期待できる。
リピーターの獲得がしやすい
自社サイトを用いたD2Cの場合、顧客の情報の収集もしやすい。商品購入履歴に基づき気に入りそうな商品の案内を送ることも可能だ。各顧客に合った販売戦略も立てられるため、リピーターの獲得がしやすいというメリットがある。
D2Cのデメリット・注意点
コストを抑え高い収益性が期待できるD2Cだがデメリットもある。考えられるデメリットや注意点についてもチェックしておこう。
魅力的な商品が必要
D2C成功のためには、まず魅力的な商品開発をすることが必要だ。ターゲットとなりそうな消費者が求めているものは何かをリサーチし、ニーズに合った商品を作らないといけない。調査に関する時間や費用だけでなく商品開発にもコストがかかるというデメリットも忘れないようにしたい。
ブランディングが必要
自社商品のファンを作るためには、商品企画に加えてブランディングも必要不可欠である。「会社が目指しているもの」「どうしてこの商品を開発したか」などを考え、コピーやサイト内の文章に落とし込むという作業も必要になる。またブランディングは、すぐに結果が出るものではないため、ある程度時間がかかることも把握しておかねばならない。
販路開拓にコストがかかる
D2Cでは、自社で直接販売するため、販路開拓に金銭的・時間的コストがかかる。特にインターネット通販で商品を販売する場合は、既存のプラットフォームサイトを利用するのではなく自社ECサイトを利用するのが一般的だ。そのためコストだけでなく時間もかかる点がデメリットといえるだろう。
顧客開拓やリピーターを増やす努力が必要
新しいサイトを作って商品を販売する場合、顧客の開拓も必要だ。ターゲットとなりそうな人にダイレクトメールを送ったり関連しそうなサイトに広告を出したりするなどの戦略を立てないとならない。顧客開拓に関する費用が発生することは、デメリットといえる。さらに一度購入した顧客に再度買ってもらえるように定期購入制度を導入するなどの工夫も必要だ。
こちらにもコストや時間がかかる点は、押さえておきたい。
D2Cに向いている商品とは?
D2Cにさまざまなメリットがあるとはいえ、そもそも事業内容がD2Cに適していなければ従来のビジネスを続けるほうが好ましい。そこで、D2Cの取り組みに向いている商品を紹介しておこう。
- サプリメント
- 化粧品
- カメラやオーディオ
- 洋服
- 下着・インナー
これらは、以前からECサイトでよく購入されているものが多い。D2Cに向いている商品は、消費者がインターネットで購入することに抵抗がない商品が多い傾向だ。またD2Cでは「 ニッチな要求に応える」ことで熱心なファンをつかむこともできる。前出の「まつ毛美容液」の会社の例などは、これに該当するだろう。また「サイズ展開が豊富な洋服」などもニッチな要求に応える例といえる。
顧客の細かいニーズに応えられる商品を販売すれば、大手の同業他社と争う必要もない。またD2Cでは、特別感の演出ができる商品が多いことも特徴だ。「あなたのためだけに処方されたサプリメント」「有名シェフが作ったスイーツ」のように「ここでしか買うことができない特別なもの」を販売することで商品に付加価値を付けることができる。
「商品開発の背景に共感した」「特別感を気に入ってくれた」といった人に商品を販売することは、リピーター獲得にもつながるだろう。
D2Cの進め方
ここからは、D2Cに取り組む際の流れを紹介する。以下の4つのステップで進めていこう。
1.ビジネスモデルを設計する
まず必要となるのが「何を誰に提供するか」を明確にしてD2C事業モデルを策定することだ。対象が明確になれば「どのように提供するか」に落とし込む。提供方法は、ECサイトに限らない。はじめから思い込みで進めず、広い視点であらゆる手段を検討することも大切だ。
2.ビジネスモデルを検証・調整する
D2Cのビジネスモデルが設計できたあとは、事業の具体化に向けて検証を行う。コスト・収益構造を明らかにして中長期で財務シミュレーションによってビジネスとしての実現可能性をはかることが必要だ。シミュレーションの結果次第では調整を加えて再設計を行う。
3.事業モデル運用環境を構築する
D2Cの実現可能性が明確になったあとは、実際に運用するための体制づくりに取り組もう。例えばECサイトの構築や運用・物流体制の整備などがある。
4.プロモーションを展開し、サービスの改善を行う
運用環境が整ったら、いよいよプロモーションの展開だ。ECモールやECマーケットプレイスへの出店、SNS運用などで潜在顧客に対して積極的にアプローチすることも有効である。D2Cビジネスを展開するなかで改善点が見られた場合は、即時に対応していこう。LTV(顧客生涯価値)や解約率などの指標を用いて常に状況を把握し、改善・実行を繰り返すことが大切だ。
D2C成功のポイント
D2Cに成功するためには以下のポイントを意識しておこう。
ターゲットにする顧客の属性を把握する
D2Cの成功のためには、「どのようなターゲットに向けて商品を販売するか」について確認することが最も重要になる。ターゲットを把握することで「どのような売り方をするのか」「広告宣伝をどうするか」といった方向性もしっかりと決めることができるだろう。
ブランドの確立
多くの商品のなかから自社商品を選んでもらうには、魅力的な商品開発が重要だ。しかしブランドを確立していく必要もある。まずはブランドのファンになってもらい、そこから商品購入という流れを作るとよいだろう。
SNSを利用したウェブマーケティングを行う
D2Cを成功させるには、上手なウェブマーケティングを行うことが必要だ。特にSNSの利用は有効。消費者が企業やブランドを身近に感じるようにコミュニケーションを取ることで商品購入につなげることが期待できる。また企業やブランドを知ってもらうきっかけ作りとしてターゲットとなる消費者と属性が近いインフルエンサーを活用することも検討したい。
魅力的な商品開発
いくらサイトが整っていても、魅力的な商品がないと購入には至らない。商品のターゲットを見極めながらニーズを分析し本当に消費者が求める商品を生み出すことが重要だ。
定期購入制度、リピーター優遇制度の導入
D2Cで大切なのは、何度も商品を買ってくれるリピーターをたくさん作ることだ。そのためには「定期購入制度を導入し購入手続きの手間を省く」「リピーター優遇制度で購入金額等に応じた割引をする」などの工夫も必要になってくる。
D2Cの失敗事例効果が見られない時にチェックすべきポイント
先に紹介したポイントを意識して展開してもD2Cが成功するとは限らない。上手く効果が見られないと思った場合は、以下の点もチェックしてみよう。
商品が消費者のニーズに応えられていない
自分たちが「良い」と思った商品でも消費者のニーズに合致していなかったら売れるわけがない。「本当に消費者が求めているものか」を事前にしっかりとリサーチできていないと売れない商品を生み出す恐れもある。
サイトに集客できない
「SNSの活用がうまくいかない」「効果的な広告が出せない」などの理由でサイトに集客ができないこともD2Cの失敗につながる。まずは、ターゲットを把握しどの媒体に広告を出すかをしっかりと検討することが必要だ。
顧客対応が悪い
魅力的な商品があり、サイトに集客できても顧客対応が悪いと購入までには至らない。また仮に一度購入されても対応が悪いお店でリピーターになってくれる可能性は低いといえる。ネットショッピングでは一般的となっている以下のような基本的な顧客対応ができているかの確認が必要だ。
- 受注確認メールはきちんと送られているか
- 受注から発送までに時間がかかりすぎていないか
- 問い合わせに迅速に回答しているか
ちょっとしたずさんな対応でもブランドの評価につながってしまうこともあるため、気を付けておきたい。
D2Cの成功までにはコストや時間がかかることを覚悟しよう
D2Cで成功している企業の例やD2Cが成功するまでのポイントを解説した。現在D2Cで成功している企業も簡単に成功したわけではない。消費者のニーズをリサーチし、それに合った商品開発を行ったからこそ成功に至ったのだ。また単に購入してもらうだけではなく商品開発に至るまでのストーリーや開発者の想いを消費者に届けられていることも成功のポイントといえる。
D2Cで成功するまでには、消費者ニーズのリサーチや商品開発、宣伝広告、サイト作成などにコストがかかることを覚悟しておこう。また商品を販売する自社サイトを立ち上げたからといって、すぐに成功するわけではない。基盤を構築していくためには、ある程度時間がかかることも再認識しておいたほうがいいだろう。
文・田尻宏子(ファイナンシャルプランナー)