2021年11月11日、クリスティーズオークションの2つイブニングセールがニューヨークで開催された。パンデミック後のアート市場の力強い回復を示すように、同日に開催された「20th Century Evening Sale」と「The Cox Collection: The Story of Impressionism, Evening Sale」の2つのイブニングセールを合わせ、約858億円 ($7億5,190万) の売り上げを記録した。
これは、一晩で行われたオークションとしては史上2番目に高い金額だ。(2017年に≪サルバトール・ムンディ≫が販売されたクリスティーズイブニングセールの約896億円 ($7億8600万) に次ぐ金額)
本記事は、この2つのオークションのうちの「20th Century Evening Sale」の落札価格トップ5の作品を紹介。落札価格は1ドル=114.05円(11月11日レート)で計算、手数料込み。
5) パブロ・ピカソ ≪Femme accroupie en costume turc II (Jacqueline)≫
落札価格:約29億1,398万円 ($25,550,000)
#AuctionUpdate: 'Femme accroupie en costume turc II (Jacqueline)' by Pablo Picasso (1881-1973) realized $25,550,000 at auction. Picturing his new lover, Jacqueline Roque, the present work is one of an important group of eleven portraits that developed from 'Les femmes d'Alger'. pic.twitter.com/470cqGcTVb
— Christie's (@ChristiesInc) November 12, 2021
1955年に制作された本作品は、ピカソの新しい恋人 ジャクリーヌ・ロックを描いたものであり、ピカソの《アルジェの女たち》のシリーズに続いて制作された11点の重要な座位の肖像画群のひとつだ。
予想落札価格:約22.8億円〜約34.2億円 ($20,000,000 – $30,000,000)
4) ゲルハルト・リヒター ≪Abstraktes Bild≫
落札価格:約31億45万円 ($27,185,000)
ゲルハルト・リヒターの作品の中でも特に評価の高い「Astraktes Bild」シリーズのひとつ。従来のブラシに加え、独自に開発した巨大なゴム製のブレード(スキージ)を使ってキャンバスに絵を描き、そこからその跡を一掃するという方法によって描かれている。
本作品は、200cm✕180.7cmと巨大なキャンバスに描かれ、リヒターの創意工夫と素材の扱い方の巧みさが表れた、色鮮やかで視覚的にも豊かな作品だ。
予想落札価格:約28.5億円〜約39.9億円 ($25,000,000 – $35,000,000)
3) サイ・トゥオンブリー ≪Untitled≫
落札価格:約36億4,960万円 ($32,000,000)
画像引用:https://www.collezionedatiffany.com/
アメリカに生まれ、のちにイタリアで制作を行った画家 サイ・トゥオンブリーの作品が3位にランクイン。本作 ≪Untitled≫ は、彼のキャリアの中でも最も重要な時期にイタリアで描かれたもので、彼を20世紀の代表的な画家の一人にした独自の美的言語を見事に表現した作品だ。
透明な色彩の層を繊細に何度も上塗りしたキャンバスの上には、複数の不思議な図像が描きこまれ、トゥオンブリーの「ジェスチャー」によって作り出される詩的な美しさが表現されている。
予想落札価格:非公開
2) パブロ・ピカソ ≪Mousquetaire à la pipe II≫
落札価格:約39億5,868万円 ($34,710,000)
画像引用:https://www.mutualart.com/
再びピカソの作品がランクイン。晩年のピカソのキャリアを特徴付けるようになったテーマのひとつ「銃士」をモチーフとした作品。派手に着飾った印象的な銃士の像は、時にピカソ自身を表現するものでもあったという。
1960年代にレンブラントの作品を研究し始めたピカソは、その影響から自身を反映するような「銃士」のモチーフを描き始めたと言われているが、本作≪Mousquetaire à la pipe II≫が描かれた1968年は、その「銃士」への関心のピークの時期であり、このテーマに関連するピカソの多くの表現が含まれている。
予想落札価格:非公開
なお、落札価格トップ5のなかにピカソの作品が2作品ランクインしたが、本オークション全体では、ピカソのアーティスト人生の中でも様々なステージにある8つの作品が出品され、合計で約105.5億円 ($9,250万) 以上もの金額を記録している。
1) アンディ・ウォーホル ≪Jean-Michel Basquiat≫
落札価格:約45億7,243万円 ($40,091,500)
1982年にアンディ・ウォーホルによって制作された若き日のバスキアの肖像が本オークションの最高落札額となった。ポップアートの巨匠ウォーホルと、ニューヨークのアートシーンを牽引してきた天才バスキアだが、この貴重な作品が制作されたのは、バスキアの画家としての権威が最高潮に達した時期のものであり、ウォーホルの作品にも大胆な創意工夫が見られた時期のものだ。
本作品はウォーホルの「酸化絵画」のシリーズのうちの一作。同シリーズは、銅や金の塗料をキャンバスに塗り、ウォーホル自身か友人・アシスタントらにキャンバスに排尿させることで制作したもの。尿の酸がメタリック塗料と反応して酸化し、「抽象的なきらめき」を生み出している。
「酸化絵画」で描かれた中では、バスキアをモチーフとしたものが唯一の肖像画の作品として知られており、その姉妹作品の1つはピッツバーグのアンディ・ウォーホル美術館のパーマネントコレクションに、もう1つはバスキアと生涯を共にし、現在もバスキアの遺品となっている。
予想落札価格:非公開
また、同日のもうひとつのセール「The Cox Collection: The Story of Impressionism, Evening Sale」では、ゴッホの ≪Cabanes de bois parmi les oliviers et cyprès≫ が約81.4億円 ($71,350,000) と、この日の最高金額で落札されるなど、こちらも大きな話題を呼んだ。
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文:ANDART編集部