

クラウド型会計システムに「使いやすそう」「便利で効率的」といった印象があるかもしれないが、機能の特徴を踏まえて導入することが大切である。今回は、中小企業におすすめのクラウド会計システムとして「Money Forwardクラウド」「freee」「弥生会計オンライン」の3つを機能や料金などで比較。クラウド型会計システムの一般的なメリット・デメリットを解説する。
目次
中小企業におすすめのクラウド会計システムは?
クラウド会計システムの特長は、簿記会計になじみのない人でも使いやすいという点だ。例えばインターネットバンキングやクレジットカードと連携して明細を自動取得して自動仕訳を行う機能は、クラウド会計システムであれば、ほぼデフォルトで備わっている。またインストール型でも明細をデータ化して取り込めば自動仕訳は可能だ。
今回は「Money Forwardクラウド」「freee」「弥生会計オンライン」の3つのクラウド会計システムを比較する。いずれも自動仕訳などクラウド会計システムのメリットを備えたクラウド会計システムの中でも人気の高いシステムだ。今回は、「あえてこの3つからどれを選ぶか」という視点で以下の点に着目してどういった事業におすすめなのか比較および考察していく。
- それぞれの機能の特徴
- 手動の仕訳入力はどうなのか
- 料金はどう違うのか
Money Forwardクラウド
Money Forwardクラウドは、株式会社マネーフォワードが運営するクラウド会計である。同社のHPによると対象は「1〜500名規模の法人・個人事業主」だ。比較的規模の大きい事業にも対応する意向があることがうかがえる。
Money Forwardクラウドの機能
・自動仕訳の機能
Money Forwardクラウドでは、インターネットバンキング、クレジットカード、POSレジデータなどと連携し各明細データから自動で仕訳を行うことが可能だ。自動仕訳は、内容を確認したのち登録を行うがMoney Forwardクラウドに関しては、その際に複数の仕訳を一括登録する機能がある。
・手動仕訳の機能
手動で仕訳を入力する場合は、「簡単入力」「振替伝票入力」「仕訳帳入力」「取引から入力」の4つから入力方法を選択可能だ。インストール型の会計ソフトと遜色のないバリエーションで経理初心者から経験者まで使えるクラウド会計といえるだろう。それぞれの特徴は以下の通りである。
・簡単取引
現金などの収支から項目に沿って入力する方法で初心者向け。
・振替伝票入力
伝票から借方・貸方に勘定科目や金額を入力するオーソドックスな入力方法で経験者向け。
・仕訳帳入力
仕訳を連続的に入力する方法で経験者には使いやすい。
・取引から入力
取引先などからシステムが勘定科目を推測してくれる方法で同じ取引先から請求書が小分けで届く場合など特定のケースで役立つ。
Money Forwardクラウドの会計以外の機能
Money Forwardクラウドは、会計システムのほかに以下の5つのサービスプランがある。
- 個人の確定申告
- 請求書管理システム
- 経費精算システム
- 給与計算システム
- マイナンバー管理システム
最安の会計プランを契約すれば、これらをすべて利用可能だ。従業員など利用対象者の数によって追加料金が発生することがあるが5人以下であれば追加料金なしですべてのシステムを利用できる。(2019年10月時点)これらのデータもMoney Forwardクラウドのクラウド会計と連動させることができるため重宝するだろう。
Money Forwardクラウドの料金
Money Forwardクラウドで中小企業におすすめのプランは、以下の通りである。(2019年10月時点)
法人 | スモールビジネス (小規模の法人向け) |
月額:3,980円 年額:3万5,760円(1ヵ月あたり2,980円) |
---|---|---|
ビジネス (複雑な会計や請求書発行が多い法人向け) |
月額:5,980円 年額:5万9,760円(1ヵ月あたり4,980円) |
|
個人 | パーソナルライト (個人事業主向け) |
月額:1,280円 年額:1万1,760円(1ヵ月あたり980円) |
パーソナル (請求書発行の多い個人事業主向け) |
月額:2,480円~ 年額:2万3,760円(1ヵ月あたり1,980円) |
|
パーソナルプラス (電話サポートを受けたい人向け) |
年額:3万5,760円(1ヵ月あたり2,980円) |
※上記の金額はすべて税抜き。
Money Forwardクラウドの料金は、後述する2つの会計ソフトよりやや高額だ。ただし法人向け最安のスモールビジネスや個人事業主向けのパーソナルライトプランから前述する複数の機能をすべて利用できる。そのためこれらが必要な事業にとっては割安といえるだろう。なお単体プランの契約が例外的に認められるケースもある。
freee
freee株式会社が運営するクラウド会計ソフトでスモールビジネスの支援を掲げている。同社HPによると2018年3月時点で導入事業所数は100万事業所に達しているとのことだ。
freeeの料金
freeeはプランによって使える機能が変わるため、先にプランと料金から紹介する。中小企業におすすめのfreeeのプランは以下の通りだ。
法人 | ミニマム | 月額:2,380円 年額:2万3,760円(1ヵ月あたり1,980円) |
---|---|---|
ベーシック | 月額:4,780円 年額:4万7,760円(1ヵ月あたり3,980円) |
|
プロフェッショナル | 月額:4,780円 年額:47万7,600円(1ヵ月あたり3万9,800円) |
|
エンタープライズ | 要問い合わせ | |
個人 | スタータープラン | 月額:980円 年額:9,800円(1ヵ月あたり約817円) |
スタンダードプラン | 月額:1,980円 年額:1万9,800円(1ヵ月あたり1,650円) |
|
プレミアム | 年額:3万9,800円(1ヵ月あたり約3,317円) |
※上記の金額はすべて税抜き。
グレードの高いプランとして法人にはプロフェッショナルプラン(年額47万7,600円)、やエンタープライズプラン、個人にはプレミアムプラン(年額3万9,800円)がある。
freeeの機能
・自動仕訳の機能
freeeにおいても外部データとの連携による自動仕訳機能がついている。例えばインターネットバンキングやクレジットカード、電子マネーなどさまざまな決済サービスの情報と同期させて自動で仕訳を推測してくれるのだ。推測された仕訳は、パソコンのほかスマートフォンからも登録作業を行うこともできる。
さらに慣れれば「自動登録ルール」の設定によって取り込んだ明細の仕訳を自動登録する設定に変えることも可能だ。もし定型の引き落としのみの口座に適用すれば経理のさらなる効率化が図れる。
・手動仕訳の機能
手動による入力方法は、現金収支を「決済済み」「未決済」に分けることが必要だ。項目に沿って入力することで仕訳を作成する方法やレシート類をスキャナやスマホ撮影で画像データにしfreeeの「ファイルボックス」に取り込むことで仕訳を提案してくれる方法などがある。(個人のスタータープランでは保管できる画像数に制限あり)借方・貸方で仕訳を行う方法になじみがない人でも使いやすい機能といえる。
freeeの会計以外の機能
法人設立に関する税務署などへの届出書類の無料作成機能があり開業時の書類の作成方法がわからないときにおすすめ。また個人・法人ともに消費税申告書の作成に対応している。(個人のスタータープランを除く)給与計算などは「人事労務freee」という別システムの使用が必要だ。経費精算については、会計システムのオプションで法人はプロフェッショナルプラン以上、個人はプレミアムプランを契約することで利用できる。
弥生会計オンライン
インストール型会計ソフトが有名な弥生会計のオンライン版である。公式HPによると弥生会計とパートナーシップを結ぶ税理士・会計事務所数は9,000件(2018年9月末時点)だ。専門家の間でも知名度および信頼ともに高い製品である。
弥生会計オンラインの機能
・自動仕訳の機能
弥生会計オンラインの自動仕訳は、「スマート取引取込」と呼ばれる機能で「YAYOI SMART CONNECT」というシステムによって外部データと弥生会計のソフト(インストール版も含む)を連携させる。インターネットバンキングやクレジットカード、POSレジシステムの売上データなどさまざまな外部情報と連携することが可能だ。Money Forwardクラウド同様に複数の仕訳を一括して登録することができる。
・手動の仕訳機能
手動での入力は、「かんたん取引入力」と「仕訳の入力」を選択可能だ。「かんたん取引入力」は、「収入」「支出」のどちらかを選び項目に沿って入力すれば仕訳が完成する方法である。freeeの機能に近く借方・貸方で仕訳を行う方法がわからない間のサポートになるだろう。一方「仕訳の入力」は、借方・貸方で勘定科目や金額を打ち込む入力に慣れた人向けの機能といえる。
・弥生オンラインは法人専用
弥生会計のクラウド会計システムには以下の3つのサービスがある。
・弥生会計オンライン
・やよいの青色申告オンライン
・やよいの白色申告オンライン
弥生会計オンラインは法人対応、それ以外は個人事業主対応だ。なお「スマート取引取込」「かんたん取引入力」「仕訳の入力」の機能は、個人事業主向けのソフトでも使える。
弥生会計オンラインの会計以外の機能
弥生会計オンラインは、会計のみの機能となるため注意が必要だ。請求書の発行や給与計算まで行いたい場合は「Misoca」や「やよいの給与明細オンライン」を検討しよう。
弥生会計オンラインの料金
弥生会計オンラインの料金は以下のとおりである。Freeeよりやや高めだが、料金と機能のバランスが良いと言える。
法人 | セルフプラン | 年額:2万6,000円 (1ヵ月あたり約2,166円) |
---|---|---|
ベーシックプラン | 年額:3万円 (1ヵ月あたり2,500円) |
|
弥生の青色申告 オンライン |
セルフプラン | 年額:8,000円(1年目は無料) |
ベーシックプラン | 年額:1万2,000円(1年目は6,000円) | |
弥生の白色申告 オンライン |
フリープラン | 無料 |
ベーシックプラン | 年額:8,000円(1年目は4,000円) |
※上記の金額はすべて税抜き。
ちなみにセルフプランとベーシックプランの4,000円の差は機能ではなく電話やメール、チャットサポートなどが受けられるかどうかである。
3サイトの比較
Money Forwardクラウド | freee | 弥生会計オンライン | |
---|---|---|---|
法人/個人の対応 | 【決算】 法人・個人 【税務申告】 個人 |
【決算】 法人・個人 【税務申告】 個人 消費税(プランによる) |
【決算】 法人 【税務申告】 なし (個人は「やよいの青色(白色)申告オンライン」を契約) |
操作の特徴 | ・自動仕訳の一括登録可能 ・入力機能が多様(初心者向けあり) |
・自動仕訳の自動登録可能 ・初心者向けの入力機能が中心 |
・自動仕訳の一括登録可能 ・入力機能が多様(初心者向けあり) |
その他特徴 | ・請求書管理、経費精算、給与計算、マイナンバー管理の機能が使える | ・法人設立書類の無料作成サービスがある ・一部を除き、消費税の確定申告に対応 |
・知名度が高い ・料金、機能ともにバランスが良い |
金額(最安値) | 【法人】 月額:3,980円~ 年額:3万5,760円~ 【個人】 月額:1,280円~ 年額:1万1,760円~ |
【法人】 月額:2,380円~ 年額:2万3,760円~ 【個人】 月額:980円~ 年額:9,800円~ |
【法人】 年額:2万6,000円~ 【個人】 無料~ |
公式HP | https://biz.moneyforward.com/ | https://www.freee.co.jp/ | https://www.yayoi-kk.co.jp/products/account-ol/index.html |
3つの会計ソフトに向いている事業
・従業員を雇う予定の方
従業員を雇い、今後、給与計算、経費精算、マイナンバー管理など複数のサービスを使う予定があればMoney Forwardクラウドがおすすめである。逆に不要なシステムがある場合や、部分的に他のソフトを導入しているなどの状況があれば他の2つの方が安価となるので注意が必要だ。
・「決算と確定申告ができればよし!」という人
「とにかく決算と確定申告ができればよい」「難しい機能はいらない」という個人事業主は、freeeがおすすめ。freeeであればクラウド会計システムの利便性はもちろん、簿記の知識がなくとも入力しやすい点や安価な利用料が魅力だ。
・自動仕訳をフル活用したい人
定型の取引が多い事業でインターネットバンキングを使用していれば、どのクラウド会計システムでも効率的に経理ができるよう工夫されている。その中で、あえて1つ決めるならfreeeの「自動登録ルール」の設定が魅力的だ。「自動登録ルール」を設定することにより明細データを自動で登録することができ経理の効率化が図れるだろう。ルールの設定にやや時間がかかるが効果は期待できる。
・経理経験者がいる事業
経理に慣れた人にとっては、初心者向けの入力画面はかえって使いづらいため、さまざまな入力ができるMoney Forwardクラウド、弥生会計オンラインがおすすめである。
・迷ったら弥生会計オンライン
料金や機能のバランスが良いのは、弥生会計オンラインだ。どのような事業でも過不足なくサポートを受けられる。税理士・会計事務所などで利用者が多いことも特徴だ。
クラウド会計システムとインストール型の会計ソフトのメリット・デメリット
クラウド会計システムを本当に有効に活用するには、インストール型にないメリットとデメリットを知ることが大切だ。ここではクラウド会計システムの一般的なメリット・デメリットを解説する。
クラウド会計のメリット・デメリット
<メリット>
・経理初心者にやさしい
クラウド会計には、経理初心者でも仕訳を入力しやすい工夫が凝らされているものが多い。また外部データと連携させて自動仕訳を行う機能が備わっているため、経理初心者でも短時間で仕訳の入力ができることが期待できる。
・アップデートが自動
税率の改正などが行われても運営者側のアップデートで対応してくれる。
・どこからでもアクセスできる
クラウドは、時間や場所を選ばずインターネット環境さえあればアクセスできることがメリットだ。外出先における分析データの確認や会計処理や経費の精算なども可能である。
・データを共有できる
クラウド上のデータは関係者間で常に共有できるため、顧問税理士などにアクセスしてもらい、仕訳を確認してもらうことも可能である。記帳の外注もできるため、育休中の職員にリモートワークで復帰してもらうこともできるかもしれない。
・パソコンに何かあってもデータを守れる
災害等で会社のパソコンに万が一のことがあってもデータがクラウド上に保管されているため、会計データを失うおそれがない。
<デメリット>
・インターネット環境に左右される
インターネット環境によっては画面の切り替わりが遅かったりデータの取得に時間がかかったりする場合がある。契約前に無料プランなどで動作を確認するとよい。
・対応していない決済ツールもある
クラウド会計はすべての金融機関やクレジットカード、電子マネーなどに対応しているわけではない。現在、事業で使用する決済ツールが購入を検討しているクラウド会計に対応しているか、個別に公式HPで確認する必要がある。
・セキュリティ面に注意が必要
オンライン上のシステムのため、IDとパスワードが流出すると不正アクセスを受ける可能性は否めない。「パスワードの使い回しをしない」「フィッシングメールに注意する」など基本的な自己防衛が必要である。
インストール型の会計ソフトのメリット・デメリット
<メリット>
・オフラインでも使用できる
インストール型の会計ソフトは、インターネット接続にトラブルがあってもソフトを起動し入力を続けることができる。
・通信状況に左右されない
画面の切り替え時などにインターネット接続による負荷がないため、スピーディに入力できる。
・一度購入すればコストがかからない
インストール型の会計ソフトは、最初に購入すれば、あとは自由に使用できる。クラウド会計のように月額料金を支払う必要はない。
<デメリット>
・インストールしたパソコンでしか使えない
インストールしたパソコンでしか利用できないため、デスクトップパソコンで利用している場合は外出中にデータを確認したり入力したりすることはできない。
・税理士などとデータを共有できない
データの共有ができないため顧問税理士などに確認してもらう際は、基本的に訪問やメール、チャットなどでコンタクトをとるのが必要だ。さらに確認・修正してもらった後、データを再度返送してもらうといった手間が必要になる。
・改正に自動対応できない
税務会計に関する改正が行われた場合は、利用者側で新しいものをインストールするなどの作業が必要である。
クラウド型会計システムは便利かどうかをよく検討してから
クラウド型会計システムは、外部データの連携や共有など便利な機能が多いがインストール型にはない不便さも抱えている。また外部データとの連携機能を活用しない場合は、あまりメリットはない。まずは本当に自分が行っている経理業務をクラウド型会計システムが便利にしてくれるのかを検討し、そのうえでソフト選びを行うことが賢明だ。
文・中村太郎(税理士)