
近年、商品の販売のみならず企画・製造まで自社で一貫して行う「D2C」というビジネスモデルが大きな注目を集めるようになった。これからD2Cに取り組みたい企業も多いだろうが、成功のカギはどこにあるのだろうか。本稿では、D2Cの成功事例を紹介しつつD2Cのメリットやデメリットについても詳しく解説していく。
D2Cで成功した企業を紹介
D2Cで成功した企業は、どのような事業展開をしているのだろうか。3つの企業の例を紹介する。
PHOEBE BEAUTY UP
まつ毛美容液の販売で有名になった企業だ。消費者に寄り添った商品展開や直接消費者とコミュニケーションを取ることを大切にしており、自社サイトでの商品販売を中心に全国のバラエティショップでの販売も行っている。また扱う商品の特性上、若い女性のユーザーが多い。そのためインスタグラムやTwitterなどSNSを活用した宣伝にも力を入れているのが特徴だ。SNS独自のキャンペーンなども行っている。
Mr. CHEESECAKE
こだわりのチーズケーキを製造・販売するブランドだ。自社サイトでは、有名シェフがチーズケーキを企画、製造するまでのストーリーを丁寧に紹介。また季節ごとの商品紹介もセンスの良い写真とともに掲載しており消費者の購買意欲をくすぐる内容となっている。メールマガジンに登録することで販売開始や限定商品のお知らせが届く。これによりリピーター獲得の一助となっている。
snaq.me
おやつの定期便を販売する企業。サイト上で好みや除外したい食材の情報を入力し購入手続きを行う。その後は、ポストにおやつが届く仕組みだ。「2週に1回」「4週に1回」という頻度で届く定期購入でリピーター獲得に成功している好例といえるだろう。またおやつが届くと評価をフィードバックするシステムで好みの商品を届けてもらう仕組みが確立しているところも高評価につながっている点だ。
D2Cに向いている商品とは?
ここまでD2Cの成功事例を紹介してきた。D2Cで成功する商品には、以下のようなものが多い。
- サプリメント
- 化粧品
- カメラやオーディオ
- 洋服
- 下着・インナー
これらは、以前からECサイトでよく購入されているものばかり。D2Cに向いている商品は、消費者がネットで購入することに抵抗がない商品が多い。またD2Cでは「ニッチな要求に応える」ことで、熱心なファンをつかむこともできる。前出の「まつ毛美容液」の会社の例などは、これに該当するだろう。また「サイズ展開が豊富な洋服」などもニッチな要求に応える例といえる。
顧客の細かいニーズに応えられる商品を販売すれば、大手の同業他社と争う必要もない。またD2Cでは、特別感の演出ができる商品が多いことも特徴だ。「あなたのためだけに処方されたサプリメント」「有名シェフが作ったスイーツ」のように、「ここでしか買うことができない特別なもの」を販売することで商品に付加価値を付けることができる。
「商品開発の背景に共感した」「特別感を気に入ってくれた」といった人に商品を販売することは、リピーター獲得にもつながるだろう。
D2C導入のメリット
D2Cを導入することでどのようなメリットがあるのだろうか。詳しく見てみよう。
顧客に自社の想いを直接伝えることができる
自社サイトを通じて商品を販売するD2Cでは、自社の想いや商品に対するこだわりを消費者に伝えることが可能だ。自社のファンになった人や商品へのこだわりを理解してくれた消費者は何度も購入してくれるリピーターになることが期待できる。
高い収益性
D2Cでは、自社で商品の企画・製造・販売を一貫して行う。卸売業者や小売業者は入らないため、それらにかかるコストが削減できる。また店舗を持たずインターネット販売に特化することで、店舗にかかるコストも必要なくなる。こうした理由から高い収益性が期待できるだろう。
顧客の反応がダイレクトに分かる
D2Cでは、自社サイトを利用して商品を販売するため、サイトの滞在時間、アクセスが多いページなどの解析が容易にできる。顧客が「どの商品に反応を示しているか」「どの商品は人気がないか」というデータの収集や蓄積をすることで魅力的な商品開発につなげること期待できる。
リピーターの獲得がしやすい
自社サイトを用いたD2Cの場合、顧客の情報の収集もしやすい。商品購入履歴に基づき気に入りそうな商品の案内を送ることも可能だ。各顧客に合った販売戦略も立てられるため、リピーターの獲得がしやすいというメリットがある。
D2C成功のポイント
D2Cは、ただ自社サイトを作って商品を販売するだけでは成功とはいえない。どのようにしたらD2Cが成功するのか、そのポイントを探ってみよう。
ターゲットにする顧客の属性を把握する
D2Cの成功のためには、どのようなターゲットに向けて商品を販売するかを確認することが最も重要になる。ターゲットを把握することで「どのような売り方をするのか」「広告宣伝をどうするか」といった方向性もしっかりと決めることができるだろう。
ブランドの確立
多くの商品の中から自社商品を選んでもらうには、魅力的な商品開発が重要だ。しかしブランドを確立していく必要もある。まずは、ブランドのファンになってもらいそこから商品購入という流れを作るとよいだろう。
SNSを利用したウェブマーケティングを行う
D2Cを成功させるには、上手なウェブマーケティングを行う必要がある。特にSNSの利用は有効。消費者が企業やブランドを身近に感じるようにコミュニケーションを取ることで商品購入につなげることが期待できる。また企業やブランドを知ってもらうきっかけ作りとしてターゲットとなる消費者と属性が近いインフルエンサーを活用することも検討したい。
魅力的な商品開発
いくらサイトが整っていても魅力的な商品がないと購入までには至らない。商品のターゲットを見極めながらニーズを分析し本当に消費者が求める商品を生み出すことが重要だ。
定期購入制度、リピーター優遇制度の導入
D2Cで大切なのは、何度も商品を買ってくれるリピーターをたくさん作ることだ。そのためには「定期購入制度を導入し購入手続きの手間を省く」「リピーター優遇制度で購入金額等に応じた割引をする」などの工夫も必要になってくる。
D2Cのデメリット・注意点
コストを抑え高い収益性が期待できるD2Cだがデメリットもある。考えられるデメリットや注意点についてもチェックしておこう。
自社ECサイトを作るコストがかかる
D2Cでは、主にインターネット通販で商品を販売する。ただし既存のプラットフォームサイトを利用するのではなく自社ECサイトを利用するのが特徴だ。一から自社ECサイトを作るのには、コストも時間もかかる点がデメリットといえるだろう。
魅力的な商品が必要
D2C成功のためには、魅力的な商品開発も必要だ。ターゲットとなりそうな消費者が求めているものは何かをリサーチし、ニーズに合った商品を作らないといけない。調査に関する時間や費用だけでなく商品開発にもコストがかかるというデメリットも忘れないようにしたい。
ブランディングが必要
自社商品のファンを作るためには、ブランディングが必要だ。「会社が目指しているもの」「どうしてこの商品を開発したか」などを考え、コピーやサイト内の文章に落とし込むという作業も必要になる。またブランディングは、すぐに結果が出るものではないため、ある程度時間がかかることも把握しておかねばならない。
顧客開拓やリピーターを増やす努力が必要
新しいサイトを作って商品を販売する場合、顧客の開拓も必要だ。ターゲットとなりそうな人にダイレクトメールを送ったり関連しそうなサイトに広告を出したりするなどの戦略を立てないとならない。顧客開拓に関する費用が発生することは、デメリットといえる。さらに一度購入した顧客に再度買ってもらえるように定期購入制度を導入するなどの工夫も必要だ。
こちらにもコストや時間がかかる点は、押さえておきたい。
D2Cの失敗事例
D2Cは、成功事例だけでなく失敗する例も多い。どのような点で失敗しているのかも知っておこう。
商品が消費者のニーズに応えられていない
自分たちが「良い」と思った商品でも消費者のニーズに合致していなかったら売れるわけがない。「本当に消費者が求めているものか」を事前にしっかりとリサーチできていないと売れない商品を生み出す恐れもある。
サイトに集客できない
「SNSの活用がうまくいかない」「効果的な広告が出せない」などの理由でサイトに集客ができないこともD2Cの失敗につながる。まずは、ターゲットを把握しどの媒体に広告を出すかをしっかりと検討することが必要だ。
顧客対応が悪い
魅力的な商品があり、サイトに集客できても顧客対応が悪いと購入までには至らない。また仮に一度購入されても対応が悪いお店でリピーターになってくれる可能性は低いといえる。ネットショッピングでは一般的となっている以下のような基本的な顧客対応ができているかの確認が必要だ。
- 受注確認メールはきちんと送られているか
- 受注から発送までに時間がかかりすぎていないか
- 問い合わせに迅速に回答しているか
ちょっとしたずさんな対応でもブランドの評価につながってしまうこともあるため、気を付けておきたい。
D2Cの成功までにはコストや時間がかかることを覚悟しよう
D2Cで成功している企業の例やD2Cが成功するまでのポイントを解説した。現在D2Cで成功している企業も簡単に成功したわけではない。消費者のニーズをリサーチし、それに合った商品開発を行ったからこそ成功に至ったのだ。また単に購入してもらうだけではなく商品開発に至るまでのストーリーや開発者の想いを消費者に届けられていることも成功のポイントといえる。
D2Cで成功するまでには、消費者ニーズのリサーチや商品開発、宣伝広告、サイト作成などにコストがかかることを覚悟しておこう。また商品を販売する自社サイトを立ち上げたからといって、すぐに成功するわけではない。基盤を構築していくためには、ある程度時間がかかることも再認識しておいたほうがいいだろう。
文・田尻宏子(ファイナンシャルプランナー)