森永製菓代表取締役社長・太田栄二郎,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

No1の「チョコモナカジャンボ」~パリパリ感を徹底追求~

アイスの売り上げは右肩上がりで、いまや市場規模は5000億円以上。そんなアイスの王者に君臨するのが「チョコモナカジャンボ」。アイス全体で7年連続売り上げNo.1(2020年1月~12月 日経POS情報 レギュラーアイスカテゴリー調べ)。国内で年間およそ2億個と、実に0.16秒に1個売れている。

「2位の商品とは売り上げ1.5倍の大差で圧倒的人気の商品です」(ベルク フォルテ森永橋店・内田尚希店長)

つくっているのは森永製菓。1899年創業の老舗メーカーで、ほとんどの商品が50年以上続く超ロングセラーだ。

黄色い箱でおなじみの「ミルクキャラメル」は1913年発売。誕生から100年以上経った今もファンが多い。やはり半世紀以上に渡って人気なのが1967年発売の「チョコボール」。さらにソフトギャンディの草分け「ハイチュウ」(1975年発売)やシュワシュワ食感が楽しい「ラムネ」(1973年発売)もある。

「子供だったお客さまが大人になっても購入していただいてる。そして今度は自分の子供のために買われる方が多いです」(ライフ 神田和泉町店食品担当・関悠太さん)

1972年発売の「チョコモナカジャンボ」(発売当初の商品名は「チョコモナカ」)も来年50歳を迎えるロングセラーだ。ちなみに最初は普通のバーアイスの大きさだった。その後、真ん中にチョコをはさんだ今のスタイルに。そして96年、1.5倍サイズのジャンボに進化した。

このアイスの人気の最大の理由が「パリパリ」という割った時の音。この「パリパリ」に森永は並々ならぬこだわりを持っている。

神奈川・大和市にある森永エンゼルデザート工場。パリパリを生み出す第一の秘密はモナカの皮にある。皮の内側に吹き付けているのはチョコだ。

「モナカの表面にチョココーティングをすることによって、バニラクリームを充填した時に水分をブロックする。満遍なくチョココーティングすることがパリパリ感を1日でも伸ばすことになります」(製造部・藤井健也)

通常のモナカアイスは皮にアイスが直接つくから、水分が皮に移ってしんなりしてしまう。そこで、皮の内側をチョコでコーティングすることで水分をブロックしているのだ。

その皮にバニラクリームを入れて口溶けの良さにこだわったチョコをかけていく。その上からさらにたっぷりのバニラクリームを。最後に皮をかぶせて完成だ。しかし、「パリパリ」へのこだわりはここからが本番だという。

実はほとんどのアイスクリームには賞味期限が設定されてない。多くのアイスは、オフシーズンの冬に大量に作られて冷凍倉庫に保管。夏になったら一気に出荷されていく。しかし、「チョコモナカジャンボ」はアイス業界の常識を覆した。

「『チョコモナカジャンボ』は製造してから5日を目安に店頭にお届けします。在庫が多いと鮮度が悪くなるので、必要な時に作り、必要でない時には製造を止める」(藤井)

作りだめせず、欠品も出さない。それには生産量の見極めが重要。そこで森永は「日本気象協会」とタッグを組んでいる。

モニターに映し出されていたのは1週間ごとの予想気温と、それに合わせた「チョコモナカジャンボ」の出荷量予測。日本気象協会は、過去の気温と販売データを分析。今後の予想気温から「チョコモナカジャンボ」の1週間ごとの需要を予測しているのだ。

例えば、8月9日の週の予測平均気温は前年より3度ほど低い。それをもとに、「チョコモナカジャンボ」の需要も前年より12%落ちると予測した。

生産量を決める要素はこれだけではない。テレビCMの量や販促イベントも需要に大きく影響する。そこで営業担当とも連携。「今週は大きな販促がないので、需要が伸びない」などの情報を踏まえて生産量を減らすことに決め、すぐさま製造部門へ伝える。

出荷した後も「パリパリ」にこだわる。研究所研究員・渡辺裕之が、買ってきた「チョコモナカジャンボ」の皮を削り、機械に入れた。「最終的に売り場でどこまでパリパリ感が保たれているかを水分計で図っています」と言う。一般的なモナカアイスの皮の水分値は15から20%なのに対して、「チョコモナカジャンボ」は5.5%だった。

会社の総力をあげて「パリパリ」にこだわっているのだ。

森永製菓代表取締役社長・太田栄二郎,カンブリア宮殿
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派生商品で客を飽きさせない~ブランドエクステンション

2019年に社長に就任した太田栄二郎(62)には確固たる商品戦略がある。

「他社にもブランドはあるが、森永製菓は120年の歴史があってブランドも多い。歴史でつくってきたブランドは大事にしたいですね」(太田)

 新商品の開発はもちろんだが、ロングセラーを数多く持つ強みを活かし、定番商品を進化させていくというのだ。

「ブランドエクステンションと社内では呼んでいますが、ブランドを磨いて、『ハイチュウ』だと『ハイチュウプレミア』を作ったり、『チョコボール』だと『大人のチョコボール』を作ったり」(太田)

ブランドエクステンションとは、既存のブランドを使って新たな商品に進化・拡張させていく戦略。例えば、1975年発売の「ハイチュウ」は、噛めるキャンディというこれまでにない食感で人気になった。これをブランドエクステンションで進化させる。

「ハイチュウプレミアム」は素材と食感をよりグレードアップした大人向けの「ハイチュウ」。大人向けとなるとアピールポイントも変わってくる。「瀬戸内産のレモンパウダーを使い、本格的なレモンの味わいに変えたことをより強く押し出す」といった議論を積み重ねて、ブランドを進化させているのだ。

一方の「チョコボール」。ピーナッツにサクサクの衣、その上にチョコがかかった新しいお菓子は子どもたちの心をつかんだ。それがコロナ禍の去年、新商品「チョコボールのなかみ」になった。誕生のきっかけは工場の従業員たちだった。

「チョコをかける前の段階のものに塩をかけて食べていました。『おいしいよね』『これを商品にしたらいいよね』と」(小山工場・島田昌昭)

これを聞いた本社は商品化を決定。発売すると、コロナ禍での家飲みのおつまみにピッタリだと、たちまち人気となった。

「『パッケージを見た時はうれしかったです。我が子が旅立って行ったみたいな」(島田)

「チョコボール」といえば、金や銀のエンゼルマークを集めるともらえる「おもちゃのカンヅメ」。これを欲しさに買った人も多いはず。最新の「おもちゃのカンヅメ」はマスコットキャラクター「キョロちゃん」の形。見た目だけでなく動くのだ。ちなみに中身のおもちゃは「絶対に秘密です。当たった人だけ中身を知ることができるのは発売当初から。社長も知らない」と言う。(菓子マーケティング部・武田優太)

売上高約2000億円、社員数2825人。森永製菓はロングセラーを武器にいつの時代も挑戦を続ける。

「時代時代のお客さまに選ばれ続けるような仕掛けをする。それを積み重ねてここまできたので、ブランドは絶やさない」(太田)

森永製菓代表取締役社長・太田栄二郎,カンブリア宮殿
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日本初のキャラメルを製造~お菓子のパイオニア企業

森永製菓代表取締役社長・太田栄二郎,カンブリア宮殿
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横浜市にある森永製菓研究所で変わった研究をしている人がいる。優雅にクラシック音楽をかけながら、チョコとワインを口に。

「ワインとチョコレートと音楽のトリプリング(3つの組み合わせ)を。ペアリングでは飲み物とチョコレートの相性を見ますが、トリプリングはさらにプラスアルファで、今日は音楽を合わせています」(研究員・小野隆)

研究してきたワインとチョコの相性は、実際に売り場で、どのワインにどのチョコが合うかを客に提案するのに、生かされてきた。今はさらに踏み込んで、音楽も加えた相性の研究に取り組んでいるというわけだ。

こうした未知の分野への挑戦こそが森永製菓のDNAだという。

森永製菓の創業者・森永太一郎は明治時代の半ば、西洋の菓子づくりを学ぶためアメリカへ。11年間の留学を経て帰国すると、1899年、東京・赤坂に小さな工場を構える。アメリカ仕込みのレシピで1913年、缶入りの国産キャラメルを発売するが、あまり売れなかった。当時の日本人はバターやミルクの味に慣れていなかったのだ。

そこで太一郎は、乳原料を減らして風味づけを工夫。さらに、湿気でべたべたするのを防ぐため、1粒ずつワックスペーパーで包んだ。そして当初缶入りだったパッケージを、手軽に買える紙箱に替えた。こうした工夫で人気商品に仕立て上げたのだ。

キャラメルだけではない。1918年に日本で初めてカカオ豆から一貫製造するチョコレートを生み出し、1923年には高級品だったビスケットを手頃な菓子として発売した。

さらには業界に先駆けて食品衛生にも取り組み、白衣に帽子の制服を採用。また、従業員の健康も考えて、いち早く8時間労働制も取り入れた。

森永製菓代表取締役社長・太田栄二郎,カンブリア宮殿
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「栄養価の高いお菓子を」~健康にいい商品も進化

森永太一郎が西洋菓子を広めようとしたのには大きな理由があった。

「日本の人々に栄養価の高いおいしいお菓子を届けたい、と」(太田)

当時の日本は栄養状態が悪く、カロリーも不足していた。太一郎はお菓子の栄養面を知らせようと、キャラメルの箱に「滋養豊富」の文字を入れ、チョコレートのポスターには「今後の保健に重大なり」と謳った。

創業者の思いが受け継がれたのか、ここ数年、健康面で再評価される商品も出ている。

そのひとつが酒や砂糖などの調味料代わりとしても使われる「甘酒」(1974年発売)。そもそも甘酒には多くの栄養素が含まれ、「飲む点滴」とも呼ばれて注目されている。

森永の「甘酒」が選ばれる理由は、「2つの発酵素材が同時に取れる」(研究員・尾形朋美)から。米麹と酒粕の2つの発酵素材がブレンドされているため、体に優しく、味付けも手軽で肉も柔らかくしてくれるという。コロナ禍で家庭での食事が増えた今、時短で健康料理を作ってもらおうと、甘酒を使った様々なアレンジレシピの提案もしている。

子供に人気の「ラムネ」は、東京大学構内の売店でよく売れているという。

「『大粒ラムネ』が学生さんに人気です。特に試験前は、通常の2~3倍ほど売れました」(駒場購買部店長・杉田豊さん)

その秘密はラムネの甘さ成分のブドウ糖。ブドウ糖は脳が働くための唯一のエネルギー源で、森永ラムネでは90%がブドウ糖だ。2018年、ブランドエクステンションでそれをアピールした「大粒ラムネ」を売り出したところ、受験生やビジネスマンなど、大人の間で大ヒットとなった。

健康を意識した森永商品の代表格が1994年発売の「inゼリー」。当初は「10秒でとれる朝ごはん」をうたったが、今ではさまざまな用途に合わせて11種類に増えた。

最近は新たに進化した商品が開発された。それが「inゼリー 完全栄養」(発売未定)。タンパク質やミネラルなど30種類以上の栄養成分が入っている。余計な情報は入れず、パッケージも超シンプルにした。

「創業者がチャレンジしてきたんです。その風土は120年経つと安定的になるので、そこをもう1回見直したい」(太田)

森永製菓代表取締役社長・太田栄二郎,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

創業時から引き継ぐDNA~失敗を恐れぬチャレンジ魂

「冷やし甘酒」は太田が北海道支社にいた頃、自ら手がけた商品だ。

「冬に売れる甘酒を夏にも売りたいと。(当時は)売れなかったですね」(太田)

その北海道時代が太田にとって大きな転機となった。太田は41歳の時、北海道の3つの支店を統合した初代統括支店長に抜擢された。

「統合前の支店長がみんな年上で、言うことを聞かないんです。『なんだこいつは』『若造が』みたいな……」(太田)

社員たちも統合によって慣れない仕事に戸惑い、大混乱。売り上げは大きく下がり、太田は焦っていく。

「『目先の売り上げをとってこい』みたいな最悪のパターンです。値引きなど条件をつけて問屋さんに売るわけです。チョコボールとかを無理して売る。買ってくれと」(太田)

問屋に商品を押し付けると、一時的に売り上げは上がるものの、問屋の在庫が増える。結果、翌月には発注が来なくなるという悪循環に陥った。

そんなピンチの太田を救ったのが、本社からやってきた専務の言葉だった。

「目先に利益に走っていたので『何をやっているんだ』と??られました。『新しいことに失敗を恐れずチャレンジして仕組みを考えろ』と。その後、『北海道の売り上げが半分になっても会社は潰れない』と言われて、その言葉がすごく残っています」(太田)

一方、森永製菓で今も語り継がれる太田の大失敗があるという。

それは2012年、太田が営業本部長だった頃のこと。太田はアイスクリームの強化を模索しており、「お酒を飲んだ後に食べるウコンのアイス」を提案する。当時、二日酔いに効くと、ウコンのドリンクがブームとなっていた。

太田は周囲の反対を押し切り「ウコンアイスバー」を発売した。

「全く売れなかったですね。生産した半分も売れない。悲しいくらい売れなかった。でも『新しいことにチャレンジしよう』と、今でも社内で自慢話にしています」(太田)

森永製菓代表取締役社長・太田栄二郎,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

~村上龍の編集後記~

あのエンゼルマークを見ると幸福な感じになる。食べる人の幸福を真剣に考えてきた企業なのだとわかる。ミルクキャラメルの商品化には15年かかっている。明治から大正にかけての15年は長い。だが創業者は妥協しなかった。太田さんは、目先を追わないという森永のモデルを作ったが、ウコンアイスでは失敗した。ウコンアイス、酒飲みのアイデアだ。まったく売れなかった。だがそれをジョークで話せる太田さんはすごい。他に失敗が見当たらないのだ。

<出演者略歴>
太田栄二郎(おおた・えいじろう)1959年、兵庫県生まれ。1982年、同志社大学商学部卒業後、森永製菓入社。取締役営業本部長、専務執行役員などを経て、2019年、代表取締役社長に就任。

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