金融庁は令和4年度予算案の概算要求に「経済安全保障室」の新設費用を盛り込んだ。国際化した金融取引と複雑化する国益の対立構造を踏まえ、安全保障の観点から金融機関への指導体制を強化する。具体的にはシステム関連機器の調達先、基幹系システムへのサイバー攻撃に対する対策、金融取引情報の管理体制などが監督対象となる。
言うまでもなく、背景には米中対立の深刻化、国際情勢の緊迫化がある。とりわけ、こうした状況にあって制裁措置の強化をはかる米国ルールへの対応も課題の一つだ。
米国は財務省外国資産管理局(OFAC)による規制の実効性を高めるべくその適用範囲を厳格化する。規制の目的は米国が制裁対象とした国家、法人、個人の資金の流れを断つことだ。したがって、制裁対象のみならず取引相手も規制の網にかかる。例え、子会社を介した間接取引であっても、多額の罰金や資産凍結、米金融機関との取引停止といった制裁が科される。つまり、外国企業との取引や、M&A、投融資等に際しては、相手側の資本関係や取引関係まで確認する必要があるということだ。新組織には“監督”業務に止まらず、リスク情報の収集、評価など“攻め”の危機管理サービスを期待したい。
2015年、習近平氏は「軍民融合発展」を宣言、外国企業からの技術移転政策を強力に進める。もはや輸出品目を管理するだけでは手に負えなくなりつつある現実を受け、経済産業省は、2019年6月、「経済安全保障室」を新設、先端分野を中心とした重要技術の流出防止体制を強化する。一方、2020年8月には外務省も総合外交政策局内の組織改編を実施、「経済安全保障政策室」を立ち上げた。
8月31日、外務省の経済安全保障政策室が職員募集の案内をHPにアップした。職務内容は「各国における産業、科学技術、情報通信、貿易、投資、サイバーセキュリティ等における経済安全保障政策に関する情報の収集、分析、政策の企画・立案」(一部)である。外務省、経産省、金融庁、それぞれの「経済安全保障」チームの役割と権限は異なるのだろう。とは言え、少なくとも外務省の職員募集要項を見る限り、機能重複の懸念は拭えない。
経済安全保障に関する上位機構は内閣官房の国家安全保障局であろうか。であれば、このレベルにおける戦略的司令塔の強化が必要である。外交、産業、金融分野において一貫性のある施策を迅速に展開するためにも意思決定の一元化と責任主体の明確化が求められる。
今週の“ひらめき”視点 8.29 – 9.2
代表取締役社長 水越 孝