5分でわかる「戦略」と「戦術」の違い!経営戦略の落とし込み方も事例を交えて解説
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「戦略」と「戦術」は混同しやすい用語だが、実は全く異なる意味をもっている。この2つをうまく使い分けなければ、中長期的に経営状態を改善させることは難しい。ここでは戦略・戦術の違いや策定時のポイントなどを、事例を交えながら解説していく。

目次

  1. ビジネスにおける「戦略」と「戦術」の違いとは?
    1. 戦略の意味
    2. 戦術の意味
    3. 戦略と戦術の違い
  2. 戦略と戦術の違いを具体例で解説
    1. 経営戦略と経営戦術の違い
    2. マーケティング戦略とマーケティング戦術の違い
  3. 戦略・戦術と「作戦」はどう違う?それぞれの関係性もチェック
  4. 経営戦略を戦術に落とし込む方法
    1. 【STEP1】経営戦略の目的を明確にする
    2. 【STEP2】目的を達成する複数の手段を考える
    3. 【STEP3】リソースに合わせて、最も効率の良い手段を選ぶ
  5. 大企業の事例から学ぶ戦略・戦術のポイント
    1. 【事例1】コスト削減によるコストリーダーシップ戦略の実践
    2. 【事例2】複数の戦術によるブランド化やイメージアップ
    3. 【事例3】国内市場での生き残りをかけた集中戦略
  6. 中長期的な視点を意識し、効果的な戦略・戦術を組み立てよう

ビジネスにおける「戦略」と「戦術」の違いとは?

企業がビジネスを成功させるには、「戦略」と「戦術」をうまく使い分ける必要がある。同じような意味合いに見えるかもしれないが、厳密には異なる用語なので注意しておきたい。

戦略の意味

ビジネスにおける戦略とは、企業が持続的な成長を目指すための方向性や考え方のことだ。
言い換えれば、理想の企業像を目指すためのシナリオであり、中長期的な計画として策定されることが多い。

戦略は会社が進むべき道筋を決定づけるものなので、総合的な視点をもちながら組み立てることが重要になる。

戦術の意味

一方で、戦術は戦略を実現させる手段であり、「アクションプラン」や「タスク」とも言い換えられる。例えば、売上向上のために日々取り組む施策や、顧客を増やすためのマーケティングなどをイメージすると分かりやすい。

戦術はあくまで目的ではなく手段なので、策定の際には戦略をしっかりと意識し、一貫性のある計画を立てる必要がある。

戦略と戦術の違い

ここまで解説した内容も含めて、戦略と戦術の違いを一旦整理しておこう。

5分でわかる「戦略」と「戦術」の違い!経営戦略の落とし込み方も事例を交えて解説

戦略は戦術の上位概念であるため、策定の際には「戦略→戦術」の順で計画を立てる必要がある。この順序を間違えると、全体として一貫性や整合性のない計画が出来上がってしまうので、戦術を実行しても戦略の実現にはつながらない。

また、企業には戦略・戦術の両方が必要であり、どちらが欠けても持続的な成長は難しくなる。特に短期的な目標に目がいきがちな経営者は、戦術のみにフォーカスする傾向があるので、中長期的な戦略をきちんと立てることも意識しよう。

戦略と戦術の違いを具体例で解説

もう少し理解を深めるために、ここからは具体例を用いて戦略と戦術の違いを解説していく。

経営戦略と経営戦術の違い

経営戦略の策定では、最終的な企業目標を達成するための大まかなプロセスを決めていく。
具体的な決定事項としては、経営ビジョンや事業ドメイン、各機能の役割、経営資源の配分などが挙げられる。

一方で、経営戦術の策定では経営戦略を意識しながら、より具体的な施策を考えていく。例えば、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の調達方法や、さらに細かい資源配分(組織内への振り分け)をイメージすると分かりやすい。

マーケティング戦略とマーケティング戦術の違い

マーケティング戦略とは、マーケティングにおける具体的な目標を設定しながら、会社全体として目指すべき方向性を示すものである。実際の策定時には、「売上○%アップ」や「○%のコストダウン」のように数値目標を設定し、社内でその目標を共有することが多い。

一方で、マーケティング戦術はこれらの目標を達成するための手段であり、具体例としては「メディアの活用」や「SNS広告の導入」などが挙げられる。そのほか、売上アップを目指すための体制づくりや、物流システムの見直しなどもマーケティング戦術に含まれるだろう。

戦略・戦術と「作戦」はどう違う?それぞれの関係性もチェック

ここまでは戦略・戦術の違いを紹介してきたが、実は「作戦」も混同されやすい用語のひとつだ。作戦とは、戦略の成功を大きく左右するプロジェクトのことを指し、英語では「オペレーション(Operation)」と表される。

5分でわかる「戦略」と「戦術」の違い!経営戦略の落とし込み方も事例を交えて解説

戦略や戦術との関係性については、ピラミッドの構図にすると分かりやすい。視点・目標の大きさを元にそれぞれを並び替えると、上から「戦略→作戦→戦術」の順になる。つまり、企業が理念や目標を設定する際には、この順で計画を立てなくてはならない。

では、作戦には具体的にどのようなものがあるだろうか。上記のマーケティングを例にすると、新製品の開発計画や、事業の選択と集中などが挙げられる。また、市場での競争力が低い企業の場合は、ターゲット層や進出エリアをあえて絞る施策も作戦に含まれるだろう。

ただし、作戦は戦術との境界線が曖昧であるため、企業の理念や目標について語るときには「戦略・戦術」の2つに分けることが多い。会社やプロジェクトの規模がよほど大きくない限りは、ひとまず戦略・戦術の2つだけでも事足りるはずだ。

経営戦略を戦術に落とし込む方法

会社の基本方針となる経営戦略を策定したら、その内容を戦術へと落とし込む必要がある。具体的にどのような流れで落とし込んでいくのか、ここからはその基本的なプロセスを紹介しよう。

【STEP1】経営戦略の目的を明確にする

経営戦略に対応した戦術を策定するために、まずは「経営戦略の目的」を明確にする。例えば、「業界内でトップシェアを目指す」といった明確な目的があれば、競合他社の売上や市場シェアをもとに戦術を考えられるので、整合性のある戦略・戦術を策定しやすい。

ここで重要になるポイントは、できる限り具体的な目的を設定することだ。「会社を大きくしたい」などの抽象的な目的にすると、後に策定する戦術も曖昧なものになってしまう。

また、企業によっては戦略と戦術の立案者が異なる場合もあるので、誰が見ても理想の企業像が分かるような目的を設定していこう。

【STEP2】目的を達成する複数の手段を考える

経営戦略の目的を設定したら、次はその目的を達成するための手段を考える。ひとつの手段で目標を達成できるとは限らないため、この工程ではできる限り多くの手段を練ることが重要だ。

例えば、業界内でトップシェアを目指している場合は、以下のようにさまざまな角度から達成手段を考えていく。

・営業活動に力を入れて顧客を増やす
・他社には真似できない技術を確立する
・競争が激しくない業界へと移る
・商品の価格を一時的に下げて販売数を伸ばす
・他社と業務提携を結ぶ

なお、各手段を実現できるかどうかは次の【STEP3】で判断するため、まずは実現の可能性を意識せずにより多くの手段を書き出していこう。

【STEP3】リソースに合わせて、最も効率の良い手段を選ぶ

手段に関するアイディアを出し終えたら、次はその候補の中から最も効率が良いものを選んでいく。ただし、そもそも実現できなければ効果的な戦術とは言えないため、自社のリソースに合ったものを選ぶ必要がある。

例えば、資金や人材が限られている中小企業の場合、革新的な技術を自社だけで確立することは難しい。そのほか、適した相手企業が見つからないタイミングでの業務提携や、従業員に大きな負担がかかる営業活動なども望ましくないだろう。

また、仮に大きな効果を期待できるとしても、大きなリスクを抱えるような手段は避けたい。強引な値下げなど無理のある戦術を展開すると、社内のどこかにその歪みが生じてしまう。

このような流れで選んだ効率的な手段が、最終的には自社にとって適した戦術となる。

大企業の事例から学ぶ戦略・戦術のポイント

戦略・戦術の考え方については、大企業の事例も参考になる。多くの事例に目を通せば経験不足も補えるので、策定にあたって不安を抱えている場合はぜひ読み進めてほしい。

【事例1】コスト削減によるコストリーダーシップ戦略の実践

国内アパレル大手の『ユニクロ』は、世界中の市場でシェアを獲得するためにコストリーダーシップ戦略を実践した。コストリーダーシップ戦略とは、価格面で市場優位性を築く戦略であり、同社はコストを抑えることで安価な製品の提供を実現している。

同社がこのような戦略を実現できた背景には、「SPA」と呼ばれる戦術がある。これは、商品の販売まで(企画・生産・物流・販売)を自社だけで行う手法であり、ユニクロはこのSPAによって大幅なコスト削減に成功した。

経営資源が豊富な大企業ならではの戦術ではあるが、戦術が戦略に結びついている点はぜひ参考にしたい。コストを抑えることはあくまで手段であり、同社は「安価な製品の提供」という目的を見事に達成している。

【事例2】複数の戦術によるブランド化やイメージアップ

大手コンビニチェーンである『ローソン』も、巧みな戦略・戦術を実践している企業である。

国内のコンビニと言えば『セブンイレブン』や『ファミリマート』も有名だが、ローソンはこれらの企業に対抗するために差別化戦略を打ち出している。では、他社との差別化を図るためにどのような戦術を展開しているのか、以下で一例を紹介しよう。

・健康関連商品のラインナップを充実
・合成保存料を使用しない
・国産の原料への強いこだわり

つまり、ローソンは「健康志向」という点に目を向けて、他社にはない独自の商品・サービスを展開してきた。そのイメージは着実に広がっており、今では高品質な商品を求める顧客ニーズにも応えている。

経営戦略によってブランド化やイメージアップを図りたい場合は、この事例のように複数の戦術を打ち出す方法も効果的だ。ただし、戦術が多いほど戦略との整合性を保つことは難しくなるため、その点に注意しながら戦略・戦術を考えていきたい。

【事例3】国内市場での生き残りをかけた集中戦略

国内大手の自動車メーカーである『スズキ』は、国内市場で生き残るために「集中戦略」に取り組んでいる。

集中戦略とは、進出する市場や地域、ターゲットをあえて絞り、特定の顧客のみを引き入れる戦略のこと。スズキは一般的な形の乗用車だけではなく、トラックやワゴンの開発にも力を入れることで、一部の顧客ニーズに応え続けてきた。また、同社はインド市場にも進出をしており、いまやインドで走る自動車の半分はスズキ車と言われている。

スズキは国内最大の自動車メーカーではないが、その立場を自覚することで効果的な戦略・戦術を打ち出している良い例だ。仮に優れた競争力や経営資源がなくても、同社のように工夫をすれば業界で生き残ることが可能になる。

中長期的な視点を意識し、効果的な戦略・戦術を組み立てよう

今回紹介した事例のように、戦略・戦術の策定は競争力のアップにつながる。ただし、規模の小さい企業は戦術のみに目がいきがちなので、まずはきちんとした戦略を立てることから取り組みたい。

中長期的な視点も忘れずに、一貫性や整合性のある戦略・戦術を組み立てていこう。

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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