日本水産は12月1日、オンラインで専門紙向けに年末記者会見を開き、浜田晋吾社長が業績や方針などについて要旨次のように話した。
【事業環境について】
最大の課題であるコロナ禍について、欧州で感染が急拡大するなど海外ではまだまだ沈静化せず、日本では急速に落ち着いたものの、オミクロン株が出てくるなどまだまだ油断できない状況だ。一方、原材料価格や物流費の高騰が続き、この傾向が今後どうなるかなかなか予想できない。
そうした中、10月末〜11月、英国グラスゴーで「COP26」が開催され、気候変動を食い止めるための世界的戦略について議論がなされた。環境意識の加速は今後、当社グループの事業・CSR活動に大きな影響を与えると考える。さらに、米中対立や激甚化する自然災害などさまざまな問題があり、世界経済に対する先行き不透明感は拭えない状況だ。
IMFによる世界経済の地域別見通しを見ると、世界いずれの地域もある程度成長するものの、2022年は2021年を下回るという予測だ。一方、国内経済は、IMF予測では2021年より良くなるとされるが、ある調査では消費者の食に対する支出は今後慎重になるとされており、消費マインドから見ても長期戦は必須だろう。
【2021年度の振り返り】
コロナ禍の影響も大きく2021年度は本来の中計策定を1年先送りし、傷んだ事業の体質を強化する1年として取り組んでいる。
前年度大きく苦戦した国内養殖事業については、コスト削減と生産性向上による収益改善を図り、今期は大きく改善する見通しだ。
国内チルド事業については、コンビニエンスストアの売上高・来店客数の回復は鈍く、販売面ではまだ苦戦が続く見込みだが、生産効率をさらに高めるとともに、冷凍食品など新規カテゴリーへの参入を図るために工場集約・再配置などを実施している。上期までも、予算を上回る収益改善が進んでいる。
そして、新規事業発掘の取り組みも進めている。2021年3月1日付で、社長直轄の「事業開発部」を新設し、若手社員を集め、新たなプロジェクトを推進中だ。これは一過性の取り組みではなく、こうした活動を通して社内にアントレプレナー(起業家)の精神風土を定着させたい。
また、6月には「業務改革プロジェクト」を発足させ、仕事の内容を見直し、生産性向上のレベルアップを目指す部署横断的な取り組みを進めている。内容は社内公募を含め、ペーパーレス化、会議効率化、捺印・ワークフロー電子化などに取り組んでいる。
トピックスとしては〈1〉7月の北九州ニッスイの火災〈2〉英国事業の展開加速〈3〉高純度EPA医薬品原料を米国出荷開始〈4〉価格改定――が挙げられる。
〈1〉については、人命被害がなかったことが不幸中の幸い。他の事業所での再発を確実に防止するとともに、失った生産機能の早期回復を検討している。
〈4〉については、11月19日発表の通り、原材料価格高騰・人件費増・原油価格高騰に伴う燃料、包装資材、物流費の上昇があり、2月1日着荷分より、家庭用すり身製品・家庭用冷凍食品・業務用冷凍食品の一部を値上げする。
【上期業績および年間見通し】
2021年度上期業績は既に発表した通り、売上高が前年同期比13.1%増3,396億円、営業利益が100.6%増138億円など、2020年の反動もあり海外水産・食品および国内水産が好調で大幅な増収増益で、各段階損益においては上半期の最高益を更新した。
通期見通しは、海外で食のリバウンド消費が落ち着き始めた上、人件費や原料等のコストアップ、サプライチェーンの停滞など懸念はあるが、体質強化の取り組みも進みつつあることから年間計画を上方修正し、売上高9.4%増6,730億円、営業利益36.1%増245億円、経常利益23.5%増280億円など計画している。計画通りいけば、通期の営業利益・経常利益は過去最高益となる見通しだ。
【2022年度以降について】
直近10年で利益体質となってきたが、踊り場を迎えているのも事実だ。原点に立ち戻り、ミッションから再考し、再成長を目指す必要がある。次年度スタートする次期中計はその第一歩と考えている。
次期中計の新経営方針体系として、ニッスイの110年以上に渡る歴史、創業の理念と5つの遺伝子を土台とし、CSR・サステナビリティ志向の行動を積み重ね、その上に2030年のニッスイグループの在りたい姿を示す「長期ビジョン」、さらにその上に50年、100年とニッスイグループが永続的に目指す所を示す「ミッション」を重ね、実現していきたい。
そして、次期中計は2030年の長期ビジョンで掲げる「ありたい姿」をバックキャスト思考で実現するための第1ステージと位置づけ、そのためには収益モデルの変革も必要だと考えている。 こうした新たなミッション、長期ビジョン、次期中計は2022年4月に公表する予定でいる。
〈冷食日報2021年12月6日付〉